第20話 一難去って……

「いち、じゅう、ひゃく、せん……やっぱり700万じゃねぇか……!」


 なんだよ700万人って。

 社会の教科書でしか聞いたことないよ、こんな数字。


──700人だよー。

──見間違えだよー。

──勘違いだよ。700万なんてあり得ないって。


「騙そうとしてくるな、お前ら! 俺はそこまで馬鹿じゃない!」


──いやいや、騙されそうになってる時点で……。

──既に一回騙されてるんだよな。

──仮面男って案外馬鹿な子だったのか。

──正体を隠してて【アルカイア】の配信に映った時点でアホの子だろ。

──そりゃそうか。


 ぐぬぬっ……。

 人のことを馬鹿な子だとか、アホの子だとか、好き勝手言いやがって。


「俺はそこまで馬鹿じゃない」


──はいはい、そうだねー。

──そういうことにしておこう。

──適当に頷いてれば馬鹿だから騙されてくれるだろ。


 騙されねぇからな!

 流石にそこまで馬鹿じゃねぇから!


 ……はあ。

 突っ込み疲れた俺は、ふともう一度視聴人数を確認する。

 いまだにドンドンと増えていっていた。


「700万人ってことは、俺の通ってた中学校35000校分かよ……」


──中学基準なの、なんか可愛い。

──ここで中学が出てくる時点でやっぱり若そうだな。

──↑でもそんな短時間で強くなれるか?

──確かに探索者としての地位が確立するのって五年はかかるよな。

──じゃあ二十代中盤か。


 うぇっ!?

 俺の年齢考察が始まってしまった。

 マズい……。

 俺はなんとか話題を逸らそうと頭を働かせる。


「てか、次の配信どうするか」


──おっ、また配信してくれるのか?

──そういえば妹の医療費、稼ぐんだっけ?

──これで貯まってそうだけどな、広告収入。

──かなり難病なんだっけ?


 俺の呟きにコメント欄の流れが変わった。

 しかしこっちもこっちで胃が痛い。

 別に結衣は難病ではなくただの骨折なんだよ……。

 俺は曖昧に笑みを浮かべて答える。


「あは、あはは。ともかくこうしてきてくれてる人もいるし、あと何回かやってもいいかな」


 そうすれば医療費どころか生活費も稼げそうだし。

 それどころか、結衣の進学費用も稼げたりして。

 ……うん、やっぱりまだ辞める理由はないな。

 ただ一点だけ、俺の秘密がバレるリスクがあるってことだけど。

 まあそれはなんとなるだろ、多分。


──おおっ! 一回だけだと思ってたから嬉しい!

──さすが! その言葉を待ってました!

──うぉおおお! すげぇ楽しみだ!

──次はどんなおもしろ配信を見せてくれるのか。


 おもしろ配信だったか……?

 てか、ハードル上げられるのもキツいんですが。


「まあ、期待せずに待っていてくれ。それじゃあなぁ」


 そう言って俺は配信を切った。

 ふぅ……クソ疲れた。

 なんだよ700万人って。

 怖いよ。


 一気に気が抜けた俺は、入り口に戻りつつ仮面を外し、地上に出た。

 するとそこではいつも通りヤクザたちが屯っていたが。


「おおっ、坊主か。……なあ、坊主」


 俺が横を通り過ぎようと思ったら声をかけられた。

 ビクッと体を震わせて立ち止まる。


「は、はいっ!」

「いや、そんなに緊張しなくていいんだが、ダンジョンで仮面をつけてる男を見なかったか?」


 さらにビクビクッ! と体を振るわせる。

 俺はブンブンと必死に首を横に振って言った。


「みっ、見ませんでしたよ、そんなの! もちろん、そんな怪しいやつ、見るわけないじゃないですか!」

「そうだよなぁ……。旦那にも探すように言われるし、俺、さっきの配信見て一目惚れしちゃったんだよな」


 ひぇっ!!

 一目惚れ……!?

 なんぞ、一目惚れって!

 俺、掘られる!?


「って、一目惚れってそういう意味じゃねぇからな。勘違いすんなよ。単純に憧れ的な意味だ」

「は、はあ……」


 あぶねぇ……。

 社会的に殺されるかと思った。


「ああ、一度でもいいから話してみてぇな。あそこまで強くなれた秘訣を聞いてみてぇ」


 実はもう話してますよ……。

 目の前にいて、現在進行形で話してますよ……。


 でもそんなことは口が裂けても言えない。

 俺は震える声で「ははは、会えるといいですね〜」とだけ言ってその場を離れた。

 そして池袋駅から電車に乗ろうとしたその時──。


「あっ、かめ──違った、蓮君。お疲れ」

「……ああ、天宮さ──って、うぉっ!」


 偶然出会った天宮さんに声をかけられ、俺はそちらを向く。

 てか仮面君って言いそうになってたよね、今。

 そんなことを考えてボンヤリしていたせいもあり、俺は背後からの強烈アタックに思わずよろける。


「んふ〜、やっぱり若い男の子の匂いは最高だね〜!」


 抱きついてきたのは【アルカイア】のエリザさんだった。

 そして、天宮さんの後ろから他の【アルカイア】のメンバーもゾロゾロと現れるのだった。







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