5話.将来について

家に帰って両親がそろっている事もそうだが、父から話があると言われる事も珍しい。特に何も悪い事はしていないが、少しだけ不安になる。


席に着くと、父から話を振られる。


「高校三年生が始まったな」


「う、うん」


「卒業後はどうするつもりだ?」


なんだ、そんな事かと胸をなでおろす。母も、俺の話を聞く為に父の隣に座る。


「まだ何も決まってないよ」


「やりたい事とかはないのか?」


「ない、取り敢えず大学に行こうかなとは考えてる」


すると父が机を勢いよく叩く、その音に思わず体に力が入る、隣にいた母も同じらしい。


「なっなんだ「甘ったれた考えはするなよ!」


「はっ?」


「大学に行くにしても金はどうするつもりだ?」


「そ、それは……出してもら、おうと…」


「だから甘ったれるなよ!」


父は再度大きな声を上げる、ここまで怒ったとこは見たことが無い、なんでそこまで怒るかも理解できないでいる。


「そんな考え方のやつに出す金は一円もないぞ」


「はっ!?じゃあどうやって行けばいいんだよ!」


「自分で考えるか、親に金を出させても行きたい理由を見つけてこい!それまでは、考え方を変えるつもりはないぞ…」


意味がわからない、子が学校に行くのに応援しないことがあるだろうか、なんとなくと言った自分も悪いが、それでも大学を出ておく事は悪くないはずだ。


「何もないなら働け」


「いや、働くにしても大学出てた方が…」


「将来の事を何も考えれん奴が大学を出たところで同じだ、それたら四年間無駄にする事なく働け」


取り付く島もない、今は何を言っても無駄だろう。それなら金を出してもらうだけの理由を探してやる。正直まだ働きたくない、甘いと言われるかもしれないが、もう少し遊んでいたい。


せめてその間に、本当のやりたい事を見つけたい。


「分かったならこの話は終わりだ」


そう告げると、父は席を立ちスーツを着て家を出て行く、取引先との会食があるそうで、その間に俺と話をするためだけに立ち寄ったらしい。


迷惑な事だ。


俺も家で晩御飯を食べる気じゃなくなったので、私服に着替え外で食べてくると伝える。そうして、家を出て行き外を歩く、駅の方まで歩いていけば飲食店はいくらでもある。


「おいーっす!誠!」


後ろから声をかけられ振り向くと、晴香がいた。


「あれ?何してんの?」


「私はお使いだよ〜、誠こそなにしてんの?」


「ん?外で飯でも食おうかと思ってな」


「いいじゃん!私も行く!」


「はっ?お使いは?」


「いいのいいの!ささっ、早く早く!」


そう言われると腕を引っ張られ、駅の方へと向かって歩いて行く。一人なら牛丼屋さんでも入ろうかと思っていたが、晴香と一緒ならイタリアンのファミレスに入る事にした。


席に案内されると同時に、晴香から尋ねられる。


「なんか機嫌悪そうだね?大丈夫?」


「ん、なにが?大丈夫」


「えぇ〜?私には分かるよ!名探偵の血が騒いだね」


「ははっ、そんなものねぇだろ……まぁ、進路の事で親とちょっとな」


「あぁ〜、私もそういう事あるよ…進路は?ってしつこく聞かれてるもん」


どこも同じなんだろうか、いや、神崎ならこんな事では悩まなさそうだな、大学進学も固いだろうし。

長良はスポーツ関係の大学って話してたし、友成もあぁ見えて堅実に、大学進学らしいからな。


「あぁ!せっかく私といるのに、他の人の事考えてたでしょう!?」


「あっばかっ、頭を叩こうとするな!何も考えてねぇよ!」


「名探偵の目は誤魔化せないぞ!」


「だからなだよそれ、さっきから…」


ちょっと声が大きかったのか、周囲の静けさが目立っていた、俺たちはすぐに声を落とし大人しくなる。

側から見たら完全にバカップルみたいだろうなと思う、そう考えると途端に恥ずかしくなってきた。


「ねぇねぇ、今ってカップルに見られてるかな?」


「ないな、百歩譲ってバカップルだな」


「なっ、ひどい!」


同じことを考えてるとは、正直驚いた。まぁ、この状況なら似たような事も考えるか、周りもカップルだらけだしな、でもそういえば。


「晴香って好きな人とかいるの?」


「ふぇっ!?なんでっ!?」


晴香の表情が急に変わった、焦ってるような照れているような、そんな表情が浮かんでいる。そんなに驚くような事だろうか。


「いや、結構告白とかされてるじゃん?でも断ったりしてるからさ、好きな人でもいるのかなーって」


今のクラスでも、俺こそはと虎視眈々と狙っている連中もいる雰囲気だった。そういう奴らは決まって、俺を目の敵にしていたからすぐに分かる。


「いないよっ!断ってるのは、そんな事急に言われても困るというか、興味無いというか…」


「あ、それは分かる気がする…よく分からんよな」


「今が楽しいから、別に良いかな〜って」


「なるどね、まぁ晴香みたいな人に告白されたら、誰だって喜ぶだろうしな」


「それって…誠も?」


「そりゃ、好きになってくれたら嬉しいだろうよ」


こんなに可愛らしく、誰からも好かれて、かつ数多の告白を退けてきたような子に告白されたら、それは誇らしくも喜ばしいだろう。


「まぁ、晴香じゃなくても誰からでも告白されたら嬉しいけどな!はははっ!」


「咲良ちゃんや、真実ちゃんから告白されても?」


「万が一にも、される事があればな」


「愛染さんでも?」


「そりゃ、嬉しいさ」


すると、おもむろにメニュー表に手を伸ばす。すかさずベルを鳴らし店員さんを呼び、注文をする。


「巨大ジャンボ苺パフェ一つ!!!」


「おい、金あんのかよ?てか、食えんのか?」


「………誠の奢り」


「はぁっ?俺だって金が…」


「誠のお・ご・り・!!」


「いや、なんで…」


「落ち込んだ!気分が悪くなった!奢り!」


これは駄目だ、何かよからぬ地雷でも踏み抜いたらしいぞ、慌てて財布の中身を確認するが、ギリギリ足りそうな残金が入っていた。


流石にキャンセルするわけにもいかない、仕方なく注文をお願いし、パフェの到着を待つことにする。


運ばれてきたそれは、まさに巨大な苺パフェだった。俺もついでに一口貰ってみようと、スプーンを伸ばす。すると、晴香のスプーンに叩き落とされる。


「ふーっ、ふーっ、ふーっ」


「わかった、わかった、食べないよ」


これは恐ろしい、いつかの動画で見た餌を取られそうになって怒っている犬のようだと思った。


口に出したら終わるな。


そうして、晴香が食べ終わるのを眺めている。




暫くするとスプーンを机の上に置き、こちらを見つめてくる、どうやらお腹いっぱいなので食べて欲しいとのことだった。


「誠〜、お願い?」


「いやいや、いいから残せよ」


「お店の人に申し訳ないじゃん?」


「知らねぇ「た・べ・て・?」


どうやら、断ることは出来ないらしい。渋々スプーンを手に取り半分以上残ったパフェを必死に口に運んでいく、さらに半分以上食べた頃には限界を迎えていた。


たが、目の前の視線がそれを許さない。


俺には、食べる以外の道は残されていなかった。



会計を終えて店を後にする。


「あぁーっ、苦しい…」


「はい、よく出来ました!えらいえらい」


「誰のせいだと……」


「んん〜?何か聞こえたかな?」


「いえ、何でもありません」


「よろしい!晴香さんはご機嫌である」


もう二度とあのパフェは見たくない、重苦しくなった腹を抱えながら晴香と夜道を歩いて行く。


「あのさ、これからやりたい事見つければ良いと思うよ、そこからもう一度話してみても、遅くないんじゃない?」


「そうだな、時間は少ないが考えてみるよ」


「そう!その為には勉強もちゃんとしなきゃね?」


「うるせぇよ、俺と同じぐらいだろ」


晴香とはいつも同じぐらいの成績だった、成績の順番で言えば神崎、友成、晴香、俺、長良となっていた。


まぁ、確かに進学するならこのままの成績では行けるところもしれてるだろう、それでは納得させる事が出来なさそうだ。


このまま就職となっても、まともな職は無いだろう。


「今年は頑張るか」


「うんっ、また沢山遊びたいもんね!」


「そうだな、海とか行きたいしな」


「行きたい!BBQとかもやろうよ!」


「夏休みまでには、なんとか方向性は決めておきたいな」


「じゃあ、G.Wは勉強会だね?」


「それいいね、全員でやれば捗るだろ!」


「遊びに流れないようにっ!」


確かにそうだ、去年も散々勉強会をやろうと言っていたが、最後には遊んで終わっていた。

それでは意味が無いだろう、今年の勉強はこれからの将来がかかっているのだから。


早速、明日になったら皆んなに聞いてみよう。

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