第8話 水商売はスルー能力が必須
俺の保護者を兼ねているクエスト斡旋所のマスター。
ハッキリとは言わないものの、断ったらマズいそうだ。
指定された場所は、市街地で周りが開けた場所。
以前に工事をしていた現場の跡か、それとも、再開発をする予定なのか……。
ホルスターに拳銃を忍ばせ、ネネッタにも肩にスリングで下げた小銃。
この文明崩壊した世界では、かつてのUSよりも銃を手放せない。
丸腰、か弱いと見なされれば、即日で売り飛ばされるか、殺されるだけ。
残ったものを拾うことがメインの探索者となれば、いつでも銃を抜けなければ。
かつての文明があった時代の都心部で、高架橋の下にある屋台が1つある光景。
近づいた俺とネネッタは、体格が良い男たちに止められた。
どいつも重武装で、色付きのシューティンググラスをかけて、ポーチを追加できるアーマーを着ている。
探索者のB級ライセンスを提示した。
頷いた男が、淡々と告げる。
「武器をお渡しください」
「お断りします! あなた方を信用できるほどの情報はなく、そちらが言うだけでは不足です」
肩に下げている小銃のグリップを触りつつ、ネネッタが返答した。
緊張する男ども。
うち1人が、無線を触った。
「対象が来ました! 少女1名を連れており――」
「私は
「……メイド型と思われるクルトゥス、1名! こちらも武装しています」
返信を聞いていた男は、何度も頷き、こちらを見た。
「クルトゥスは、ここでお待ちください! あなたの武装はそのままで」
ネネッタが、俺のほうを見た。
(落としどころか……)
嘆息した俺は、同意する。
「分かりました! ネネッタは、ここで待て」
「了解」
進路を塞いでいた男が、両手で小銃を下げたまま、奥を示した。
「お手数ですが、あちらの屋台へお願いします」
「は、はあ……」
ザッザッと歩けば、冗談のようにポツンとある屋台が見えてくる。
嵌め込み式の鍋で煮込んだ料理が、美味しそうな匂いと音。
カウンターと安物の椅子がずらりと並ぶ。
「らっしゃい!」
「家門のクエスト斡旋所で指名依頼を受けた」
カウンター奥で立った親父は、手際よく動き出す。
「はい、聞いていますよ! お好きな席に……。注文も受けますんで」
料金は依頼人が払うと聞かされ、オススメを数品ほど。
「へい! じゃあ、1つずつ出します」
「彼と同じものを……。それと、ジョッキ」
老齢というには早い、中年男がいた。
高そうなスーツ姿で、メガネをかけている。
俺と1つ空け、座った。
「依頼人の
「どうも……。探索者の
「お待ち!」
カウンターの奥から、ハンバーガーが二皿。
……何で?
付け合わせのフライドポテト、煮込んだ野菜と一緒に口に運ぶ。
「美味い!」
「だろう? 私も気に入っているんだ」
食べる合間で、甲堂が喋る。
「まず、お礼を言わせてくれ……。君が2級の『カワサキ工場群』で救ってくれたラシーヌ学園の生徒の1人に娘がいてな? 肝を冷やしたよ! 本当に、ありがとう」
「そうですか……」
ここで、野菜を炒めての焼きそば。
最初に出てきたジョッキで飲む甲堂は、ふうっと息を吐いた。
「私は、このカワサキ市の市長だ。といっても、実質的にはマザーAIの認可を受けた上級クルトゥスの1人が管理している。
二杯目に変わった甲堂は、横にいる俺を見た。
「ところで……。コールドスリープで文明前にいたのは、本当か?」
「はい。あなたの立場なら、記録の閲覧ができると思いますけど?」
「そうだが……。この目で見るまでは、信じられんかった」
嘆息した甲堂は、周りを見た後で、おずおずと言う。
「あれば奪う時代だ……。けれど、私には夢がある。危険な場所へ行けるチームを作り、倒れた人間の救助、あるいは、形見を回収してやりたいと」
「俺が生きていた時代でも、それは難しいです……。助けるほうが命懸けになってしまい、危険なエリアに入るときは自己責任にするか、二次遭難のない状況だけの活動です。捜索費用の請求だって、ありました」
しばし、どちらも喋らない時間。
食事という逃げ道は、良いものだ。
最後に、ケーキが出てきた。
屋台のメニューじゃねえな?
俺も、炭酸飲料を飲みつつ、相手の反応を待つ。
甲堂が、こちらを見た。
「すまないな、愚痴ばかりで……。本題は違う。娘は前衛として優秀だが、どうにも突っ走る癖があってね?」
嫌な予感がしてきた。
「その……。こういった荒事に慣れている君が、しばらく面倒を見てくれないか?」
「いきなり言われても……。そもそも、俺は男子です! 遺跡でモノを拾って生計を立てている身でして」
話し合いの間、カウンターの奥にいる親父は我関せず。
黙々と、仕込みや片づけをしていた。
こういう商売では、客の会話に興味を持ったときに終わるのだろう。
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