第2話 つまり、私は安い女ということですね?

 茶髪ロングで同じ茶色の瞳をした美女が、アタッシュケースから出して、作業台に寝かした人形、クルトゥスをしげしげと見た。


 この美女はファナ・デレッダという名前だが、それで呼んだことはない。


「ふむ……。量産タイプで、特に珍しくもない」


 ファナは専門家らしい手つきで色々と触った後で、こちらを見た。


「出所は聞かんが……。二束三文だぞ? ついでに言えば、私のところでは引き取れん」


「理由は?」


「どうにも、チグハグだ! 収納していたアタッシュケースは最高ランクなのに、入っていたのは量産品……。『』と絶叫しているようなものだ」


 ため息をついた俺は、諦める。


「で、査定は?」


「このアタッシュケースは、10万ゴルで買おう! この女の人形は……お前が引き取れ」

「嫌だよ、クレジットだけで」

 

 頭を振ったファナは、俺を見た。


「文句を言うな! ここへ持ち込んだ時点で、私も無関係ではない! こいつを狙っている組織がいた場合は、お前がおとりになるんだ」


「断ったら?」


「選択の余地はないぞ? まっさきに狙われるのは、お前だ! それは変わらん」


 息を吐いた俺は、暗がりにいるファナを見た。


 作業台に寝かした人形だけが照らし出され、インモラルな雰囲気だ。


「聞くだけ聞こう」


「アタッシュケースの買取は、数万ゴルを現金で、残りはこの少女のメンテと改造代にしてくれ」


「ここの経営、そんなにヤバいのか? 半金で、残りは5割マシぐらいに! 実質的に、俺の丸損だ。サービスしろ」


 自分のうなじを掻いたファナは、やがて頷いた。


「いいだろう! その代わり、作業の順番は私が決める! お得意さんを待たせるわけにはいかんのでな?」


 しぶしぶ、個人認証のデータパッドを取り出してきたファナが、送金の手続き。


 こちらもスマホを取り出し、残高をチェック。


 ……OK!


「こいつを探索のパートナーにできるか? ロボットを倒せるぐらいの潜伏スタイルとして」


「ハンドガン、小銃、ナイフの扱いは、基本アプリを入れてやる! せっかくクルトゥスを使うんだ。スピードと、最低限の精度が欲しい」


 急に専門家らしくなったファナが、作業を始めた。


 手を動かしつつ、釘を刺す。


「銃火器は、別で調達しろよ? そこまではサービスしない」


「分かっている」


 着古しの服をもらったクルトゥスを引き連れ、俺は店を後にした。



 ――探索者のクエスト斡旋所の1つ


「おかえりー!」


 1階の食堂にいる中年男が、にこやかに話しかけてきた。


 名前は、家門かもんみつる


「ただいま……。こいつも、一緒に住むから」


「おお! 彼女か?」


「いや、クルトゥスだ」


 調理や準備の手を止めずに、充は彼女を見た。


「そのようだな? よろしく! お名前は?」


 困惑した少女が、俺のほうを見た。


「あー、まだ決めていない」


「そうか……。お前が面倒を見ろよ? 同じ部屋に住んでいいから」


 充は調理や、開店準備を続けた。


 手を動かしながら、こちらを見る。


「ああ、そうだ! すぐに食ってくれ! 今日は忙しくなりそうだ」


「分かった! お前はどうする? そこのメニューから選んでくれ」


「……マスターと同じで」


 充のほうを見て、叫ぶ。


「今日の日替わり、できれば鍋を2人前!」


「どっちだよ!? ……じゃあ、鍋だ! もう煮えたから、出すぞ?」


 ツッコミを入れた充は、返事をしながらも、テキパキと動き続けた。


 味見をした大鍋からよそい、トレイの上に食器を並べる。


 カウンターの上に、2つを横に並べた。


「はい、お待ちどお!」


 それぞれにトレイを持ち、適当な席へ。


 食べながら、会話をする。


「とりあえず、お前の名前だな……。希望はあるか?」


「いえ、特には……」


 首をひねった俺は、思いついた名前を口にする。


「ネネッタで」


「分かりました」



 ――俺の家


 酒場を兼ねた食堂の上にある、一部屋。

 それが、俺の根城だ。

 鍵のかかる個室であるものの、水道などは部屋の外にあるものを使うだけ。


 さっき話していた充がオーナーで、探索者のクエスト斡旋所も兼ねている。


 簡単に説明したら、コクコクと頷いた少女、ネネッタ。


 俺は、話を続ける。


「平たく言えば、ここは日本の東京と呼ばれていた場所だ。どうやら文明が滅びたらしくて、世紀末ヒャッハーになった。今じゃ、いつでもどこでも銃を手放せん! ハンバーガーの国もびっくりだ」


「マスターは?」


「俺はその平和な時代でコールドスリープに入って、気づいたらコレだ! 幸いにもさっきの人に保護されて、探索者をやっているわけ」


「分かりました……。私の役割は?」


「探索のパートナーだ! それと、文明は崩壊したが社会的な序列は残っていてな?」


「はい」


「探索者のB級ライセンスが、俺の身分証明だ」

 

 困惑したネネッタに、解説する。


「残された技術とリソースを食いつぶす社会では、むしろ知識が重要だ! 昔のように宗教や武力を持つ団体が独占しているわけで。本来なら、家庭教師を雇わないと、高度な知識を手に入れられない」


「マスターは違うと?」


「旧文明で、義務教育とスマホが当たり前に暮らしていた。探索者としても多少は使えるため、特別待遇だ」


「いまいち、話が繋がらないんですが……」


「貴重なサンプルで、探索者としても戦力になりそうだから、とりあえずキープ」


 コクコクと頷いた、ネネッタ。


「把握」

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