第7話 バレるところだったぜ

 天宮さんがうちに来た次の日。

 俺は再び【トウキョウ・ダンジョン】の入り口前にやってきた。

 何故か今日は管理人のヤクザに引き止められている。


 ちなみに天宮さんは昨日、動画を見て焼きそばを食べすぐに帰っていった。

 口が酸っぱくなるほど正体をバラさないでねと念を押したが、大丈夫か少し不安だ。

 でも日本一の有名探索者なら口は堅いだろう……と信じたい。


 しかし……本当ならもうダンジョンになんて潜らないほうが良いんだろうな。

 弘明寺さんに詐欺られてるのだから、ダンジョンに潜れば潜るほど損をすることになる。

 だが天宮さんと話し合った結果、決定的な証拠を掴むまでいつも通りに過ごすことになった。

 ダンジョンに潜るばかりではなく、そっちの活動もしなきゃな……。


「はあ……忙しくなりそうだ……」

「坊主、何が忙しくなりそうなんだ?」


 思わず愚痴が零れる。

 するとダンジョン入り口の管理人のヤクザがいつの間にか電話から戻ってきていて、そう尋ねてきた。


「え、い、いや、何でもないです」


 ギロッと睨まれた感じがしてビクビクしながら答える。

 だが俺の様子にヤクザは気にした様子はないようだ。

 この反応に慣れているのか、はたまた気が付いていないのか。

 まあ慣れてるだけのように見えるけど。


「そうか。それならいい。それよりもうちの頭がおめぇさんに話があるってよ」


 ヤクザはそう言ってスマホを手渡してくる。

 その言葉に一瞬で色々な考えが浮かび上がってきて、思わず固まってしまう。


 出て大丈夫なのか。

 変なこと言って殺されたりしないか。

 でも出ないのも失礼だよな。

 ヤクザの頭からの電話に出なかったってだけで殺されそう。

 でもでも、出るの怖いなぁ。


 みたいな思考がコンマ一秒で巡っていき、それでも結局答えが出ず、固まってしまったのだ。


「まあそんなビビんなって。いきなりカタギに変なことはしねぇよ」

「そっ、そうですか」


 そこまで言われちゃあ出ないわけにはいかない。

 上擦った声で返事して、俺はスマホを受け取った。


「あっ、あの! もももも、もしもし!」

『……ああ、おめぇさんか、未成年でうちの入り口を使ってるってヤツは』


 クソ渋い声が聞こえてくる。

 こ、こえぇえええええぇえ!

 ビクビクしながら俺は相手からは見えないはずなのに必死に頷いて言った。


「はっ、はい! そうです、僕が未成年で入り口を使わせてもらっている者です!」

『はぁあ、思ったより大人しそうなヤツだな。……まあ、弘明寺のヤツに食い潰されてるようなヤツだしな』

「……やっぱり食い潰されてたんですね」

『ふむ、気が付いてたのか。なかなか賢いじゃねぇか』

「って! あっ、いや、弘明寺さんに詐欺られてるなんて、そんなこと気が付いてないですよ!」

『……おめぇさん、抜けてるのか賢いのかよくわからんヤツだな。まああいつはうちの組でもないし、そもそもヤクザでもないから安心しな』


 あ、そうだったのか。

 てっきりヤクザたちの仲間かと思っていた。

 しかし違うとなると、かなり事情が入り組んでそうだな。

 ホッと胸を撫で下ろすと、俺は話を戻した。


「それで、どうして俺なんかと話をしようと……?」

『いや、先日、仮面の男が出ただろ? うちの組でもアイツを見せつけだしてぜひとも引き入れようと思ってな』


 ヒエッ!?

 ビクビクゥと俺の体が小刻みに震える。

 それ、俺なんですけど!

 今貴方が通話してるの、その仮面の男なんですけど!

 これ正体ばれたら組同士の闘争とかに巻き込まれる奴じゃあ……!?

 もしかして、弘明寺さんの詐欺の証拠を見つけて俺の無実を証明できるようになっても、正体を明かせない……?

 なんだか思ったより話が大きくなってきてることに今さら気が付いて、俺は恐々とする。


「そっ、そうですか……!」

『まあ、見つけられるとは思ってないがな。何か情報持ってたら教えてもらおうと思ってな』


 俺がその仮面男の本人だからね!

 身長体重、好きな女の子のタイプまで何でもかんでも知ってますよ!

 もちろん教えないけどね!

 ちなみに好きな女の子のタイプはうちの妹です!


『……まあ、おめぇさんには期待してねぇがよ。何か分かったら教えてくれよ。入り口のスキンヘッドに言えば俺に伝わるから』


 それだけ言って電話が切れた。

 ぜってぇ言えねぇ……!

 俺は震える手でスキンヘッドのヤクザにスマホを返した。


「どうした、顔色が真っ青だぞ。そんなに頭が怖かったか?」

「そっ、そうでもないですけどね……!」

「……ふっ。おめぇさんの歳のカタギが頭と電話して正気を保っていられるだけで十分だな。それじゃあ行ってこい」


 そして俺はスキンヘッドのヤクザに見送られてダンジョンに入った。

 そのまま【ダンジョン・ロビー】に行くと、何故かクソ人だかりが出来ていた。

 俺がその人だかりをかきわけてエレベーターまで行こうとすると――。


「おい! お前のせいでアリス様が見えなくなるだろ!」

「邪魔だよ! アリス様の行く先を塞ごうとするな!」


 何故か怒られた。

 しかし、アリス……?

 どこかで聞いたような……。

 記憶を遡ってみると、その名前が世界一の探索者だったと気が付くのだった。

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