第17話 ボス戦

 それから約四時間後。

 順調に階層を進み、第599層まできていた。

 現在は上層よりも鬱屈とした墓地ステージを、敵を倒したりボス部屋を探しながらブラブラと歩いている。


──攻略早すぎ……。

──敵がバンバン死んでくんだけど。

──俺たちは夢でも見てるのか……?

──映画よりも映画してる。


 大量のコメントが届く。

 視聴人数も100万を突破していた。


 普通に怖いんだけど……!

 俺、緊張で何も喋れないよ!

 第549層で出会ったボスと戦った時より緊張している。

 だって100万人だぜ……?

 100万人って言ったら、中学校3000校くらいの規模感だぜ……?

 それらが全員俺を見てるって、緊張で吐きそう。


──てか、今日はボス戦までいくのか?


 ふとそんなコメントが目に入った。

 それに俺は答える。


「ああ、もちろん。今日で第600層を目指すつもりだったな」


 コメント欄は俺の言葉に加速を始める。

 何度この感覚を味わったか……。

 もう自分の世間知らずさを思い知らされるのはやめてほしい。


──やっぱり世界記録は達成してたか。

──600層……!?

──なんだよ、600層って。

──そりゃ見たことない魔物ばかりなわけだ。


 どうやら他の人はこの階層まで来たことがないらしい。

 そんな馬鹿な。

 本当に俺、強かったのか。

 ますます正体を明かせなくなった……。

 世界最強、目立つ、未成年、犯罪、逮捕、そんな言葉がグルグルと脳内を巡っていく。


 ただここまで来たら止まれない。

 それに早急に医療費も稼がなければならない。


 ……仕方がないことだもんな。

 結衣のため、結衣のため。

 俺は自分にそう言い聞かせていたが、ふと妙案が思い浮かんだ。


 ここまで来たら、いっそのこと視聴者を増やして、味方を増やせばいいのでは……?

 俺が逮捕されそうになった時に、みんなが弁護してくれればワンチャン……?

 いや、法律だからそう都合良くはいかないんだろうけど、影響力を手に入れて法律ごと変えてしまうか……?

 なんか頭おかしい方向に思考がいってる気がするが、追い詰められた人間なんてこんなもんだ、多分。


 もう逆に配信を盛り上げるか。

 そう思ってしまった俺は、ふとこんなことを口にしていた。


「ん〜、第599層のボスは武器なしで挑むか〜」


 どんなボスかは分からないが、今のところフィールドの魔物にも一切苦戦してないしな。

 これまでの感覚から、第600層のボスくらいなら武器なしでも勝てそうな気がしていた。

 しかし再びコメント欄は加速して──。


──はっ……!? 死ぬぞ、それ……!

──武器なし!?

──いやいや、それは流石に無理だって!

──断言する! 死ぬからやめとけ!


 死ぬんじゃないかと心配してくるコメントが多く届いた。

 しかし流石にこんなところでは絶対に死なない。

 一応保険もあるしな。

 俺は片手をヒラヒラさせながら言った。


「大丈夫大丈夫。任せておいてよ」


──そう言うなら、仕方がないか……。

──俺たちには止められないしな。

──自信がありそうだから、本当に大丈夫かもな。


 そうしてさらに二十分ほど歩き、俺はようやくボス部屋を見つけ出すのだった。



   +++



 ボス部屋の扉を開け中に入ると、そこにいたのは一人の少女だった。

 しかし少女と言っても、血肉が腐敗したアンデットだ。

 彼女の頭上には【鎮魂の墓守リーシュ】と書かれていた。

 それが彼女の名前なのだろう。

 基本、各階層のボスには本名と二つ名が書かれており、何かしら過去を思わせるところがあった。

 それがダンジョンとしての設定なのか、はたまた現実なのか。

 ダンジョンについて分かっていることはまだまだ少なかった。


 リーシュは手に持った凍てついた大鎌を構えた。

 俺が入ってきたことに気がついたのだろう。

 今回、俺は武器を使わないので、両手を下げ自然体で突っ立っていた。

 瞬間──。


 リーシュが消えた。


 俺が上体を逸らすと、次の瞬間にはビュンと空気を切り裂く音が聞こえた。

 瞬間移動系のスキルも持ってるのか。

 ぱっと見、大鎌系のスキルか氷魔法系のスキルかと思っていたが、どちらも違うのかな?

 俺は一旦様子を探るために、少しバックステップで距離を取る。

 そしてスキルを発動させた。


「【上級付与スキル:危機管理シックス・センス】」


 これは自分の知覚に効果を付与するスキルだ。

 危険が迫ってくるのを感知するだけの単純なスキルだが、馬鹿にできない。

 これがあるのとないのとでは、被弾率がかなり変わるからな。

 さらに続けて、俺はスキルを使用する。


「【神級付与スキル:未来予知エクスペクト・エンチャント】」


 これは三秒先の未来が重なって見えるように付与スキルだ。

 最初は情報過多で吐きそうになっていたが、慣れるとクソ使える。

 しかも今回のように相手の動きが予測しづらいときに役立つな。


──また神級スキルだよ!

──そうポンポン新しい神級を出さないでくれ!


 コメント欄が大盛り上がりしているっぽいが、今は見ている暇はない。

 俺はスキルを使うと、さらにバックステップでリーシュから距離を置くのだった。


視聴人数──1,896,878人

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