夜に語りて
カリブディス船内にて、グラバー姉妹は寝ている皆々を尻目に読書をしていた。それは日本の漫画であり、ある程度日本語を自力で読めるようになっただろうと陸唯が貸したものだった。
その漫画は、何かの取引現場に遭遇して幼体化させられた探偵の主人公が織りなす物語であった。
カンナ「よ…よくもおぞましいものを、103巻とか書けるものですわね」
そこに、始終を地獄耳で聞いていて、琴子から頼まれてホットミルクを渡しに来た光音が割って入った。
光音「少なくとも、彼らは思想が入ってたかもしれない。でも地獄が神の被造物であれど、神は人が作った物までコントロールはできないわ。」
カンナ「それまで、予定で定められていたのでは?」
光音「人は誤字脱字をするし、無意識を神の業と成すのは正直違う。実はその紙の中に…その絵の中に広がる世界はね、貴方達の信じる神様の世界ではない世界が広がっているの。」
カンナ「つまり、異端か異教?」
光音「違うよ、信仰とかそんなのじゃない。作者の意図を無理やり見出すものでもない、作者の心を危険と見做してはならない。」
チョウナ「確かに、あのイギリスの魔法文学家も穏健的な方だね。悪の帝王とか描けるのに」
光音「私たちに観測は出来ても、私たちの住む世界と全く別の世界。そこに私たちの常識なんて、普遍的なものなんて、ある筈がない。あったとして、偶々かぶってるに過ぎないもの。」
カンナははっとさせられた。
自分たちの世界と違う世界があると。されど手に取れる様な普遍的でない、相手には相手の都合がある。
日本に来て別世界と薄々感じてはいたものの、その本質は同じ人間と思っていた。
されど、同じ人間であれど本質的には別の心持ちで生きているのだとようやく実感したのだ。
カンナ「訳が…わかりませんわ」
光音「分からないなら、分からないままでいいと思う。線を引くもいいし、引かずに進んでもいい。そこはカンナが好きにするところ。でも、他の人の意思まで貴方が好きにしちゃったらダメだよ」
光音の言う事は、普遍的なものと感じていたものへの相対であった。その先に一柱の神があるとする文化と、異なる神が沢山宿っているものだとする文化。
多彩なものがあるのはどっちかは、既にわかりきった事であった。
アビリティア・チルドレンズ~幕間の譚~ 宮島織風 @hayaten151
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