第25話 不審メール:ホームステイ先がヤバイ
十年前、アメリカ東海岸で留学生が行方不明になった。彼は、ホームステイ先で何か妙なものを見たらしい。
彼からのメールを受け取ったMさんは、十年後の今、スライムのように溶かされた。
そしてMさんに宛てられたメールを読んだ良介は、同じメールを受け取るようになってしまった。
何が起っているのかは分からない。でも、ただ一つはっきり言えるのは、これは普通の探偵には解決できない事件だということ。
良介を助けられるのは、怪異探偵の万屋さんだけだ。
それなら怪異探偵の助手として、僕がやるべきことは一つ。万屋さんに報告する前に、集められるだけの情報を集める。
覚悟を決めると、僕はスマホを取り出した。
「良介。そのメール、僕に転送してくれないか?」
そう伝えると、良介は慌てたように首を左右に振った。
「大丈夫。きっとただのいたずらだ。何も起こらないよ。それに、メールを読まないと捜査できないし」
僕は彼を安心させるように、できるだけ平静を装って笑い飛ばした。
「わ、分かった。ありがとう。醒司」
メールを受信すると、僕は早速目を通した。
♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢
件名:
ホームステイ先がヤバイ
本文:
ホームステイ先がヤバイ!
別に人間トラブルって訳じゃないんだよな。ホストマザーは料理上手で、ホストファザーは明るく冗談を飛ばす人だし。本当にいい人達だよ。
ただいくつか困った事があってさ。誰もいない部屋でテレビが付いたり、一晩中何かが家中を駆け回る音が聞こえたり、バスルームが手跡だらけになったりしてるんだよな。
で、ホストマザーに聞いてみたらさ、
“Don’t worry. This sometimes happens in the East Coast”
(心配しないで。アメリカ東海岸じゃたまにあることよ)
だってよ。ちなみに文法はあってるか分からんぞ。俺が思い出して書いただけだからな。じゃあ英語で書くなって? 何だよ、かっこつけちゃ悪いかよ。
まあ、あれだよ。この国って東海岸から開拓してった国だから、東の方が歴史古いんだよな。だからかな、ホストファミリーが特別そういう人なのかもしれないけど、西との対抗意識があるっていうか、霊的なものが出るのは歴史がある証拠って考えてるっぽくてさ。
だからホストファミリーはさ、心霊現象が起きても全然気にしてない訳。先祖と一緒に暮らせるって素敵じゃないかって聞かれてさ。まあ、俺も今のところそんなには困ってないけどさ。
じゃあ別にいいだろって? 俺もそう思ってたよ。
でもさ、バスルームの手跡見たらそう思えなくてさ。
人間の霊じゃないんだわ、ここにいるの。
それをどうやってやんわりと英語で伝えたらいいか、T●EFLで高得点をたたき出したお前に相談したいんだよ。
♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢
次に、新聞記事のコピーに目を通した。
見出しは『アメリカ東海岸で日本人留学生失踪』だけど、記事を読んでみれば失踪したのはメールを送ってきた人物だけじゃなさそうだ。このメールに出てきたホストファミリー、この二人も消えている。
ふと、スマホの振動に気付いた。
画面を見て、きっと僕の顔は青褪めたんだろう。メールボックスに、新しいメールが届いていた。
件名:ホームステイ先がヤバイ
——あのメールだ。読んだのはついさっきなのに、もう届くなんて。
スマホがまた振動した。
件名:ホームステイ先がヤバイ
もう二通目が届いたようだ。
スマホはまた振動した。
件名:ホームステイ先がヤバイ
件名:ホームステイ先がヤバイ
件名:ホームステイ先がヤバイ
件名:ホームステイ先がヤバイ
件名:ホームステイ先がヤバイ
件名:ホームステイ先がヤバイ
件名:ホームステイ先がヤバイ
件名:ホームステイ先がヤバイ
件名:ホームステイ先がヤバイ
「何だこれ!?」
メールボックスが溢れかえるような勢いで、スマホがメールを受信し続けている。
脳裏にMさんの最期が過った。
何がどうしてああなったのかは分からないけど、このままメールを受信し続けるのはマズイ気がする!
「良介! お前のスマホはどうなってる⁉ ヤバイメール、いっぱい送られてきてないか?」
声を張り上げた僕に驚いたのか、良介は跳ね上がった。
「受信したのは、お前に転送したやつだけだけど……」
その返事を聞いて、一先ず安堵した。
何が条件なのかは分からないけど、マズイ状況にいるのは僕だけみたいだ。
「なあ。さっきからずっとスマホ鳴ってるけど……大丈夫か?」
真っ青な顔をした良介に、僕はできるだけ力強く頷いた。
「大丈夫。でも、すぐ行かないと」
そう言って僕は良介と別れた。
スマホをバッグに突っ込み、キャンパス内を人気のない場所まで駆け抜けると、万屋さんから貰った魔法の鍵を取り出した。
あわい横丁にある万屋探偵局とこっちの世界を繋ぐ鍵。いつもは部屋のドアにさして使っている
でもこれをくれた時、万屋さんは「鍵を使うドアは何でもいい。これはドアに使うのではなく、ドアに使われる鍵だからな」と言っていた。
——だったら、ここからでも行けるはず。
僕は誰もいない研究室のドアに鍵を差し込んで回した。
ドアを開けた先には、縁のない研究室ではなく、万屋探偵局の玄関が広がっていた。
「万屋さん! いますか!?」
少しして、「セージか」と、最早聞きなれてしまったイントネーションで僕を呼ぶ万屋さんの声が聞こえた。
「奥へ来てくれ。今手が放せないんだ」
万屋さんの声はいつもの応接室ではなく、住居の方から聞こえた。
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