第8話 ファンたちに天誅
「ちょっとちょっと! そこ、喧嘩はやめてよね!」
何やらアリスのファンに絡まれたと思ったら、人だかりの中心から声が聞こえた。
その声を聞いた絡んできたファンの二人はピシリと固まる。
そして人だかりをかき分けて、金髪ツインテールの少女が現れた。
釣り上がった目をした勝気そうな少女だ。
出てくるや否や、胸を張り腰に手を当てて威張るように口を開く。
ちなみに胸は薄い。
しかも身長も低いから、どれだけ威張ろうとしても威厳なんて一切出ている感じはしなかった。
「どうしたのよ、言い争いなんかしちゃって! お姉さんが解決してあげるから話してみなさい!」
「うっ……それは……」
ファンの二人がすごく言いづらそうにモゴモゴと小さな声で呟く。
おそらくこの少女がアリスなんだろうな。
こんな幼女と言っても良さそうな見た目の女性が世界一の探索者なんて、何かの間違いかと思ってしまうけどな。
ダンジョンに来ているってことは間違いなく未成年は越えているだろうし。
「こいつらがイチャモンつけてきたんですよ。道を塞ぐなーとか、アリス様が見えなくなるーとか」
「おっ、おい! 言うなよ!」
「くそっ、バラすなんて酷いじゃないか!」
俺の言葉にファンの二人が慌てて抗議の声をあげるが、知ったことじゃないね。
せいぜいアリスとやらに嫌われてしまえ。
それを聞いたアリス本人は、すぐに眉を顰めて不機嫌そうな表情になると、ファン二人に向かって言い放った。
「君たちが私を推してくれるのは嬉しいけどね、ファンとしてはマナーを守って欲しかったんだけど」
「すっ、すいません」
「ごめんなさい、もうしません」
ファン二人はシュンと落ち込んだ様子でアリスに頭を下げた。
それに彼女は余計に不機嫌そうになり、トントンと足の先で地面を叩き始めた。
「ねえ、謝る相手が違うよね? 私に謝ってどうするの?」
「は、はいっ! そうですよね! ご、ごめん! もうあんなことで責めたりしないから!」
「俺からもすまんかった! もうしないつもりだから、許してくれ!」
なんか言われて謝らされている感じがして凄く嫌だ。
心がこもってる感じが一切しない。
そもそも頭だってろくに下がってないし、表情からも適当に謝っておけば許してくれるだろうという舐め腐った感情が見え透けている。
うん、メチャクチャ苛立つ。
普段ならこんな苛立つことはないんだけどな。
おそらく仮面男として目立ってしまったことや、さっきヤクザの頭と電話したことで、無自覚にストレスを感じていたのもあるのだろう。
俺は思わずはぁああと長々とため息をついて、額に手を当てると言った。
「ちゃんと心を込めて謝ってくれたら許したんですけどねぇ……」
俺が言うと、何故かファンの男たちは逆ギレし始めた。
「おい! こっちは謝ってやったんだぞ! そこは許せよ!」
「謝ったのに許さないとか、空気読めよ、コイツ!」
そう言って胸ぐらを掴んでこようとしたから、俺は反射的に一瞬で二人の背後を取ると手を取り一気に捻り上げた。
「いっ、いたたたたたたっ!」
「いってぇ! いきなり何しやがる!」
叫び出した男たちに俺はやれやれと首を振って答えた。
「いや、先に手を出そうとしたのはそっちでしょ」
俺は言いながら骨を折るつもりで腕を曲げようとして、突如俺の手首を握ってくる人がいた。
アリスだ。
彼女は冷たい視線を男二人に送りながらも俺に言った。
「こいつらが救えないヤツらだったのは分かった。だがそれ以上は良くないぞ」
「……あ、ああ。そうですよね、すいません」
彼女に言われ、俺は手を離した。
男たちはすぐさま自分の掴まれていた手首を抑えて蹲る。
そんな二人をアリスは見下すと淡々と言った。
「二人が私を推してくれていたのは嬉しかったけど、ろくに常識もない人間はファンとしてもいらないから。今後一切、私に関わらないで」
それを聞いた男二人は座り込んだまま絶望の表情をする。
がっくしと頭を下げて項垂れた。
「さて。こいつらのことは放っておいて、と。ほら、一緒にダンジョン行くぞ」
いきなり手首を掴まれたと思ったら、アリスにズルズルと引っ張られる。
…………え?
どういうこと?
突然のことに思考が止まる。
アリスはこちらに振り返ると、ニッといたずらそうな笑みを浮かべて言うのだった。
「君、実はちゃんと強いでしょ?」
……なんでバレたし。
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