口述筆記-Mituca-

 私は様々な案件に、科学技術本部長として、そしていち研究者として、信念を果たすべく、かの管理の為の事務作業という全ての邪魔になる作業を代行するAiを作成した。

 ご時世としては、レトキシラーデにより世界が大変な事になり滅亡まであと一年といったところに差し迫っていた。


 その中で、人類のきっさきの海護財団はレトキシラーデや各国のマフィアに対抗し、人類から良心を失わせまいと奔走していた。その中には、半ば辞表を叩きつけて外交問題になるならば自らを処分していいとまで言い始める馬鹿者さえも出てきた。


 科学技術本部も、かつてCIAがやっていた研究データを引き継いだり、特殊能力に関する解析やレトキシラーデと呼ばれるエイリアンの分析と有効な兵器の開発などに奔走していた。

 私、弓張果苗は…事務作業ばかりをさせられて、辟易していたのだ。自分の専門の研究だけをさせてと、海護財団に志願したがこの通りの有様。


 兄である興一にさえ不安をかけてしまっている現状に加味して、疲労しないコンピュータに自分の精神を反映させてそれに事務作業を行わせると言う事を思いついた。

 行政に関しては余り理解してない(公民赤点スレスレだった)のだけど、一般的な市役所職員が何故か市長のハンコを押している事に鑑みて、相応の権限があれば実務を代行させてもいいのではと、機構的側面から考えたのだ。


 そこから人間のシナプスネットワークの様に、思考の速度を調節するプログラムをこちらで組んで渡した。

 数週間後、それはボディが私の元へと来た。制限式事務作業Aiを搭載し、私の人格を(倫理的にアウトな部分を除いて)トレースした存在“Mituca”を作成した。


 彼女は私と共に働いてくれて、尚且つ人間関係も代行してくれた(兄の興一にも説明して、彼女を私として暫く扱ってと頼んだ)。これで研究に没頭できると思い、漸く一安心した。

 されど、彼女は私が眠るその時間までも働いて、私がメンテナンスを施す時に「まだやれます」といってくる。一体誰に似たのか。


 そして、数ヶ月経過した所でMitucaは私のところに来て「事務作業が終わりません、助けて」と言ってショートしてしまった。

 彼女が持ってきたレポートには、ある案件の具体的対策法は彼女にインストールしたデータで組み合わせても無いと言う事が示されていた。


 振り返ってみれば、Mitucaに情報を出し渋っていた所があったし、事務作業を代行する事や科学技術本部周りの人間関係やらは記録した。

 だけど、彼女が休んでいる場面を見た事がない。彼女と技術に関する話はしたのだけど、好きなスイーツの話を自分から発する事は無いし、目的の為に生きている様で恐ろしくなった。


 私の魂までは、明け渡さなかった。

 霊魂はそこにあると信じ込むから存在を許される事だと思っていたが、どちらかというと“信念”が欠如していたと言っていいかもしれない。

 信念の為とはいえ、この世界は自分では何とも出来ない事が出てくる。そこで膝を折り、泣いていいのが人間だ。だけども、Aiは信念を予定に変えてしまっている様なもので、それが出来ないと修正するのは人間と同じ。

 では何が違うのか、それは彼女は私の代わりには泣いてくれない。葬送を概念として理解していても、自然と溢れるものがあるかと問うたら「何が溢れるのですか?涙は多分、あったら出たと思います。その…ミナト姉さんに関しては、本当に。」とはいったものの、ミナト姉さんとの記憶をインストールしてのそれは違う。


 彼女は自発的にミナト姉さんに誓わなかった。周囲を観察し、その場面に即した行動は出来るだろう。だけど、私の思いまでは完全に理解してくれはしなかった。

 思いを理解してくれたのなら、彼女はそのタンポポを踏まなかった。

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