第3話 聖剣と農民の自己紹介
とりあえず僕は彼女を家に招き入れた。
というか剣を持って入ったんだけど。
彼女はまるで幽霊みたいで、色々すり抜けて移動できるらしいのだ。
『お邪魔するわ』
この剣、礼儀正しいなあ……。
僕は聖剣をテーブルの上に乗せる。剣とダブるように幽霊みたいに透けている聖剣カリバーンさん。なぜか律儀にも、机のうえで正座をしている。スカート型の鎧だからちょっと見えそうだ……。
うわ、太ももがみちみち……おっぱいも大きい。
『そんなにじっと肌を見られたら、少しだけど照れるわ』
うわ。
「ごごご、ごめんなさいっ!」
『ふふ。謝らなくていいわ。男の子だものね』
優しく笑うカリバーンさんだった。
うわ、童顔なのに、すごい大人のお姉さんだ……。
「ええとその……せ、聖剣カリバーン?」
『ええ。名前ぐらいは知ってるかしら?』
もちろん僕は知っている。といってもただの伝説だ。かつて北西の島国で王が岩から引き抜いたという聖剣。数々の聖剣の中でも、最も有名な一振りのひとつではないだろうか。
と、僕が言うと。
『そう、嬉しいわ。この時代にもまだ私の話が伝わっているのね』
「あの……ほ、ほんとに、本物なんですか?」
『私が偽物に見えるかしら?』
まったく見えない。
だってオーラが神聖すぎるのだ。口調だってお姫様みたいだ。
本物以外ありえない。だからおかしいのだ。だって。
「聖剣はふつう種から生えないと思うんですが……」
『あら、それは誤解ね。本物の剣は生きているわ。植物なのよ』
「剣は植物!?」
『動けないから動物ではない。そして生きている。つまり植物なわけ』
なにその新解釈!? 斬新すぎませんか!?
『というわけで改めて自己紹介ね。私は七百二十三年前にこの大地に誕生した、聖剣カリバーンよ。アルトリウス王と共に幾度の戦乱を駆け抜け、力を使い果たして種に戻っていたの』
「種に戻る……」
『そこを貴方に拾われたというわけね』
僕というか正確には僕を追放した勇者リクが拾ったんだけど。
『貴方は私を見事に育て、自ら引き抜いた。すなわちマスターよ』
「マスター……」
『ええ。私はあなたのもの。私はあなたの力。自由に使いなさい』
「じ、自由に使う……」
ばいんばいんの体でそんなことを言われた。
ちょっと想像してしまい、慌てて振り払う。
ええと、ええと、まず言わなきゃいけないことは……。
「えと……聖剣なのに、僕がマスターで本当にいいの?」
『あら。どうして?』
「僕はただの【農民】なんだよ」
そうだ。
農民の僕は剣なんて使ったことがないし、そのためのスキルもない。本来聖剣を持つべきは【勇者】であるリクのはずだ。それに彼がカリバーンの種を拾ったのだから。
僕は彼と違って魔王と戦う力なんて持っていない。
『まあ、あなたは【農民】なの? とても素敵ね』
「へっ」
農民が素敵って。そんなこと初めて言われたぞ。
『大地を耕し生命を育む。私は【農民】はとても偉大だと、七百年前から思っているわ。アルトリウスだって農民を守るために戦ったの。そう、今度の私は農民の剣となれるのね。嬉しいわ』
「え、え、ええー?」
あまりにも想定外の反応だ。
「でも、あの、聖剣って勇者に使われるものじゃ?」
『そもそもアルトリウスは勇者ではなかったわ。王ではあったけど』
カリバーンはふふっと笑った。
『それにその勇者とやらは、私の種を捨てたんでしょう?』
「それは、まあ」
『そんな奴に私を返すつもりなの?』
「……」
それは。
確かに絶対にイヤだけれど。
僕の様子を見て、カリバーンはぱちりとウインクをした。
『だからよろしくね、農民のシードさん。私、腐っても聖剣だし、貴方にいろいろな恩恵を与えられるから、農作業の役に立てると思うわ。ふふ、楽しみ。アルトリウスの頃は戦争だけだったもの!』
「そりゃ剣なんだから、戦争にしか使わないんじゃ……」
『剣だけど生きてるんだから。他のことをしたくもなるわ』
ずいぶんとフリーダムな聖剣だ。
「というか農作業の役に立てるの?」
『きっと大丈夫よ。まずは私のステータスを見せるわね』
「す、ステータス?」
『ステータスの可視化。これも聖剣のスキルよ』
そう言ってカリバーンは『エス・オープン』と言った。
すると透明な魔法の板が、僕の目の前に現れた。
そこにはこう書かれていた。
名前 :聖剣カリバーン
レベル:1
クラス:七聖剣の一
攻撃力:120
スキル:【霊体化】【聖なる波動】【鞘の癒し】【聖剣の恩恵】
「おお、なんだか強そうなスキルがいっぱい」
『霊体化は今使っているけど。他は作業の役に立てると思うわ』
「レベルっていうのは?」
『聖剣は植物だから。毎日新鮮な水を貰えれば、成長していくのよ』
水でいいんだ。経済的すぎる。
『レベルが上がればスキルも増えていくわ。期待していてね』
「すごいね。クラスの七星剣の一っていうのは」
『他にも聖剣はいるの。詳しくは知らないけれど。クラスを作った女神が、聖剣のうち最も強力なものを【七聖剣】としたみたいね。みんな種になってると思うけど、私のレベルが上がれば発見できると思うわ』
「へえ、他にも聖剣が」
『みんな女の子よ。楽しみにしててね』
ど、どんな子たちなんだろう。
『さ。お話はこのぐらい。さっそく農作業に行きましょうか』
「え、う、うん……」
こうして僕と聖剣さんの共同農業がはじまったのだった。
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