11話.真相と決意
晴香と愛染、二人の後ろをついて行きながら学校へと向かう。二人の会話を聞いていると、今日の中間試験の事ばかりを話していた。これでは、間違いなく時間が戻っている事になる。
それまで愛染が変な言動をしないか監視していたが、特に変わった変な気は起こさなかったようだ。
「ふふっ」
目が合うと、その妖しげな瞳でこちらの目を見ながら微笑みかける。その様子を見ているだけで、抑えきれないほどの怒りがこみ上げてくる、何度も何度も自分に言い聞かせながら学校までの道のりを歩いていく。
いつもより学校が遠く感じる、ここまで遠く感じた事はなかった。
二人の様子を監視しながらなんとか学校に到着する、教室に入ってすぐに荷物を机のフックにかけて教室から出ていく、向かう先は屋上。
「誠、どこいくの」
「ごめん、何か腹の調子が悪くて……テストが始まるまでには戻る」
「大丈夫?一応戻ってこなかったら先生に言っておくね」
「ありがとう、晴香」
そう言いながら教室を出ていく、晴香と目を合わせることすら出来なかった。今の自分の表情がどうなっているのかは分からないが、見せれたものではない。それだけは確信できる。
そうして教室を出て、屋上へと向かう階段を登っていく。
一歩づつ、一歩づつ階段を踏みしめる。
震えそうになる体を抑えながら、屋上へと出る扉のドアノブに手をかける。回して外へと出るが、そこに愛染の姿はなかったここに来ると言っていたので待つしか無い。
奥に進み、金網に背中を持たれかけさせて扉の方を見続ける。
俺が屋上に出て間もなく、扉が開かれる。
中から憎き愛染の姿が現れた。
「あら、新良さん。早かったのね」
「やっと来たか」
「ふふっ、そんなに私のことを待ちわびていたのかしら?」
「てめっ!まだそんな事を言ってやがんのか!!」
「冗談よ、話を聞きに来たんでしょう?まぁ、でも学校に来るまでの間は熱烈な視線を全身で感じていたのだけれど」
俺はその言葉に、頭の中が真っ白になる。
愛染へと詰め寄り胸ぐらを掴み上げた。
「ふぜけんのも、大概にしろよ」
「いい瞳ね。もっとその瞳で見ていて欲しいのだけれど、私も話したい事があるのだけれど、このままだと話せないわ?」
俺は冷静に鳴るように自分に言い聞かせて、落ち着いてから手を離し愛染から少しだけ離れていく。少しでも近寄りたくはなかった、怒りと憎悪でどうにかなってしまいそうだから。
「分かった、この状況について全部説明しろ」
「怖いお人……そうね、まずは昔の話をしましょうか」
愛染の話を聞くに、この高校に転校して来た昨年の夏頃に俺達は出会っていたそうだ。全く覚えていなかったが、通学路の途中で定期券をなくして困っていた愛染を助けたのだとか、その話を聞いても思い出せないでいた。俺にとってはその程度の記憶であっても、愛染にとっては忘れられない想い出だったと。
その頃から、俺のことを目で追っていたらしい、同じ電車の中に通学路、休み時間の校内に体育祭と文化祭。勿論同じクラスでは無かったが、学校で俺の姿を見るた度に見つめていたと。
その話を聞いていくにつれて、背筋が凍りつくような感覚に襲われる。怒りを通り越して、今では恐怖を感じる感情のほうが大きくなっていた。
ただ、不思議なことにそんな事俺は知る由もなかった。
愛染の事を知ったのはつい最近で、電車で痴漢にあった時に晴香から聞いた話で知ったのだ。
「あんな事がなければ嬉しい話だっただろうさ、今では悍ましいと感じるよ」
「あら、長良さんと私は何度も何度も何度も何度も何度も……お会いしてお話もしていたのですよ?」
「はぁ?何言って……」
言葉を途中で止める、想像もしたくない考えが頭を過ったからだ。その考えは、虚しくも正しいと愛染によって証明されることになる。
「じゃじゃ〜ん、これなんでしょうか?」
愛染が懐から取り出したのは、あの日見た砂時計だった。
俺はそれを見て絶望感に打ちひしがれる、この砂時計が目の目にあることによって、晴香が殺されたことも、今日この日がまた訪れたのも、愛染の何度も会っているという発現も、全てが現実なんだと思い知らされたからだ。
「そ、それは……」
「今、長良さんが想像している通りの事で〜す、ぱちぱちぱち〜」
「そんな非現実的なこと、本当にあるわけが……」
「ざんね〜んです、それが実際に起こりうるんです」
事実だと、あの日tの出来事は現実なんだと決定づけるような証拠が揃っているのに、心の何処かでは認めたくなかった、信じたくなかった。
「そう、長良さんが今考えているようにこの砂時計の力を使えば時間を戻すことが出来るのです」
「………」
「この力を使って、私と長良さんは何度もお会いして何度もお話しております」
「なんで…なんで何度も時間を戻して会っていないように仕向けた?」
「そりゃあ恥ずかしかったのと、初めての運命的な出会いを模索していたからです!」
「そんなくだらない事のために、俺で遊んでいたのか?」
「失礼な、私の抱いたこの思いは本物で真剣なものですよ?だからこそ……」
「ふざけるなっ!!ならなんで今になって時間を進めた!?何故晴香を殺した!!」
「言ったじゃないですか、私の長良さんとの時間を何度も奪ったって。それに、あろうことか長良さんに…私の長良さんに告白までして」
愛染のそう語る瞳は光を失っているようだった、嘘偽りなく本気の言葉を発してはいるが、人の感情を持ち合わせていないようなそんな気味の悪さを感じさせていた。
「そもそも、長良さんがちゃんと断っていればこんな事にはならなかったんですよ?」
「んなわけないだろ!お前が殺したんだから!!」
「声は落としてください?先生たちに入ってこられたら面倒ですよ?」
今更何を言っている、普通に学校生活を続けるつもりだろうか、今日の登校中も何食わぬ顔で晴香と喋っていたところを見てはいたが、やった事とこの話を聞かされて今までと同じ関係が続けられる事が出来ないと思っていないのだろうか。
「お前は、異常だよ」
「あら、ついに名前も呼んでくれなくなりましたか」
「何をこんな時に」
突然、愛染が俺の方に向かって歩いてくる。
そのままの自然な流れで、そのまま俺に抱きつき耳元で囁く。
「長良さん、私はあなたを愛しています。この世界中の、どの女よりも」
氷の刃に貫かれたように悪寒が走る。
振りほどこうにも振りほどけない、なにかに拘束されているかのように体が硬直する。
恐怖と畏怖、憎悪に憎しみ、怒り…殺意が俺の中で複雑に絡み合って、頭が働かない。
「長良さんが望むままに何でも与えましょう、私が欲しいのは長良さんだけですから」
気持ちが悪い、吐きそうだ。
誰か助けてくれ……。
「覚えておいてください、長良さんを欲する私は何でもします」
「だから晴香を殺したと」
「はい、私の思いと意思を理解してもらう為に」
「それで俺が振り向くとでも?」
「今はまだ、そのうちに……」
「永遠にありえない」
「大丈夫です、
「異常者が」
その言葉を最後に、また景色が反転する。
目覚めた時にはいつもの天井と、いつもの部屋で横たわっていた。
重たい体を起こし、スマホの日時を確認する。どうやらまた、時間を戻されて中間テストの朝になっているらしく時刻は六時と表示されていた。
スマホをベッドの上に置き仰向けに倒れながら天井を眺める、こんな話誰に相談すれば良いのだろう、仮に話した所で頭がおかしくなったと笑われるのが目に見えている。
誰にも相談できない、この状況に一人でどうにかしないといけない。こんな状況が続くようであれば、俺の心が保たない。それに、何とか出来るのも俺だけだ。
あの砂時計を破壊できれば、この状況は変わるだろうか。
試してみる勝ちはある、ただし愛染があの砂時計をどこに保管して、どこに忍ばせているのか。屋上では懐から取り出していたので常に肌身離さず持ち歩いている可能性が非常に高い。
チャンスがあるとすれば砂時計を使う瞬間。
それならば、今日の中間テストが終わった後に晴香と出かけて告白されるはず、その時に現れてなにか行動を起こしたのであれば、そのチャンスは巡ってくる。ただし、晴香に危害が及ばないようにしっかりと守り通さなければならない、また殺されるようなことになれば砂時計の力を使わざるを得なくなる。
チャンスは一回きりで一瞬だけ。
やるしかない、晴香の為にも俺の楽しい学校生活のためにも。
これが成功すれば晴香と付き合って、愛染のことは忘れるようにしたい。
「やるしかない」
不思議と総決意した瞬間から頭が冴えわたる。
冷静に、怒りに身を任せることなくやり遂げるんだ。
未来のために。
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