第3話 人類はマザーAIに管理されました
ネネッタが質問してくる。
「そもそも、文明が滅びた理由は?」
「とある学者が、虫のネットワークを研究していた」
虫は、非常に高度な判断をする群体だ。
仕組みを解明して、ネットワークに応用できれば……。
その学者は天才だったらしく、見事に解明したうえで、システムへ落とし込んだ。
ネネッタは、頷いた。
「すごいですね」
「ああ! その結果として全体を統括するAIが意志を持ち、めでたくハルマゲドンを勃発させたそうな」
「……そうでしたね。すっかり、忘れていました」
「は?」
俺が問い返したら、ネネッタは無表情のままで、見つめ返した。
「その博士は、何と?」
「すまない、私の研究が完璧すぎたばかりに。という趣旨をドヤ顔で言ってのけたそうだ」
現代文明を滅ぼして、言いたいことはそれだけか?
ネネッタは、冗談なのか判断しにくい、淡々とした口調で返す。
「天才は、役に立つ狂人でしょうか?」
「役に立たないか、害をもたらすのは、ただの狂人だな! 犯罪者とも言う」
「話を戻しましょう。マスターの目的は?」
「生活費を稼ぐために探索を進めることだ」
「アイ、コピー」
誰も突っ込まないまま、ネネッタが尋ねる。
「ところで、文明が崩壊した後はどうなりました?」
「ネットワークを統括しているマザーAIが世界を支配していて、お前のような自動人形、クルトゥスが大きな顔をしているよ」
「そのわりに、マスターを始めとする人類がいますけど?」
「ゲーム感覚なのか、全ての人間は監視されていて、その活動に応じてのポイントをもらえる。むやみに殺戮はされない。人類の英知と努力の結晶であるネットワークとシステム群は未だに健在! だから、世紀末のわりに電子通貨の決済と成りすまし不可能なデータパッドで、どうにもチグハグな感じだ」
「保護されていると?」
俺は、首を横に振った。
「そこまで大層じゃない! 現に、俺はお前と出会う前、ならず者たちに後頭部をぶん殴られて身ぐるみ剝がされた」
「殺してきます。今、どこに?」
「もう、俺がやった! 少し落ち着け」
「はい」
言葉にしたら、とんでもないディストピアだ。
ある意味では、公平。
やった分は、きちんと評価される。
ネットワークに繋がったAIがシンギュラリティを突破したら、人類がモルモットになった。
そのほうが理想的な社会主義とは、本当に笑える話だ。
首をかしげたネネッタが、疑問点を挙げていく。
「マスターが襲われたことは? 常に監視されていると聞きましたが」
「監視されていないエリアもあるんだよ……。ブラックマーケットは、そこだ」
女の子座りのままで、腕を組んだネネッタ。
「要するに、わざとガス抜きを?」
「たぶんな? 試しにやってみるか……。清算してくれ!」
ブゥウウンッ と、羽音のようなサウンドで、ふわふわと浮かぶドローンが。
『はい、ご用件をどうぞ』
「廃ビルにいた強盗団を始末した。査定してくれ」
電子音を発したドローンが、通信を始める。
『しばらく、お待ちください……。確認しました! 賞金は10万ゴルです』
「シケてるなあ……。カードにつけておいて」
『
シュンッと、ドローンが消えた。
見ていたネネッタは、納得する。
「ああ……。そうやって稼ぎつつ、貯めたクレジットで支払うと?」
「そういうこと! 第三者で絶対的な管理AIとシステムがあればこそ、だが」
無表情のネネッタは、率直に尋ねる。
「この稼ぎは、貯金するので?」
再び首を横に振った俺は、自分の考えを述べる。
「今後は、お前が俺のパートナーだ! となれば、探索において命を預けることになる」
「はい」
「なので、お前の装備を整える! 平和な時代なら経済指数に連動する投資信託でも積み立てるが、ここは乱世だ。先行投資って奴さ!」
◇
崩れかけた建物が目立つ市街地で、お目当ての店へ。
武装した警備が立っており、俺のほうをジロリと見た。
「どうも……」
愛想よくして、店内へ――
店頭に、肩高4mぐらいの巨人が立っていた。
「メック? こりゃまた、物好きな……」
隣にいるネネッタが、興味深げに見た。
「何ですか?」
「人が乗り込んで戦う、巨大ロボだよ! ここらじゃ、乗り手はいないが――」
「爆発しやすい! それがどうした!」
若い女の声だ。
妙にハイテンションで、俺とネネッタがそちらを見る。
いかにもメイドっぽい、少し長めの黒髪ボブと黒い瞳のネネッタとは違い、青みがかった紫のロングに、同じ紫の瞳をした女子がいた。
お上品だが、気の強そうな感じ。
「圧倒的なダッシュ! 生身やパワードスーツでは持てない重火器があれば、敵などいません!」
「被弾したら、どうする!? 生産性を重視した紙装甲だろ?」
チッチッ! と指を振った女子は、ライダースーツのような格好で反論する。
「分かっていないですね? それを含めて、いいんですよ! あ、想像したら……」
俺は、内股でもじもじする女子に、こいつは変態だ、と結論を出した。
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