第5話 流れ流れて上京したお姫様

「シュミッツさん! ボンちゃんの他の装備は、いつ?」


 女子の声に、そちらを見れば、話題にしていた変態さんだった。


 フライムート・シュミッツが、返事をする。


「数日後だ! すぐに出るのかい? だったら、急ぐが……」


 首を振った女子は、ライダースーツのまま、胸を張った。


「ううん、聞いてみただけ! ……また会ったわね?」


 メック乗りが、俺たちのほうを見た。


「ああ……」

「どうも」


 俺とネネッタが応じたら、交互に見る女子。


「えっと……。兄妹?」


「探索者と、自動人形クルトゥスだ」

「ネネッタです」


 しげしげと、ネネッタを見た女子が、問いかける。


「ふーん? あなた達は――」

「悪いが、ここは出会いカフェじゃないんだ。買い物が終わったのなら、他所でやってくれ!」


 初老の男、フライムートに突っ込まれて、周りを見る。


 他の客に注目されており、良い状況とは言えない。


「場所を変えよう」


 俺の宣言で、移動する。



 ――家門かもんみつるのクエスト斡旋所


 1階の食堂で、テーブル席に陣取る。


「はい、どうぞ!」


 オーナーの充が持ってきた料理をつつきながら、お互いに自己紹介。


「B級の探索者をやっている、高天こうてん早渡はやとだ。今運んできた男の世話になっている」


「ネネッタです。マスターの相方として、さっきのガンショップで装備を整えていました」


 頷いた女子は、口を開いた。


「ラシーヌ学園の高等部1年マーシナリー科、凛良りら・デ・ロヴァーン……。ご先祖はフランスらしいけど、そっちはどうなっているやら!」


「学園か……」


 俺の呟きに、凛良はコクリと頷いた。


「いわゆる、成功者の子供が集まっている場所ね! あなたは?」


「このクエスト斡旋所の専属……。まだ、何かあるのか?」


「ん? いや、ずいぶんと毛並みがいいから……」


 興味深そうに、テーブルに両肘をついた凛良が、こちらを見た。


「その若さでクルトゥスをはべらせているから、お金持ちだと思ったんだけど――」

「お前のほうは、どうなんだ? 傭兵稼業にしては、お嬢様みたいだが」


 露骨に、話題を逸らした。


 けれども、凛良は気にしていない。


「東北のほうは、戦国時代に逆戻りよ? メック同士が近距離でぶつかり、突発的な戦闘の連続……」


 ふーっ! と息を吐いた。


 何かを思い出すように、汚れた天井を見る。


「高低差があるうえ、視界が悪い。センサー、レーダーも、粗悪品だけ! だから、数を揃えてのゴリ押しか、逆に待ち伏せ」


「よく生き延びられたな? それだけ美人なら、周りの連中も放っておかないだろうに」


 俺の感想に、凛良は陰のある表情。


「とある一族で、頭領の娘だったの……。そもそも、小勢力がひしめき合っている場所だから、せまい地元でお姫様というだけ。ある日……」


 目を閉じた。


 10秒後に、紫の瞳がこちらを見る。


「メックに乗ったまま、全力で南下したわ! 動かないか被弾したら乗り捨てて、バイクでも何でも利用した……。気づけば、ここにいたの」


「学園には?」


「こういう時のために、退避先の1つとして寄付金を積んでいた。ま、そういうことよ!」


 言い終わってから、しゃべり過ぎた、という顔に。


 自分の食事をガツガツと口にする。


 それを見たまま、こちらも身の上話。


「俺は……。かつての東京にいたよ。銃とは無縁の時代にな?」


 箸を止めた少女は、まっすぐに俺を見た。


「大破壊の前!? それって、どういう――」

「冗談だ」


 怒った凛良は、食事に戻った。


 けれど、ピタッと動きを止める。


「ねえ? 探索者も、傭兵に負けず劣らず、ガラが悪いと思うけど……」


「ああ、そうだな! ここの親父に保護してもらえたから、ソロで落穂おちぼ拾いによる食いつなぎだ。ネネッタは、つい最近に入手した」


 探るような視線を向けていた凛良は、悩ましげに息を吐く。


「……そういう事にしてあげる」


 気を取り直したように、こちらを見る。


「あなたは、学園に通う気はないの? 見たところ、同い年だと思うけど」


「伝手がない! さっき、生活するだけでカツカツと言っただろう?」


「学園のサーチャー科なら、探索で成果を上げるだけで単位になるわよ?」


 凛良の返事に、ネネッタは猫のように頭を傾けた。


 それを見た後で、凛良に向き直る。


「だとしても、今の俺はしがない探索者にすぎん! いずれ社会を支配する同年代に関われば、面倒だ」


「それは分かるけど……。下のランクの遺跡で見つけた物を売るだけじゃ、そのうち行き詰まるわよ?」


 呆れたような凛良に、言い返す。


「メックに乗っているだけじゃ、同じだろ?」

「だから、学園に通っているの!」


 即座に、論破された。


 凛良は、この場に来た理由を述べる。


「メックだと、敵の制圧のように大味のミッションしか受けられない。だから、今のうちに色々なプロ、それも信頼できる同年代とチームを組みたいのよ! 私も白兵戦はできるけど、本職と比べたら護身術にすぎないし……。気が向いたら、連絡してね?」


 食べ終わった凛良は、スマホで連絡先を残していった。

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