幕間⑤ 恙戦役に於ける最終レポート
科学技術本部特異現象捜査部
Agt.カーネリアン
まず先んじて、本件「恙による民間人への異常性認識症(いわゆる認識災害)による社会的扇動及び生命力の大規模収奪・国家反乱主導事件」により亡くなった海護財団職員及び無辜の民間人の方々に哀悼の意を表する。
本件は極めて稀な、鎌倉時代に封印されたと推定される怪異実体により発生した事件である。
被害の概要に関して。
本件を海護財団が認知したのは2046年の2月である。しかし、本格的な被害と結び付く様になったのは3月頃であった。
敵は人間社会の病理を上手く突き表向き民衆デモを行わせる、もしくは密輸や密売、海賊などの組織犯罪に関与させたと見られる。恙の根拠地である五島列島の椛島から出港した船舶が海護財団へ敵対姿勢を見せる“ゼーエホール”の艦艇との複数回の接触が確認されている為、当初ゼーエホールの基地が存在するものと2044年時点では思われていた。
しかし、魔導艦の導入と先行して行われた魔導士の来日により①日本は他諸国に比べて“エーテル量”が極端に少ない事、②椛島に(キリスト教的にいえば)悪魔がいる事が判明する。
しかし、前者に至っては魔道実験艦による観測により別の存在の影響で日本国内の“エーテル量”が何処かしらに吸引されている状況にある事が判明した。
しかし後者に関しては、ある書簡から存在が裏付けられてしまった。椛島採石場の崩落事件の際に、鎌倉時代製と比定される丹波壺が出土した。
その壺を見たある考古学者が発狂し周囲の研究員や現場保全を行う警察官を惨殺した事件が発生、陸上自衛隊水上機動団による鎮圧までの10時間の間周囲への破壊活動を行った後確保・収容されました。
尚壺を目撃した水上機動団員2名で相討ちが発生し、財団の無人ロボットによりこれ以上の機動団員の犠牲者は出ませんでした。しかし、確保された二名は完全に怪物の傀儡にされてしまっています(恙撃滅後、状態から回復したと日本国防軍から連絡を受けている)。
無人ロボットによるブルーシートは台風により吹き飛ばされ、壺が露呈。被害を写したテレビ局のヘリコプターが墜落。
そして約1500名の発狂者を出し、それら全員が五島列島の椛島を目指し移動。もしくはある新興宗教の構成員になるなどした。
暴露者へのアンケートを行った際、その壺に封印されている存在を「恙」としている。恙は前漢時代に書かれた『神異経』に記された虎や豹すらも食べる、獅子に似た獣だという。それに食べられなかったとしても、噛まれた時点で病気に感染する。
唐獅子の一種であり日光東照宮の唐門の上に金の足輪で封じ込められた像がある。金輪といえば西遊記の孫悟空が有名だろう、あれを用いて封じ込めをせねばならない怪物であるという。東照宮に盗みに入った者を殺すために設置された、と言い伝えがあるが神威が化け物にまで通じて従えている、としたかったのだろう。
だが現実が神話を許すわけもなく、醜い壺に封じ込めを行われるしかなかった。こちらもステレオタイプ的な封じ込め方ではあるが、後述する傀儡に出来る条件を満たす人は居ただろう。
最近まで封じることが出来ていたのが、寧ろ奇怪だとする見解もある。
漢字の成り立ち自体、痒みや憂いを意味するものであった様でマイナスイメージしかない。カンナ女史によれば、その様な存在は大概異世界から来る化け物とのことでそれ以上の事は不明確だという。
そして異世界には精神的に弱体化した人間の生命エネルギーをエーテルに変換して食べる化け物が存在しているらしく、その一種である可能性が高い。また、ミーム複合体を流し込む事で自分の傀儡にしている可能性があるとの事だ。具体的には心理的な免疫が弱くなってる時に、甘い言葉をかけて洗脳する。という手口がとられている。
この先、類似実体の出現の可能性は非常に高い。そして本件がそれらや敵対する魔導士への対策事例になり得る為、奈留島を研究拠点として椛島を監視し本件への再検証を行うべきと考える。
また、魔導士関係で登場する“エーテル”という未知のエネルギーへの対策としても研究の価値があると思われる。
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