第2話 聖剣が生えました

 半日後、僕は家に戻っていた。

 そして裏の畑に出て左手に例の白い種を持つ。

 これが何の種なのか調べるためだった。

 クラス【農民】の僕のスキルのひとつに【発芽見分】がある。種がどこの土地で育つかを、目で見て区別できるのだ。つまりこの種がどこで育つかを、判別ができる。

 ただ――うちの畑の土質は最悪だ。

 魔物の発する瘴気に汚染されてふつうの野菜は育たない。

 かといって他人の土地を借りるお金もない。

 まずは試してみるしかないだろう。

 

「【発芽見分】!」

 

 スキルを発動する。

 ぴかん、ぴかん。

 幸運なことに、僕の畑の一角が青く光った。

 この瘴気まみれの土でも育ってくれるらしい。すごい。

 

「よーし」

 

 僕は指の第二関節までで土を掘って、種を埋めた。普通なら種の種類を考えて土質生成・肥料やり・深度まで考えて植えるところだけど、【農民】である僕にはスキルがある。

 

「【促成栽培】!」

 

 植物を一気に成長させる、僕の大技だ。

 一ヶ月に一回だけしか使えないし、一本の植物にしか使えないからふつうは役に立たないんだけど、品種改良や新作物の育成にはとても役立つ。こういうスキルが冒険の役に立つと思ってたんだけどね――。

 とにかくスキルを発動し、様子を見る。

 

 ぼこぼこぼこ。

 

 土が盛り上がりボコッと生える。

 まずは、まるで金属のような灰色の芽。

 つぎに、どう見ても金属のような黄色の茎。

 最後に、絢爛な装飾の施された金属製の刃物のような銀色の茎。

 

 そんな、僕の胸ほどまである金属製の刃物が目の前に生えていた。

 

 ………………。

 …………。

 ……。

 

「剣だこれっ!?」

 

 誰がどう見ても剣です。

 それもメチャクチャ由緒ありそうな剣です。だって柄とか光ってるし、刃にはものすごい装飾が施されてるし、ファンファンと音を立てて光ってるし! どう見ても魔法の剣だよコレ!

 魔法の剣が生えたよ!

 

「ど、どうしよう」

 

 どうもこうも、植物は育った以上は収穫しなければならない。

 とりあえず引っこ抜くか。

 そろりと剣の柄に手を伸ばす。

 ぎゅっと掴むと、何故かほんのり温かい。生きている。そう感じた。植物なのだから当然か。いや魔法の剣だからか。あるいはその両方かもしれない。などと思いながら、ぐいっと剣を上に引っ張る。

 すぽっ!

 拍子抜けするほどあっさり抜けた。

 僕は抜き放った剣を、空にかざして見つめた。

 

「…………うわ」

 

 芸術なんて縁のない僕でもわかる。

 ものすごい芸術的な剣だ。ほのかに光る刀身には、何やら幾何学的な模様が刻みつけられている。模様を見ていると刀身に吸い込まれそうなほどに奥行きを感じる。

 すごい。

 これはすごい剣だ。

 圧倒されるほどのオーラを感じるし、それより何より――

 

「――綺麗だ」

 

 そのときだった。

 

『あら、ありがとう。嬉しいわ』

「えっ!?」

 

 女性の声が響いた。

 まるで脳内に直接呼びかけてくるようだ。

 僕はきょろきょろとあたりを見回す。しかし誰もいない。

 

『ああ、驚かせてごめん。ちょっと待ってね。いま人間体を形成するわ』

「人間体って――」

 

 そのとき僕は気付いた。

 声が喋るたびに剣の光がウォンウォンと点滅している。

 それはまるで剣自身が喋っているかのようで――いや。

 まるで、じゃない!

 

「剣が……喋ってる……!?」

 

 更に驚くべきことが起こった。

 剣を取り巻く青白いオーラが、煙のようにひとつにまとまり、濃くなって、なにかの形をとりはじめた。なめらかな輪郭が地面から僕の背丈ほどにまで伸びていった。

 透き通った人間。

 それが剣の周りをかたどっていた。

 

「お……女の子……!?」

 

 それはものすごい美少女だった。

 年は僕と同じか少し上ぐらい。サラサラの長い髪。髪には竜を模したようなティアラ。肌は立派な鎧とシャツに覆われている。スタイルの良さは抜群で、王宮で見た女神の彫刻だって、こんなにも綺麗ではなかった。

 天使だ。

 僕はそう思った。

 その天使はゆっくりと目を開けて。

 僕に、笑いかけてきた。

 

『こんにちは、新しいマスターさん』

「ます……たー?」

 

 聞き返すとその子はこくりと頷いて。

 

『はじめまして、私は【カリバーン】大地の王に振るわれし、聖剣よ』

 

 ――こうして。

 農民の僕は、なぜか聖剣と出会ったのだった。

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