第6話 2級の遺跡「カワサキ工場群」

 パートナーとなったネネッタ。


 初心者用の遺跡に潜り、彼女との連携をチェックした。


 特に問題はなく、家庭用のメイド型のスペックではあるものの、俺の死角をカバー。



 文明崩壊した東京では、各地に残された物資が、そのまま金になる。


 腐食したものでも、加工や溶かすことで再利用。


「そういうわけで、探索者はできるだけ価値のある物資を持ち帰るんだ」


「スカベンジャーですね? しかし、マスター1人だけでは……」


 運搬できる量に限りがある。


 そう言いたげな視線。


 首肯した俺は、本音を吐露する。


「ああ……。他にも大勢がやっているし、金になる物資はどんどん消えている」


 自分の部屋の天井を見上げた。


凛良りらに言われた通り、ゴミ拾いじゃ先は長くない……。それはそれとして、2人になったから、少し上の遺跡に行ってみよう」



 ――2級の遺跡「カワサキ工場群」


 探索者の組合で、軍のトラックに乗った。

 

 目的地について、歩兵用のトラックの荷台から降りていく。


「帰りの便は、昼と夕方の2回だ! どちらも逃したら、大人しく次の日を待て!」


 警備の兵士の叫びで、武装した探索者が荒れ果てた工場跡へ向かう。


 俺は、戦闘服とブーツに、ガンベルトの拳銃や手榴弾。

 肩にも、軽量化した単発式ライフルだ。


 相方のネネッタも戦闘服で、自動人形クルトゥス用のアーマーピアシング――大型のハンドガン――に、狙撃用スコープ付きのアサルトライフルをスリングで肩掛け。


「ここの2級は?」


「かなり危険だ! 理由は、工場の設備そのもので簡単に死ぬから」


 遺跡のランクは、数字が少ないほど危険。


 つまり、2級は常に人が死んでいる。


 ネネッタは俺の横を歩きながら、首をかしげた。


「大崩壊の前でも、工場の人身事故はあったでしょう」

「だいたい、社内で握り潰されたようだがな?」


 俺の茶々に、ネネッタが肩をすくめた。


「ともあれ、それだけで2級は納得できませんね?」


「良い勘をしているよ……。この一帯には警備がある! それぞれの会社が独自にセンサーや監視カメラ、それと連動した銃座、ガードロボがいるんだわ」


「……彼らは、何と戦っていたんですか?」


 もはや、戦争だ。


 困惑したネネッタに、説明する。


「コールドスリープに入ったから、よく分からん。ガードロボなんぞ、見たことも聞いたこともなかった。強いて言えば、従業員への睨みと、武装した難民や強盗への対処じゃないか?」


「世も末ですね……」


「今は、それを突き抜けているけどな? 雇い主がいなくなっても働き続ける警備とは! 社畜のかがみだよ、ホント」


 驚いたネネッタが、目を見張った。


「誰も、停止信号を出さないので?」


「それを知っている奴がいない、システムを管理している場所を知らない、辿り着けない」


 立ち止まったネネッタが、バスケのように爪先だけでクルッと回転。


 同時に、スリングで下げていた小銃をスッと上げた。


「何か、御用ですか? 返答なき場合は、このまま発砲します」


 両手でアサルトライフルを構えたままの、淡々としたセリフ。


 無機質な金属だけで組み上げられた場所に、緊迫した空気が流れる。


 慌てたように、男の声。


「ま、待ってくれ! 今、出る! 撃つなよ!?」


 俺も、腰のホルスターから拳銃を抜いた。


 ネネッタのほうは、銃口が全く動かない。


 カンカンと、足音。


 両手を上げている男が1人。


 ……若いな? 俺と同じ高校生ぐらいか?


 すると、両手を上げたままの男子が、無理に笑顔を作った。


「お、お前らも、ここを探索するんだろ? こっちも同じ年代で来ているんだよ! せっかくだし、一緒に動かないか?」


 ネネッタが、視線をよこした。


(見たところ、素人だな? どうして、ここにいる……)


 ため息を吐いた後で、男子を見る。


「ここは、2級の遺跡だぞ? 仲良しグループをやりたければ、他を当たれ」


「そ、そんなことを言うなよ?」


「俺たちを釣っているようにしか――」


 手を下ろした男子が、何かを取り出す動き。


 両手でグリップを握りつつ、ハンドガンを左斜めに構えた。


「動くな!」


「ゆっくりと手を上げてください。ゆっくりと、です」


 ネネッタの落ち着いた声で、顔を引きつらせた男子が反論する。


「み、身分証明書を出そうとした――」

「両手を上げたまま、ゆっくり立ち去ってください。従わなければ、撃ちます。10、9……」


 相方のネネッタが言えば、両手を上げた男子は、ゆっくりと歩き出した。


 カウントダウンを止めたものの、彼女は銃口を向けたまま。


 しばらくして、スッと下ろす。


「行きました……」


 こちらも、拳銃をホルスターに戻す。


「間抜けすぎる……。迷い込んだ素人だな?」


「身なりは良かったですけど」


 去った奴と反対方向へ歩きつつ、首を振る。


「そこまで含めて、誘いの可能性がある!」


 けれど、ネネッタは猫のように頭の角度を変えている。


「でも、さっきの男子のグループ、少し面倒ですよ?」


「何が?」


「ラシーヌ学園の高等部にいる生徒です……。もう1つ言えば、ここの警備ロボに捕捉された模様」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る