第21話 配信を終えて
「皆さんお揃いでどうしたんですか?」
俺は嫌な予感がしながらも尋ねる。
その問いには背後から抱きついてきているエリザさんが答えてくれた。
「んー、斉藤くん、さっきの配信見た?」
「は、配信ですか……?」
冷や汗がブワッと噴き出る。
さっきの配信とか、絶対に俺の配信じゃん……!
何を言われるのかドキドキしながらエリザさんの言葉を待つ。
彼女は俺の背中に頬をスリスリしながら言った。
「そうそう。仮面男がついに配信してねぇ。彼のヤバさが露呈したんだよ。絶対にうちが最初にコンタクトを取るんだって、美玲がうるさくて」
美玲。
確か【アルカイア】のリーダー新城さんの下の名前だったはず。
チラリとそちらを見ると、恋焦がれる乙女のような目をしていた。
……なにあれ、怖い。
思わず身震いする。
一歩間違えれば獲物を狙う猛獣の目とも言えるような、恐ろしい瞳だった。
そう恐々としていると、天宮さんが助け舟を出してくれた。
「そういえば蓮君。結衣ちゃんのお見舞いはいいの?」
「ああ、早く行った方がいいかもですね。やっぱり心配ですし」
というわけで、俺はお先に。
そう言おうと思っていたのに、めざとい桜井さんの眉がピクリと動いた。
「結衣ちゃん……? 恋人さんかしら?」
「あ、いえ。妹ですよ」
「……妹さんが入院してるの?」
…………あっ。
そういえば配信でもそのことに触れたんだった。
マズい、やらかした。
俺は再び冷や汗を流しながら、どうにか誤魔化そうとする。
「そ、そうなんですよ〜。この間、骨折してしまって」
「骨折……?」
「はっ、はい。足首の骨折ですね」
「そう……骨折ね。じゃあ違うか……」
考え込むように人差し指を顎に当てる桜井さん。
そんな彼女を不思議そうに新城さんは見て言った。
「どうしたんだ、穂波」
「……いえ、なんでもないわ」
「そうか。ならいい」
桜井さんの言葉に新城さんはあっさりと頷いて引き下がった。
た、助かったのか……?
ジッと身構えていても、それからさらなる追求はなく、本当に助かったみたいだった。
「そ、それじゃあ、俺はこれで」
なんとかエリザさんのクンカクンカから逃れると、【アルカイア】の面々に別れを告げてその場を離れるのだった。
+++
──
「マズい、マズいマズいマズいッ!」
ドンドンと状況が悪い方向に向かっているのを弘明寺は感じていた。
依頼を失敗したカナデという男とも連絡がつかなくなるし、挙句は斉藤蓮が配信を始めてしまった。
彼に誰がネット環境を与えたのか分からないが、知識をつけられるのが一番マズい。
俺が奴らからぼったくっていたことがバレ、圧倒的な力を持ってして復讐されてしまうかもしれない。
しかもその配信は圧倒的な速度で伸びた。
視聴人数は700万人近くまでいき、アーカイブも一日で1億再生まで伸びた。
巷では【仮面男】から【変態挙動仮面】にあだ名が変わりつつあるみたいだ。
その【変態挙動仮面】は、配信での斉藤蓮の挙動が頭おかしいほど正確だったからつけられたみたいだった。
ともかく、まだ斉藤蓮に正確な情報は伝わっていないだろう。
その前に斉藤蓮のことをどうにかして処理しなければならない。
だからといって、弘明寺が斉藤蓮に勝てる未来なんてどう思い描いてもあり得なかった。
「どうする……どうすれば……、って、そうか! 強者には強者をぶつければいいのか! それならあれが使えたはず……!」
強いやつを倒すには、強いやつを利用するしかない。
だが、人間には斉藤蓮に勝てる相手なんてなかなかいないだろう。
そこで弘明寺は、強力な魔物をぶつけることを思いつく。
カタカタとキーボードを叩き、裏オークションサイトで目的の品を探し出す。
「……これだ。これさえあれば」
出てきたのは【トラップ像】という名のアイテムだった。
説明欄には『これを使えば嫌いなアイツもトラップが発動して強力な魔物に取り囲まれる! 自分の手を汚さずに相手を殺したい時にどうぞ』と書かれていた。
「くくくっ……金はまだいくらでもあるからな。とりあえず落札して、どうにか斉藤蓮のカバンに入れられれば……」
このトラップ像はダンジョンにいる間にランダムに発動する。
そして発動すれば【イレギュラー・モンスター】という魔物が出現する。
その魔物の強さは、その階層からさらに50階層下に住まう魔物と同等らしい。
流石に斉藤蓮といえど50階層下の魔物には手も足も出ないだろう。
そして弘明寺はかなり高額になってしまったが、どうにか【トラップ像】を入手でき、それを斉藤蓮の鞄にどう入れるかを考え始めるのだった。
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仮面被りの世界最強は全力で正体を隠したい AteRa @Ate_Ra
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