4話.学校生活の始まり

翌日、いつも通りに家を出て隣の家の前で、晴香が出てくるのを待つ、今日はいつもより少し出てくるのが遅い気がする。


待っていると家の扉が空き、晴香が出てきた。


「遅かったな、おはよ」


そのまま何も言わずに俺に近づいてくる、機嫌が悪いのかと思っていたが違った。手に持っていたハンカチを俺の頬に当てて、勢いよく擦り始めた。


「な、急になにすんだよ」


「何かへんなのついてたよ?」


「お、おぉそうか悪いな、取れたか?」


「うん、取れた…せっかくの男前が台無しだよ〜?」


どうやら、頬についていたものが気になっただけらしいな、離れて見えるぐらいだから朝の食べ残しでも付いていたのだろうか?


「学校に着いて、恥ずかしい思いをせずに済んだな」


「へへっ、ありがとうは?」


「はいはい、ありがとう」


お礼を言いながら頭を撫でると、笑顔になっていた。

こうしていつも通り学校へと二人で向かう、駅に着くと目の前には愛染さんがいた、やはり近所に住んでいるのだろうか。


こちらを見つけるや、駆け寄って来た。


「おはようございます」


「おはよう、愛染さん」


「いつもお二人で仲良いのね」


「そうですよ〜、幼馴染だもんねっ」


「はははっ、腐れ縁ですよ」


なんだか前にも同じやり取りをした気がする。

そうして三人で電車へと乗り込み学校へと向かう。昨日と違ってそんなに混雑した様子はない、また同じ事が起こらないように三人で固まって扉側に立つ。


あまり会話は無かったが、電車が揺れるたびに肩がぶつかりそうになり少し緊張する。可愛らしくも女性らしい晴香と、惹き込まれる美人な愛染さん。こんな二人と一緒に通学してるのだ、周囲の目線が痛い。


良くも悪くも目立つな、この状況。


少しだけ居心地の悪い電車から出て、学校に向かう。俺たちは同じクラスなので、教室も同じだ。


「そういえば、教室の場所知らねぇな」


「大丈夫だよ〜、こっちこっち」


俺の手を引きながら教室まで案内してくれる、ここでも周囲の視線が痛い、まぁ慣れたもんではあるが。

愛染さんも後ろについて、一緒に教室へと向かう。


晴香が教室の扉を勢いよく開け、中に入って行く。


「おいっすー!おはよーっ!」


「おはよーっ」

「おはっ」

「おっはよーっ」


今年も変わらず、クラスでは中心になっているらしい、三年生にもなると顔見知りも多いので、クラスが変わっても仲のいい友人が多くなっていた。


席も既に決まっているらしいので、俺の場所を教えてもらい席へと着く。周りを見ると中々の布陣だと感心する。


後ろには晴香が座り、右隣には友成。前には長良、左には神崎が座っている。愛染さんは少し離れて、教室の一番左後ろに着席していた。


「これは五月蝿くなりそうな席だな」


「あっ、私の事っすか!?」


「はははっ、誠もその席は苦労しそうだな」


「そうそう!私みたいに落ち着かないとね」


「あなたが落ち着いた事はない」


「あ、咲良ちゃん酷い〜っ!」


うん、これは五月蝿くなること確定だな。楽しくなる事には間違いないが、かなり良い席になったと思う。

ふと、後ろの方に視線をやると愛染さんが微笑みながら本を読んでいた、こちらの会話が聞こえたのだろうか。


暫く話し込んでいると、教室の扉が音を立てながら開かれる。それと同時に、騒がしかった教室が静かになった。


「あ、誠っ、担任の先生きたよ」


扉の奥から男性の先生が入ってきた、髪はパーマのようにボサボサしており、丸い眼鏡をかけている。ベストを着て、30代ぐらいだろうか?やる気と覇気の無さそうな担任だなと思った。


「あーい、おはようさん」


「なんかくたびれた担任だな」


「おーい、新良だっけ?聞こえてるぞー」


周囲から静かな笑い声が聞こえる、初っ端から注目されるつもりは無かったのに。


「すいません、つい」


「さて、じゃあ出席初めてくぞ〜、愛染〜」


「はい」


あれ、そういえばこういう時って席順はあいうえお順じゃないっけ?俺は気になったので友成に聞いてみる。


「昨日な、担任がそれじゃ面白くないって早速席替えのくじ引きを始めたんだよ」


「なるほどな」


「おい、新良ーいないのかー?」


「あ、はいっ!」


「はい、無駄話の多く、俺の事をくたびれた教師だと思ってる新良君は、真面目にご出席っと」


今度は笑い声が教室中で上がっている、思わず担任に突っ込むがそれすらも笑いに代わっていた、初日にしてかなりやらかしたっぽいな、この空気は。


そうして午前の授業が終わり、昼休みになった。


「あっはははっ、初日からやらかしたな!」


「うるせぇよ、俺だってあんなに目立つつもりは…」


俺と友成は食堂に昼ごはんを食べにきていた、ここの食堂はクオリティも高く安いとあって、弁当を持ってくるよりここで食べる生徒は多い。俺もその一人だ。


「で?今日は何食べんのよ?」


「俺はそうだなー…生姜焼き定食だな」


機械で食券を買って注文するシステムになっている。順番が来たので、お金を入れて生姜焼き定食のボタンを押す。


すると、後ろから腕が伸びてくる。


「あぁっ、間に合わなかったっすね!」


「おい、長良…何してんだお前?」


「新良に奢ってもらおうとしてるっす!」


「あほかっ」


俺は食券を手に取りカウンターへと向かう、いちいち構っていたらこちらが損するだけだ、疲れる。

それにこれ以上目立ちたくもない、ほら見ろ、注目され始めているじゃないか。


俺は生姜焼き定食の乗ったトレーを手に、席に向かう。全校生徒が同じ時間に昼に入るので案の定混み合っている、何とか空いてる席を見つけて座る。

後から友成も合流した、それに釣られて長良と神崎、そして晴香も一緒のテーブルに座る。


一気に居心地が悪くなった、バスケ部のエースで女子からの人気も高い長良に、クールな見た目で美人な神崎、そして言わずと知れた晴香。こいつらが俺たちとご飯を食べているのだ、周囲の男子からの嫉妬は凄まじいものとなっている。


「じろじろ見られてるね〜」


「無視よ、無視無視、声をかける度胸も無いからね」


「そうっすよ〜、気にしたら負けっす」


愛染さんが合流してないだけましだろう、ここに合わさったらそれはもう学校生活はまともに送れなくなる、それでなくても、周囲から紹介しろや連絡先教えろなど鬱陶しいのだから。


まぁ、友成もそれなりにモテる方なので、郵便局員みたいに手紙を届けたりもした経験もあるわけだが。

俺だけがそういった状況からは遠い、まぁ気にしてない。何も気にしてない、気にしたら負けだ。


なんか、前にもこんな事考えた事があるような。

今日はなんだか同じような光景が多いな。


「なぁなぁ誠、この後の授業なんだっけ?」


「あ?国語じゃ無かったっけ?」


「お、じゃあ担任の授業だな」


「え?あいつ国語なの?」


根暗な感じがしたから理数系かと思っていたが、国語とは意外だな。そして、春休みが終わり午後の授業が始まる、確かに国語は担任だった。


「はい、じゃあ授業始めまーす」


「授業もやる気なさそうだな」


教科書を開き、授業が始まる。


題材は ー 羅生門 ー


「なんか暗そうな話だな」


「あの先生にぴったりだな」


そうして友成と笑っていると、先生に当てられる。教科書の内容を音読するようにとの事だった。

俺は渋々席から立ち上がり、音読を進めていく途中で止められ、友成と変わる。


「はい、ご苦労さん。授業中は静かにするように、分かったな?」


「「 はーーーい 」」


そうして今日の授業が終わって行く、今年は受験の年なので二日目にして授業は詰め込まれていた。

夏休みを終える頃には、復習や受験対策に向けた内容を濃くしていく為らしい。


学校を終えると、今日は特に用事もないので真っ直ぐと家に帰る事にする、晴香と愛染さんも一緒に帰りたいとの事なので同じく教室から出て行く。


嫉妬じみた声が聞こえたが気にしない。いちいち気にしてたらきりがないからだ。


そうして、学校から出て電車に乗り込む。


「愛染さんは、卒業したらどうするかか決めてるんですか?」


「私ですか?、私はまだ未定ですね…」


「ですよね、俺もです、晴香もそうだよな?」


「ん?、私は取り敢えず進学かな〜特にやりたい事もないし、大学は出ておきたいかなって」


「どこに行くとかはきめてるの?」


「それはこれからかな…成績次第だし……」


俺も、本当に何も決まっていなかった。進学するのか就職するのか、やりたい事もなければ、目標もなかったからだ。


果たして、来年の自分はどうなっているのだろうか。


「なら、皆さんで大学に行けたら楽しそうですね」


「それ分かる!絶対楽しいよね!!」


そんな決め方で良いのだろうか、いや、それも決め方の一つなのかもしれない。全員で同じ大学に行って、また楽しく過ごすのも悪くないと思う。


そうして駅を降り、愛染さんと別れ、俺も晴香と家まで歩いて帰り自宅の前で別れる。


家に帰ると、珍しく両親が揃っていた。


いつもは残業や、仕事に行ったりでいないはずなのに。珍しい事もあるもんだと思う。



「おう、誠帰ったか…」


「あ、ただいま…」


「ちょっと触りなさい、話がある」



急な事に戸惑いを覚えるが、制服のまま席に着く。

一体何の話をするのだろうか?

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