第7話 スナイパーは1人でも戦術レベル

「狙撃できるポジションにつくぞ!」

「りょう」


 俺は、傍に立つネネッタに告げた。


 カワサキ工場群の1つから外に出て、飛び出ている鉄骨や、よく分からない出っ張りを足場に、どんどん上へ飛び跳ねる。


 そもそも、一般人が歩き回る場所ではなく、外側とつながっている構造だからこその荒業だ。


 屋上らしき場所にたどり着き、自分を上に運んできたベクトルを両足で殺す。


 ザザザッと滑りつつ、何とか停止。


 遅れて、ネネッタが釣られた魚のごとく、飛んできた。


 アイススケートのように接地した足で円を描きつつ、華麗に止まる。


「マスターは、本当に人間ですか?」


 首をかしげたネネッタに構わず、背中に回したライフルを両手で握りつつ、側面のチャージングハンドルを後ろへ引くことで初弾を装填。

 

 聞き慣れた、シャキンッという金属音。


「話はあとだ! 狙撃の指示を出せ!」

「りょー」


 走り出したネネッタを追いかけ、屋上の端で膝立ちに。


 片目用のフィールドスコープを覗いた彼女は、すぐに指示する。


 それに従い、視線と一緒に銃口の向きを変えた。


 制服が混じった、高校生ぐらいの男女。

 一目散に、軍が待機しているトラック乗り場へ向かっている。


「いたいた! あれか……。狙撃姿勢に入る」

「どうぞ」


 うつ伏せで、単発ライフルの上につけたスコープを覗いた。


 着弾する場所を示す中心部にマークがあり、肩付けしたことで俺の呼吸と連動して上下に動く。


 高倍率で、その分だけ視界が狭い。


 観測しているネネッタは、俺より全体を把握したまま、説明する。


「2mの警備ロボが、3体! 銃火器はない模様……。足が速いのから、撃ちましょう」


 ターンッ!


 先頭の警備ロボの足を狙ったが、その少し先にある地面をえぐった。


 スコープを覗いたまま、右手を前後させて、排莢はいきょうと次の装填。


 側面から飛び出した小さな金属筒を見ることなく、さっきの感覚のまま、惜しかった警備ロボを撃つ。


 立ち止まったことで、胴体に当たった。


 同じく、反射的にチャージングハンドルを後ろへ引く。


 フィールドスコープでずっと見ていたネネッタが告げる。


「ヒット! 中破により、ほぼ無力化……。残り2体が、こちらを認識! 無線による通報中」


 うつ伏せのまま、問いかける。


「高校生たちは?」


「軍が出てきました! あとは、大丈夫でしょう」


 言い終わったネネッタは、フィールドスコープから手を離しつつ、腰のベルトにある大型のグリップを握り、引き抜いた。


 立ち上がりつつ、振り向く。


 ダアンッ!


 両手で構えた大型のハンドガンが、上に跳ねた。


 対装甲のアーマーピアシングから放たれた弾丸は、後ろから近づいていた警備ロボに大きな風穴を開ける。


 火花を散らしながら、後ろに倒れ込むロボ。


 ホルスターに収めたネネッタは、スリングで肩掛けをしていた小銃を両手で握り、側面のスイッチを連射へ。


「援護します! 早く、下へ!」


 バババと制圧射撃を始めたネネッタに、俺は急いで立ち上がり、安全装置をかけたライフルを背負い、片手で握る握力計のような装置の端をそこらの頑丈な鉄骨に固定。


「先に降りる!」

「はい!」


 指切りで、数発をそれぞれのターゲットに撃ち込んでいるネネッタ。


 いよいよ反撃され、銃弾に当たらないよう、横移動をする。


 それを後目に、俺は外へ身を投げた。


 片手で握っている装置により、電車のつり革のような姿勢で片手を上にしたまま、適度なスピードで落ちていく。


 ビイイイイッと摩擦音が響き、両足による出っ張りの回避。


 地面が近づいたところで、宙づりに。


 仕方なく、そのまま飛び降りた。


 両足から着地して、すかさず転がる。


 上を見れば、俺が使い捨てた降下装置のワイヤーを両手で握ったまま、同じように降りていた。


 生身の人間がやれば、両手の骨まで擦り切れる所業だ。


 俺と同じように、最後は飛び降りる。


 ダンッと地面を揺らし、やはり転がるネネッタ。


 単発式のライフルを上に向けていた俺は、彼女が小銃を構え直したことで、連中のように出口へ向かう。


 幸いにも、さっきの警備ロボは戻ったらしく、敵をトレインすることもなし。

 隊列を組んでいた兵士を抜けて、安全エリアに……。


 指揮官らしき軍人に、簡単な事情聴取をされたが、それだけ。

 どうやら、ラシーヌ学園の生徒を助けたことを評価されたようだ。


 探索者のB級ライセンスを返してもらいつつ、軍の糧食の一部も。


「よくやった! お前みたいな奴が多いと、こっちも楽でいいのだが」


 レーションは、報酬のつもりか?


 弾薬ぐらい欲しいが、これでも彼らにとっての精一杯。

 比較的、美味いと評されているメニューだし。


「やっぱり、ここは犠牲者が多いので?」


「まあな……。下手すると、俺たちが突っ込まされる」


 対面に座っている指揮官は、ため息をついた。


 

 ――数日後


 俺の自宅を兼ねている、家門かもんみつるのクエスト斡旋所の食堂で、まったりしていた。


 すると、オーナーの充が近づいてきた。


早渡はやと! 指名の仕事がある」


「断れないんで?」


 中年男の充は、首の後ろをかいた。


「んー。なるべく、断りたくない相手だな……。会うだけ会ってみないか?」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

文明崩壊後の生存戦略~単位をとるために手段を選ばない~ 初雪空 @GINGO

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ