紅のリップ

かなた茶P

紅のリップ

「さようなら。赤利君」

俺は今、人生で初めてかもしれないことをやってしまった。

たぶん誰もが好まない最大の罪。

そう、失恋したことだ。あの、美少女の幼馴染に。

彼女の名前を言ってしまうと、その名を聞いてしまったら、俺の想いが崩れ落ちてしまいそうで怖かったので言わない。

ただ言えることは、俺は恋をしたんだ。

生まれて初めて、俺は本気で、心の底から、恋をした。

なのに、たった一言の拒絶で全て終わってしまった。

だから、さようなら。

俺の初恋は、幼馴染という形で終わった。

きっとこの想いは、永遠に忘れることのできない思い出となって、俺の胸の中に残るだろう。

だからさようなら。

俺は彼女に対して、一生涯、想いを伝えずに死んでいくだろう。

こくり。

喉の奥が渇いていた。

俺は一度目を閉じ、瞼を閉ざして、それからゆっくりと目を開いた。

そして、再び前を向いた。

目の前には、幼馴染がいた。

「あ、あの、赤利君」

「な…何ですか」

俺の声はもう、いつもの俺ではなさそうだった。

きっと今の俺は、酷く傷ついた顔なのだろう。実際、心はズタボロだ。

だから、こんな顔、見られたくなかった。

でも、彼女の前にいるとどうしても見られちゃうんだよな。

彼女は少し怯えながら言った。

「その、これをあげるね」

「え…」

「これ、私のリップよ」

俺の目の前に、赤いリップが差し出される。

それは彼女がいつも使っていたリップだった。

「あの、どうして俺に?」

「キスした日のことこれからも覚えてほしくって。それで、その、失恋相手でも人生の思い出になるかなって」

「あ…」

「私ね、本当は好きだったの。赤利君のこと」

「え…」

「赤利君みたいに優しい男の人は他にいないかなって。でも、私の性格を考えるとやっぱりダメかな、って思って…」

「いや、そんなことは…」

「私はね、きっと、臆病なんだと思う。だからごめんね。でも、私は本当に、本当に赤利君が大好きだった」

「俺も…同じだよ。俺にとってあなたは、ずっと好きだった人だから…」

「うん…。ありがとう。それじゃあ、また明日」

そう言うと、彼女は走り去っていった。

その背中を見送る俺は、今、何を思っているのだろうか。

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紅のリップ かなた茶P @anatta

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