第19話 七尋幽霊の正体 2/2
この浴衣の女性が、七尋幽霊の正体だとすれば——。
「どうしてここに、この人の写真が」
その答えに気付きつつ、僕は無意識に答えから目を逸らしてしまっていた。そんな僕の様子に気付いたのか、万屋さんは、
「サガリ、セージを頼む」
そう言って一人パソコンの前に立ち、杖をかざした。
起動音の後に明るくなるモニター画面。魔法を使っているのか、手を触れずにパスワードを軽々突破して、パソコン内に隠されていたフォルダを引っ張り出していく。中身は——。
突然目の前にサガリさんの顔が降ってきて、視界を遮られた。
「見ない方がいいよー。壁に貼られてるのはこの部屋に住んでる人間のお気に入りだろうけど、あの機械の中にはもっと沢山同じような写真があるっぽいからさ」
「でも、僕は助手なので……。何か手伝わないと」
「だからって見たくないもの、無理して見なくていいんじゃない? 人間って仲間意識強いじゃんね~、同族が苦しんでるとこ、あんまり見たくないでしょ」
図星だ。もうこれ以上、写真を目に入れたくない。こんなことをする奴への嫌悪感でどうにかなりそうだ。
「はいはい。おつかれー。証拠発見、任務完了、初出勤からセージ君はよくがんばりましたー」
サガリさんはそう言って、僕の髪をぐしゃぐしゃにした。からかわれているのか?
「やめてやれ、サガリ」
万屋さんが戻ってきた。
「パソコンの中に証拠があった。写真から推理した通り、七尋幽霊になった女性もここに住んでいたようだ。彼女が住んでいたのは、内間さんが住んでいた部屋だった。同じ部屋を借りた縁がそうさせたのか、彼女は内間さんに警告する為に霊障を起こしていたのだろう」
「上の階の住人が危険だと内間さんに知らせるために、天井を叩いていたんですね……」
「そのようだ。魔法陣のせいで夢魔には気付いていないようだったが、犯人の顔は覚えていたらしい。
犯人はこの部屋に住むマンションの大家だ。立場を利用し、被害者達を油断させて犯行に及んだのだろう。その後は撮影した写真や動画を使って、被害者の口を封じていたようだ。マスターキーがあれば、仕掛けたカメラの管理もできるだろうしな。
この件は警察の知り合いに報告しておく」
「内間さんがここから引っ越したのは正解でしたね」
そう口にして、違和感を覚えた。
——引っ越して危険は去ったはずなのに、どうしてまだ内間さんの部屋に七尋幽霊が出るんだ?
内間さんの証言が頭の中に蘇る。
『ガリガリガリガリ、窓を引っ掻くんですよ。血走った目で私を見て、何かを囁いていたんです』
——天井じゃなくて、窓を引っ掻くようになった? 顔を内間さんの方に向けて、何かを訴えている?
「ミャオ」
鳴き声が聞こえて、視線を下に向けると、どこからともなく現れた木製のネコが万屋さんの足に擦り寄っていた。箱を調べに行った使い魔が戻ってきたらしい。
使い魔のネコを抱き上げた万屋さんは、しばらく報告を聞いた後、一撫でしてからまた床に下ろした。
「住職は首を傾げていたそうだ——受け取ったものの、箱は古いだけで何の呪いの力もなく、中には何も入っていなかった。それが余計不気味だ——とね」
「ただの箱って……じゃあ、何で天井裏に置かれていたんですか」
「違うよセージ、箱は最初から天井裏に置かれていなかったんだ。あれも黒カビと同じだ」
「どういう意味です?」
意味深な事を口にする万屋さんを一瞥すると、彼は視線をカーテンに向けていた。
——カーテンに、人影みたいなのが見える。
目を凝らすと、ペタペタと窓を触っていた影がガラスをすり抜けた。写真で見た浴衣を着た女性が部屋の中に現れ、何かを必死に訴えようと口を動かしている。でも、声が聞こえない。
——あんなに目を赤くして、泣いているのに、僕は期待に応えてやれないのか!
だけど、万屋さんは何かに気付いたらしい。
「しまった! もっと早く気付くべきだった。この部屋に犯人がいないということは、内間さんの身に危険が迫っている!」
ドアに向かって走り出した万屋さんを追いかけて僕もドアに飛び込んだ。一度あわい横丁に繋がったドアを再び潜ると——。
「いやぁあああああやめてえええ!!」
内間さんの悲鳴が聞こえたのは、僕達が彼女の家の玄関ドアを潜り抜けた時だった。
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