8話.中間試験の始まりと終わり
8話.
翌日からは、いつもと変わらない生活が待っていた。
気がつけば中間試験が迫っており、皆で追い込みをかけるように、放課後は図書館や、ファストフード店に集まって勉強会を開いていた。
迎えた中間試験、これである程度の点数を取っていれば、親には大学に行きたいと強く言えるようになるだろう。ただ、何をしたいかと言われれば何もない。
せめて、やりたい事が見つかった時に、大学に通いたいと強く言えるような準備はしておきたいと思う。それに、ここまで勉強に付き合ってくれた皆に、胸を張って“ありがとう”と伝えたいとも思う。
そうして、今まで以上に緊張した中間試験が始まる。
試験の期間は、流れるように時間が過ぎていった。一日目、二日目、三日目とあっという間に試験は終わった。
「終わったなーっ、誠…どうだった??」
「まぁまぁかなー、自己採点は後で確認するが…今までよりかは確実に良いと思うよ、少し早めのありがとう」
「なんのなんの、またいつで付き合うよ」
「新良さん、試験はいかがでしたか?」
「あ、愛染さん…おかげさまでなんとかね」
それから皆に試験の手応えを聞かれていた、やはり心配してくれているのだろう。点数が良いと思うが、返ってくるまでは不安が拭えないな。
そうして、学校を終えて自宅へと帰る。
土日の休みを挟んで迎えた月曜日、テストが返される。
この学校では毎回一教科ずつではなく、全てのテストがまとまって返される。他の教科が返ってこないと、心配する事もないのでありがたいが。
「はい、新良ーっ取りにこーい」
「はい」
そうして名前が呼ばれ、担任の元へとテストを取りに行く。受け取った封筒の中に、全てのテストの答案が入っているので、俺は席に戻りすぐに封筒からテストを取り出す。
周りからの視線を感じるが、今は答案用紙に目線がいく。
「おぉっ!?」
思わず声が出てしまった、なんと平均点数は80点以上。今までよりはるかに好成績だ、これも皆のおかげだと胸を張って言えるだろう。
「良かったな、誠!」
「友成もな!ありがとう」
「私たちのおかげね!」
「あぁ、感謝してるよ」
答案用紙を封筒に戻し喜んでいると、全員分の答案用紙が返されていた。クラスの順位等は公表されることは無いが、全教科満点の神崎さんが一位だろう。さすがだ。
そうしてそこからは、いつも通りの授業に戻る。各教科の時間に、試験の振り返りを行いながら一日が終わっていき放課後を迎えた。
皆にお礼がしたいと思い、ファストフード店に行こうと誘うが、晴香しか予定が空いてなかった。他の人はまた別の日にとの事なので、また明日と告げて晴香と二人でファストフード店に向かう。
「晴香ありがとうな、今日は俺の奢りだ!」
「やったね〜!覚悟しといてよ〜??」
「任せとけ!そのために準備はしてきた!」
すると、晴香がファストフード店に向かう途中の、人気のない線路の下を歩いてる時に立ち止まった。
「おい、どうした?」
晴香が俯いて止まっていたので、具合でも悪くなったのかと、顔を下から覗き込むように確認をしてみる。
不意に勢いよく顔を上げて、こちらの目を真っ直ぐと見てくる。
「な、なんだよ…ファストフード店以外が良いか?」
「ううん、違う…」
「具合でも悪いか?」
「ううん、違う…」
珍しく歯切れが悪い、元気もないように見えるが。
「実は、試験が終わったら言いたい事があって…」
「なんだ、なんでも言ってみろ!」
「違うくて…」
「じゃあどうした?」
「好きなんだ…誠のことが…その、前から…」
「えっ、」
頭上を通る電車の音と、心臓の音が同じくらい五月蝿く鳴り響いていた。思いもしなかった言葉に息が詰まりそうになる、なんで返すべきかと頭を動かすが、真っ白になってしまったまま固まっていた。
「誠の事が好きなの!ずっと前から!」
「ええっ!?まじで!?」
「最近、愛染さんとかと仲良いし…それで焦って」
「今に至ると?」
首を優しく縦に振り、頷く。
心の底から、嬉しいという感情が溢れ出していた。
晴香も、多分俺もだが顔が燃え上がるように熱いだろう、その証拠に顔は真っ赤に色づいていた。
自分の気持ちに嘘はつけない。
「誠に、私と付き合ってほしいなって」
「お、おぅ…よろしく」
「本当に!?」
「おう、」
「本当の本当に!?」
「嘘はつかねぇよ」
晴香がその場で飛び跳ねるように喜んでいた、満面の咲き乱れるような笑顔をこちらに向けながら。こんな笑顔を今までに見た事があっただろうか、いや、これから沢山見る事になるのだろう。
彼女となった、晴香の隣で……。
二人ではしゃいでいると、足音が聞こえてきた。誰か人が来たのだろう、お互いに少しだけ恥ずかしくなり大人しくなる。
「じゃあ、行こうか晴香」
「うんっ!」
照れくさそうに答える晴香と手を繋ごうと差し出した時、聞こえてきていた足音が途端に速くなった。晴香も俺も、何かあったのかと気になり、足音の方へと顔を向けた。
だが、気づくのが遅かった。
真っ黒のパーカーに、フードを深く被ったその人物は、鈍い音を上げながら晴香に激しくぶつかった。
俺は、ぶつかった衝撃で倒れそうになった晴香に、手を伸ばそうとした時、信じられないものが視界に入った。
「うわぁあ゛ぁぁぁあ゛あ゛ぁぁあ゛!?!?」
晴香の腹部に、包丁のようなものが突き刺さっていた。意味がわからない、一体何が起きた?
何かを確認する前に、目の前に起こった衝撃で腰が砕け、その場に崩れ落ち立つ事が出来なくなる、なんとか体を這いずりながらも晴香の側へと寄る。
間違いなく分かるのは、包丁が刺さっている事だけ。
そこから、真っ赤な血が服全体に滲み出していた。その流れた血がより一層、目の前の出来事を鮮明な事実へと変えていく。
泣き叫ぶことしかできない、どうして良いのかわからず、その包丁を抜く事さえも何も出来ない。全身から血の気が無くなっていくのを感じる、これが現実だと認識できない。
必死に目の前の出来事を否定しようとするが、それ以上の包丁と流れる血、そして、さきほどまで元気に溢れていた顔から生気が失ったのを見ると、現実の出来事として打ち付けられる。
先ほどの奴が足音を近づけてくる、刺した人物がまぁそばにいる事の恐怖よりも、今は守れなかった後悔と、罪悪感の波に押し潰されそうになる。
回らない頭を必死に動かし、そのぶつかってきた奴の方へと顔を向けた、どんなやつか知りたかったのか、特徴だけでも確認したかったのかは分からないが。
見上げると、フードの中の顔がハッキリと見えた。
その顔は、さらなる衝撃を生む。
何故なら、そこにいたのは見知った人物だからだ。
「えっ、愛染……さ、ん?」
「ふふふっ、こんにちは…新良さん」
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