俺と彼女たちの世紀末~寝て起きたら自動人形に支配されていた~

初雪空

第一章 銃を手放せないカワサキの日常

第1話 やられたら、やり返すだけ

 中学校の制服を着た女子が、座っている。


 場面は、学校だろうか?


『私、この社会が嫌い……』


 ああ、そうだな。


 俺も――



 目が覚めた。


「つっ! いたた……」


 夜だ。


 仰向けで、星々が良く見える。


 上体を起こせば、いつもより軽い。


「チッ! 油断したな……」


 ズキズキと痛む頭を押さえつつ、立ち上がった。


 幸いにも、五体満足。


 真っ暗な川辺で、サラサラと流れる川や、鳴き続ける虫の音。


 両手で自分の体を探れば、何もない。


 そう、何も……。


「やっぱり、盗られたか」


 探索で持ち帰った成果と、装備一式がない。

 逆に言えば、金目の物を奪えたからこそ、俺は見逃された。


 成果がなければ、俺が商品にされていただろう。


 ザクザクと歩きながら、土手を登った。


「ここら辺でグループ、中途半端なやり口となれば……あいつらか」



 ◇



『ギャハハハ!』


 窓ガラスがなくなった廃ビル。


 そこから響く男たちの笑い声は、酔っているようだ。


 スリングで肩から小銃を下げている男が――


『むぐっ!?』


 後ろから近付いた俺に口を塞がれ、同時に背中に押しつけた銃口からの数発で力を失った。


 ドサッ


 右手でハンドガンを持ったまま、かがむ。


 左手を動かし、スリングごと小銃を奪った。


 拳銃を差して、小銃のセーフティを確認。

 マガジンを下から抜き、残弾チェックの後にハメ直した。

 側面のチャージングハンドルを引く。


 一発がキラキラと輝きつつ、横へ飛んでいき、待ち構えていた手に収まる。


 状態をセーフティに変えた。

 スリングを肩にかけて、背中に回す。


 両手でハンドガンを握り直した。


 ザッザッザッ


 足音に続き、同じく小銃を下げた男。


 そいつの姿が見えた時点で、狙いすました一発。


 パンッ!


 頭に吸い込まれ、グラリとよろめいた奴が、遠心力によってゴンッと床に叩きつけられた。


 階段を上り、同じように敵を処理していく。


 とある部屋で、俺が奪われた荷物一式を発見。


 まだ物色する前だったのか、作業に使いそうな木製テーブルの上に置かれたまま。


 ブービートラップに注意しつつ、手早く装備する。


・軽量化した単発ライフル

・腰の多目的ベルトとホルダー一式

・背嚢とその中の収穫品


「ハンドガンとホルスター、携帯食、水筒、ナイフとホルダーはないか……」


 言いながらも、単発ライフルのボルトハンドルをひねって、後ろへ引く。


 薬室の状態と、一連の動きを見ながら、奪った小銃を代わりに立てかけた。


 訳の分からん小銃を使えるか……。


 俺の持ち物で、使い勝手のいい装備は、見つけた奴が奪ったようだ。


 かさばるうえに単発式のボルトアクションなんぞ、自分の拠点で持ち歩く気にならず。

 市街地の対人用とも言いがたい。



 ――10分後


 ヒュッと投げ込まれた、空き缶。


『手榴弾だ!』

『ふざけんなっ!?』


 さらに、もう1つ。


 炸裂音が、微妙に重なった。


 爆風による振動で倒す、攻撃手榴弾だ。

 有効範囲は狭いが、市街戦で無類の強さを発揮するうえ、誤爆しにくい。


 さらに、ピンを外した1つを投げ込む。


 今度は、壊れる音。


 今のは破片が飛び散る、映画でよく見る手榴弾だ。


 ちなみに、攻撃のほうは、遮蔽をとっても衝撃波が回り込んで襲ってくる。

 範囲にいれば、まず助からない。


 ハンドガンを握り、突入した部屋で、1人ずつ始末する。



 ――屋上


 両手を上げた男は、まだ若い。


「な、なあ? 見逃してくれよ!? 俺は、ここに入ったばかりなんだ!」


 しっかりと拳銃を構えたまま、相手をジッと見た。


 俺と同じで高校生ぐらい。


 スッと銃口を下げれば、その男子は卑屈な笑みを浮かべた。


「お、お前のことは、誰にも言わない! 助かったぜ! じゃあな!」


 小走りで下への階段を駆け下りていく奴は、乾いた音が響いたことで、倒れ込んだまま、ずり落ちた。


 血を流したまま、必死に後ろから近づく俺を見る。


「な、何で――」

 パンパンパンッ!


 奴は、絶命した。


「何でって……。お前もバンディットだろう? 悪党に顔を見られて逃がせば、恩を仇で返されるのが見えてんだよ! それに、俺を後ろから殴った奴らは、生かしておけない」


 だいぶ、騒いだ。


 手早く漁って、逃げないと……。


 頑丈なアタッシュケース1つに、金庫の中は……まあまあだ。


 前者は、ボスらしき奴が持っていたパスコードや生体認証で、バシュッと開いた。


 中から冷たい空気が逃げていき――


「自動人形、クルトゥスか……」


 体育座りのように収まっている少女は、目を閉じたまま。


「俺の手に余るな……。けれど、金になる」


 ため息を吐いた後で、アタッシュケースを閉じて、取っ手を持つ。


「こいつらの仲間が来る前に、ずらかるか!」



 とある事情でコールドスリープに入った中学生の俺は、気づけば、文明崩壊後の日本にいた。


 高天こうてん早渡はやとという名前も、最後にフルネームで名乗ったのはいつだったか……。


 一緒に眠った奴らは、哀れにも死んだか、売り飛ばされたようだ。


 ここに、昔の警察はいない。

 あるのは、自助努力と所属だけ。


 元の日本だって、似たようなものだったか……。



 暗闇を走る俺は、先ほどの廃ビルの中からの、置き土産による爆発音を聞いた。


「隠れていた奴がいたか、それとも、出ていた連中か」


 あるいは、火事場泥棒。



 今は、このアタッシュケースの中身を売り払うことだけ。


「頭、いてー!」


 ぶん殴られた後頭部は、まだ痛む。

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