第18話 第二形態

 バックステップを取ると俺のスキル危機管理シックス・センスが反応する。

 このスキルは五秒先の危機まで予測してくれるので、ちょうど二秒後に未来予知エクスペクト・エンチャントが発動する。


 ──見えた。


 背後からの大鎌の薙ぎ払いの気配だ。

 その薙ぎ払いの後、大きく空間が切り裂かれるのも見えた。

 おそらくリーシュは氷属性や大鎌のスキルではなく、空間系のスキル持ちなのだろう。

 だからと言ってやることは変わらないが。

 俺はその攻撃を予測し、素手にスキルを使った。


「【神級付与スキル:反射付与パリィ・エンチャント】」


 三秒後。

 背後から迫ってくる大鎌。

 ふっと息を吐いて脱力する。

 肩の力を抜き、自然体で、クルリと反転する。

 同時に大鎌を素手で弾いた。


 ──トンっ。


 軽く弾かれる音とともに、リーシュが大きくのけぞった。

 パリィの効果でノックバックしたのだ。

 俺は追撃をかけるようにさらに素手にスキルを重ね掛けする。


「【上級付与スキル:毒属性付与ポイズン・エンチャント】」


 流石に素手では威力が足らないので、毒の継続ダメージで相手の命を削っていくつもりだ。

 毒属性が素手に付与されたら、のけぞっているリーシュの腹にストレートパンチを食らわせた。


「グギャァアアアアアアアアアアアアァア!」


 耳障りな悲鳴が上がる。

 毒が効いた証拠だ。


──何で後ろ向いたままパリィできるんだよ!

──素手ってこんなに強かったのか……。

──↑騙されるな、それは仮面男だからだ。

──さっき使ったスキルのおかげとはいえ、純粋なプレイヤースキルも高すぎる……。

──てか、敵のスキルが普通に殺意高すぎる。


 コメント欄は相変わらず大盛り上がりだ。

 しかしまだ倒せたわけじゃない。

 毒を食らわせてスリップダメージを与え続けられるが、多分一撃じゃ死ぬよりも先に効果が切れる。

 もう何度か毒の攻撃をお見舞いする必要があるだろう。


「さて、あとは作業だな」


 一旦、攻撃パターンが確立したので、あとはこれを繰り返すだけだ。

 単純作業である。

 たまに途中で進化するボスもいるけどね。


 そう思っていたら──。


「マジか。第二形態あるのかよ」


 思わず呟いていた。

 瀕死まで追い込んだと思ったら、リーシュの肉体が変質し膨れ上がった。

 先程の少女っぽい見た目とは大違いで、ブヨブヨした球体型だ。


 ちと面倒だな。

 この肉体変質型の第二形態は体力が全快するからな。

 覚醒型だとそのまま攻撃を続ければすぐに倒れるのだが。


──マジかよ、第二形態かよ。

──流石に武器、使った方が良くないか……?

──クソ強そうだぞ!

──大丈夫かよ、これ。


 チラリとディスプレイを見ると、コメント欄で心配する声が上がっている。

 俺はカメラに向かってヒラヒラと手を振った。


「大丈夫大丈夫、これくらいならなんとかなる」


 と言ったものの、毒効くのかこれ……?

 まあ手段はいくらでもあるが、毒が効かないとなると少し大変だ。


 そう思っていたら、その柔らかそうな肉体が、急に硬化しものすごい勢いで迫ってきた。


「…………ッ!? マジかよ、スキルも変わるのかよ!」


 そんなの初めてだ。

 今まで形態変化でスキルが変わったことなんてなかった。


──スキル変化!?

──いよいよヤベェじゃねぇか!

──お願いだ、武器を使ってくれ!

──ここで仮面男を失うわけにはいかないからな!

──舐めプになるぞ!


 舐めプなのは間違いないが、これなら大丈夫なはず。

 硬化したってことは、外殻の防御力を上げるタイプ──つまり傷さえつけられればそこから毒が効くってことだからだ。

 まあ傷をつけるのが一苦労しそうだけど。


 俺はそう思いながら、新たなスキルを素手に使用するのだった。


「【神級付与スキル:鋭利付与シャープ・エンチャント】」



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