第4話 なんかビーム出た

 僕はカリバーンの刀身を牛のなめし革で包んで持った。

 そして外に出る。

 

『ごめんなさい、鞘がなくて。レベルアップすれば具現化できるのだけど』

「できるんだ」

『私の鞘は強力だからね、レベル1だと使えないの』

 

 鞘が強力ってどういうことだろう……?

 そんな話をしながらカリバーンが生えてきた(表現がおかしい)畑に戻る。そこの土はどす黒い紫色に濁っていて、雑草の一本すら生えていない。三年前までは豊かな農地だったのだけれど、今はただの荒れ地だ。

 瘴気のせいだ。

 瘴気とは魔物が発するオーラのことだ。魔物は土地そのものを時間をかけて汚染していくんだ。だからゴブリン退治やオーガ退治はどこの地方でも重要で、それが可能な【戦士】や【勇者】のクラスは持て囃されている。

 

 【農民】はいつも被害を負って助けを呼ぶだけだ。

 

『さっきはしっかり見れなかったけど、ひどい土壌汚染ね』

「うん。カリバーンが育ったのは奇跡だよ」

『私はどこでも生えるもの。岩でも』

「……納得力があるね」

『ふふふ。私は生命力を司る聖剣なの。例え魔界でも根を生やしてみせるわ』

 

 聖剣の根って、どういうのだろう。

 足から触手が生えたりするのかな。

 

『あら。なにか変な想像してない?』

「し、してないしてない」

 

 カリバーンはくすくすと笑った。

 

『さあ。早速、土壌を汚す魔物退治に行きましょう。場所はわかってる?』

「うん。ゴブリンの場所はわかってるけど」

 

 僕の畑の裏手には深い茂みがあり、そこの洞窟に魔物が巣を作っている。一度騎士団が退治しにきたんだけど、あまりに数が多く、逃げ帰ってしまった。それ以来繁殖を続けているから、きっと数百匹はいるだろう。

 ゴブリン一体一体は弱いけど、ここまで数が多いと話は別だ。

 とてもじゃないけど普通の冒険者では相手にできない。

 いわんや、僕みたいな素人では。

 

『ふふふ。久々のゴブリン退治ね。刀身がしなるわ!』

「いやあの、僕、剣とか振るったことないよ?」

『問題ないわ。私は最強の聖剣だもの』

 

 自信満々なカリバーンである。

 うーん。ちょっと不安しかないんだけど。

 

『それで方角は?』

「東の方だよ。ちょっと歩くけど――」

『大丈夫。歩く必要はないわ』

「えっ」

『だって私は聖剣だもの』

 

 聖剣と歩くのとは何も関係がない気がするんだけど。

 

『距離2キロってところか。そろそろいいわね、さあ。私を構えて』

「構える!?」

『ええ。お願い』

 

 僕は言われるままに剣を取った。

 え、まだ畑なんだけど、剣なんか持ってどうしろと――。

 と、そのときだった。

 

「おっ? なんだシードじゃねーか。ここ、お前んちの近くか」

 

 聞き慣れた声に振り返る。そこにいたのは【勇者】リクだ。後ろには仲間の戦士オミと魔使リズ、それに僕の知らない人がいる。おそらく僕と入れ替わりにパーティに入った子だろう。

 オミとリズは僕を見るとばつが悪そうに目を背けた。

 でもリクは、平気な顔をして僕に話しかけてきた。

 

「リク。どうしてここに?」

「俺は【勇者】だぜ。ギルドでゴブリン退治を引き受けてやったんだ」

 

 どうやら僕じゃない近くの農民が冒険者に依頼を出していたらしい。

 

「ていうかお前、何なのその格好。武器なんか持ってよ」

 

 リクは僕が持つ剣を見るとくくっと笑った。

 

「まさかゴブリン退治のつもりか? やめとけやめとけ、【農民】がゴブリンの巣に行ったら殺されるだけだぜ。あのな、おまえアタマ弱いからわかんないんだろうけど、この世はクラスが全てなんだよ。【農民】は戦えないの。わかる?」

「…………」

「わかったら家に帰ってろよ。優しい【勇者】の俺が退治してやるから。あ、報酬はてめーのその剣でいいわ。はは、【農民】の癖にいっちょ前に光るモン持ってるじゃねーか、どうせ模造品だろうけど」

 

 僕は黙っていた。

 いまなにを言い返してもこいつには効かないだろう。

 それに――他はともかく、農民は戦えないというのは本当なのだから。

 

『ふふふ』

 

 が。

 なぜかカリバーンさんが笑った。

 

『こいつが例の勇者ね。丁度いいわ、私の力を見せてあげる』

「か、カリバーンさん?」

『ほら、シードくん。早く私を構えなさい』

 

 僕はとりあえず言われるままに剣を持ち上げた。

 リクに向けるわけにもいかないので、とりあえず東の方角に。

 

「お? がはは、なんだ素振りかぁ?」

 

 リクがバカにしたように笑う。

 どうやらカリバーンの姿と声は認識できていないようだ。

 

『記にしないで。私の名前を叫びながら、振り下ろしなさい』

「う、うん……何が起きるの?」

『いいから』

 

 楽しげに笑うカリバーンさん。仕方ない、やるしかないか。

 僕は「カリバーン」と小声で言いながら剣を振り下ろした。

 すると。

 

 ドシュオオオオウウゥゥゥウズガアアアアアアアアン!!!

 

「「!!!???」」←僕とリク

 

 白い閃光が剣先からほとばしる。

 ビームが、放たれた。

 稲光そして衝撃が土を、森を、天を抉った。荒れ狂う台風のごときオーラが周囲の畑の瘴気を吹き飛ばしていた。遥か東方の筈の岩場にまで剣閃が届いたらしく、火山のごとく岩が空中に跳ね跳んでいた。その中にはぶっ飛ぶゴブリンの姿が大量に見えた。

 ゴブリンの巣は壊滅した。

 

 ( ゚д゚)←リク

 ( ゚д゚)←僕

 

『ふー! 目覚めの一撃、すっきりしたわ!』

 

 カリバーンはすごくいい笑顔で屈伸した。

 リクとその仲間たちは目が点になっていた。

 多分僕も同じだった。

 やがて、十数秒の間のあとに。

 

「………………か」

『か?』

「かかか、カリバーン!? 今のなに!?」

『ビームよ。聖剣の基本技よ』

「基本なの!?」

 

 聖剣って大量破壊兵器のことだったの!?

 僕は何かを言おうとして、でも口がぱくぱく開くだけだった。リクも同じみたいで僕とカリバーンを交互に見て口を開けた。でも言葉が出ないようだ。そりゃそうだ。ただの農民の僕が大量破壊ビームを撃ったんだから。

 

『ほらシード。そこの私を捨てた【勇者】くんに言ってやりなさい』

 

 にこりとカリバーンは笑った。

 ばーんと指でリクを撃つ仕草をすると。

 

『おまえが捨てた種――こんなにも役に立つ聖剣に育ったぞ、ってね♪』

 

 リクは僕を見た。

 彼は『ウソだろ? ウソだと言えよ?』と泣きそうな表情をしていた。

 ……正直。

 ちょっと、気持ちよかった。

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