第10話 俺たちの命は女子高生のお小遣い以下

 ラシーヌ学園の遺跡救助部(仮)の部室。

 

 俺たちの前には、ブレザーの制服を着た井上いのうえ亜沙乃あさのがビシッと指をさしたまま。


「確認したい! この学園にいる分には、先輩後輩でいいが……。遺跡や危険地帯に出るのなら、リーダーを決めなければならないぞ?」


 俺の問いかけに、亜沙乃は顔だけ向けた。


「え? 私でしょ?」


 ネネッタと凛良りら・デ・ロヴァーンが即答する。


「ないですね」

「うん、ない……」


 首をかしげた亜沙乃は、困惑する。


「私、強いよ?」


「2級の入口付近でガードロボに壊走する人には、命を預けません」

「あなたは強いかもしれないけど、まともな指揮ができるとは思えない」


 不満げに唸った亜沙乃は、俺を見つめる。


「却下だ! 遺跡に潜ることは常に命懸けだ」


 ショボンとした亜沙乃が、指を下ろした。


 ここで、折衷案を出す。


「俺がリーダーであれば、しばらく面倒を見てもいいぞ? その段階もクリアできないようでは、遺跡に潜ることも許可できん」


 パッと顔を輝かせた亜沙乃。


「いいの!?」


「お前の父親に頼まれたこともあるが……。放っておけば、お前は勝手に突っ込んで、勝手に死ぬ! その前に分からせておくことも、先達せんだつの役目だろう」



 ――5級の遺跡「商店街」


 壊れたアーケードの屋根は、もはや風雨をさえぎることはない。

 左右に立ち並ぶ住居を兼ねた店舗の列は、左右で錆びたシャッターやこじ開けられた入口をぽっかりと開けたまま。


 連休を利用した俺たち、遺跡救助部(仮)の面々は、自衛できるぐらいの銃火器を持ったままでその入口に立つ。


 周りの探索者にジロジロと見られるも、俺が警戒するほどの熟練はいない。

 その代わり、4~5人でチームを組んでいる奴らが目立つ。


 可愛い女子が多いだけに、声をかけられるぐらいはありそうだ……。


 ふてくされた井上亜沙乃は、俺に尋ねる。


「で、どうするの?」


「まだ残っていて、金になりそうな物を拾う」


 スリングで肩から吊るしたサブマシンガンをすぐ撃てる状態で、他の奴らがいない店舗へ足を踏み入れる。


 銃口の下につけたフラッシュライトの丸い光が、ほぼ暗闇の1階を明らかにする。

 横では、ネネッタが小銃を構えていた。


 凛良は、護身用で人気が高い、マイクロコンパクトの拳銃。

 黒のセミオートマチックを両手で握り、出口を警戒中。

 銃口の下にフラッシュライト、照準にドットサイトのフルカスタムだ。


 それを仕舞う場所は、一流メーカーのデューティホルスター。

 装弾したまま走ってもほぼ100%暴発しない、優れもの。

 1人で東北から生き延びてきただけあって、堅実な選択といえる。


 いっぽう、亜沙乃は小太刀を持っていた。


 ポイントマンで俺が進み、後ろからネネッタが支援。


 1階奥の待機スペースをクリアリング。


 凛良が銃口を向けていた階段を上り、ネネッタと探索。


「クリア!」

「クリア……」


 安全装置をかけて、銃口を下げた。


「じゃあ、手早く拾うぞ!」

「コピー」


 凛良だけではなく、ネネッタの手際も良かった。

 持ち運べる成果をリュックに詰め込み、とっとと外へ。


 案の定、女を口説こうと待ち構えていた野郎のグループ。


 いつでも銃を構えられる姿勢のまま、常に誰かが見ているフォーメーションで牽制しつつ、軍のトラックの乗降場に戻った。


 兵士が待機しているため、ナンパ野郎どもは舌打ち。

 商店街の廃墟へ戻る。


 今晩の穴を逃したから、金で買える女のために廃品回収というわけだ。



 ――家門かもんみつるのクエスト斡旋所


「お帰り! 今日の収穫は……。ずいぶんと、シケてるな?」


 困惑した充に、俺はすぐ説明する。


「お姫さまの勉強で、初級だった!」


「そうか……。手数料はいいよ! 注文、よろしくな?」


 片手を振りながら、ワクワクしている井上亜沙乃たちのところへ戻った。


 同じテーブルにつけば、亜沙乃が勢いよく質問する。

 

「いくらだった? 10万? 20万!?」

「5,000ゴル」


 固まった亜沙乃は、言葉を失った。


 凛良・デ・ロヴァーンが、予想していたように頷く。


「5級に残っていた鉄板10枚なら、そんなものよねー! 手数料は?」

「今回は、サービスだとさ」


 ネネッタが、亜沙乃に説明する。


「危険が少ない5級は初心者だらけで、目ぼしい物品が持ち去られた後です。本当は、5,000ゴルの10%が手数料としてクエスト斡旋所に入ります」


 呆然とした亜沙乃は、ポツリと呟く。


「私のお小遣いの10%もないじゃない……。それで、命を懸けるの?」


 息を吐いた凛良が、忠告する。


「こういう世界もあるのよ? 薄い鉄板は持ち運びやすく、そこそこの金になるわ。今の5級だと、壁を壊して配線されたケーブルやらを回収するぐらいだし」


 俺は全員の注文をまとめて、充に伝えた。


 お姫さまへの教育が、しばらく続きそうだ。

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