最終話 op.00:00-2pc



サクリ、サクリ


足を踏み出すたび、枯葉の絨毯がそっと歌う。

忘れ去られたmuseumがそこにあった。

museumというよりは

もはや植物の棲家、

面影をなくすほど

時が経っていることはわかった。


中に入ると展示物などは跡形もなく、

木の根や枝が静かに君臨している。

順路なんてものは

もう、

とうの昔になくなってしまったようだけれど

マグノリアの香りのおかげで

迷うことなくそこへ向かえた。


そこだけ、作品が展示されている。

腹が立った。

〝op.00:00〟

なにが、作品だ。


残っている硝子に手を添えると

まるで硝子は

誰かに背中を押してもらうのを

ただ待っていたかのように

カシャン、と一斉にヒビが入り

次の風に乗って

キラキラサラサラと消えてしまった。


香る金木犀


『遅くなって、なんて言い訳したらいいか…』

展示の中で眠る君の目元にそっと触れた。

次に目覚めるのはいつだろう。


君は大木に守られるように眠っていた。

身体のところどころは

その木と一体となっている。

彫刻のように美しく、

けれど白皙の頬には冷たい涙の跡が

一筋残っている。


最後に見せてくれた君の涙は

あんなにも美しく温かかったのに、

こんなところで

こんなに寂しく凍えた涙を、

独り流していたんだね


いつまででも

君の目覚めを待つよ


-----------------


ゆっくりと開く瞼に

淡い光と、焦がれた色が写っていく。


『おかえり』

と言う声と共に温かい指が目元にふれた。

何か言いたいのに、

この体では思うように声が出ない。


『あとでなんでも話をきくよ、

ただ、

僕らの勝手を許してほしい。』


----------------


長い年月、手厚く〝君〟を守ってくれていた木々に敬意を払いつつ、

残された時間ですべきことをするために

〝君〟の心臓を守る木の枝や蔓をわける。

くっ、と〝僕〟がその心臓を押すと

〝君〟の唇からハラハラと花びらや実や若葉や枯葉が溢れていく。

そして〝僕〟は見つけた。

“君”から溢れた一粒のカケラを。


“僕”は唇からもう一つのカケラを取り出し、

『少し、騒がしくなるけど、

ゆっくり傘の差し方を教えるから。』

それを“君”に飲み込ませた。

“僕”の運命を半分移したカケラを。


〝運命〟とか〝絆〟とか

身勝手極まりないのに

なぜか人に尊ばれるモノたち


『君に宿ってしまったその類のものを

この鏡を纏わせた時計草のカケラに

半分移したんだ。』


- 『飲んじゃだめ』


〝君〟は止めようと目を見開くも、

〝僕〟は躊躇なく

“君”の運命を移したカケラを飲み込んだ。


たちまち〝僕〟の体に

木々の根や蔓が巻き付き始める。

スルスルと、

意識が徐々に奪われていく〝僕〟が

倒れ込まないよう優しく。

〝僕〟は〝君〟の手を取り

『間に合った』と微笑むと瞼を閉じ

そして次の眠りが2人を攫ってゆきました。


3分48秒の出来事でした。


大木の根や枝や蔦は、

眠る2人を大切に大切に囲みます。

他の誰にも傷つけられないよう、

他の誰の見せ物にもさせないよう、

クレムと渡り鳥が辿り着くその日まで

2人の旅を見守るよう大きな腕で

揺籠を作るのでした。



1人で旅立たなくて良いよ。

そして帰路をともに。


僕らの星に帰ろう。

何度だって、一緒に。


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眠りの森のMuseum 雨宮テウ @teurain

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