聖剣の種を拾った。

ZAP

第1話 種を拾った

「シード、おまえ今日でパーティから追放。クビだ」

 

 十五歳の誕生日は、最悪だった。

 冒険者の酒場の前で、リーダーの勇者リクにそう言われたのだ。

 僕は呆然と口を開けてしまった。

 

「ええっ!? 約束が違うよ!」

 

 少なくとも1年間はパーティを組むはずだった。

 今更放り出されても生活に困ってしまう。

 僕は二週間前、パーティメンバーとしてリクに勧誘された。「人手がどうしても足りないんだ、頼む!」と困っていたから、僕はほかの仕事を全部放ってパーティに入ったのだ。

 それで王都に行き、勇者認定を受けて帰りに寄った酒場でのことだ。

 

「おまえのクラス【農民】じゃないか。役に立たなすぎなんだよ」

「そ、そんな、最初からわかってたことじゃないか!」

 

 クラスとは、この世界【アルファコンプ】の女神様が皆にお与え下さる天恵のことだ。十二歳の洗礼の儀式で皆が授かる。リクは【勇者】を授かり、各地を荒らす魔王退治の任務を背負っている。

 僕は【農民】だ。

 たしかに戦闘には向いてない。

 だから加入のときに僕はしつこく念押ししたんだ。

 役には立てないよ、と。

 それでもいい、パーティには後方支援役がいるんだと。

 迷宮探索で薬草を収穫する人員がいれば、最高に役に立つんだと。

 リクはそう言ってくれたはずなのに。

 

「アホか。あんなもん信じてたのかよ」

 

 でもリクにそう一蹴された。

 

「嘘に決まってるじゃねーか。おまえはただの数合わせ。勇者パーティは四人じゃないと王様の認定を受けられねーんだ。【戦士】のオミと【魔使】のリズは見つかったが、残り一人がどうしてもいなくてな」

「か、数合わせ!?」

「そうだよ。気付いてなかったのかよ、おめでたい奴だな」

 

 ははっとバカにしたように笑うリクだった。

 僕はそれでようやく、彼が本気であるとわかった。

 冗談ならこんな下卑た笑いを浮かべたりしない。


「新しく【盗賊】が見つかったんでな。お前は用済みだ。じゃあな」

「待ってよ! せめて今日までの分前とかっ!」

「ああん? 役立たずが分前ぇ?」

 

 リクはくくくと笑った。

 

「……そうだな、いいぜ。こいつをやるよ」

 

 リクは革袋を取り出した。

 かがみこんで、路上の土をざらざらとその中に流し込んだ。

 そして僕にぽいっと袋を投げつけたのだった。

 

「ほらよ。【農民】なんだから土がいるだろ?」

「このっ……!」

「あーん? 歯向かうの? 俺らに勝てるとでも思ってんの?」

 

 僕はぐっと言葉に詰まった。

 農民が勇者になんか、勝てるわけがない。

 

「わはははは、じゃあな。新天地でも頑張れよ、【農民】さん」

 

 リクは笑いながら三人の仲間たちのもとへ去っていった。

 残されたのは僕と、土入りの革袋だけだ。

 

「………………はああああぁぁぁ」

 

 深々とため息をついた。

 これから一体どうすればいいんだ。

 僕は一文無しだ。家族もいない。

 死んだ父さんから受け継いだ家と農地があるにはあるけど、二束三文どころかお金を払っても誰も引き取ってくれない土地だ。大量の魔物が出現する何処かと魔法の門で繋がってしまった土地なのだ。

 みんなは【魔境】と呼んでいる。

 つまり僕は、土地を失った農民なのだ。

 だからリクのパーティに入って冒険者になったのに。

 いまさら他の人も、パーティを組んではくれないだろう。

 

「……そうだ、この袋」

 

 リクが投げつけてきた土が入った袋。かなり上等の革だった。

 きちんと掃除すれば、売れるかもしれない。

 我ながら情けないけど……しかたない。

 

「よっと」

 

 ぱんぱんと袋を叩いて中身の土を出す。

 すると――ぽとりと。

 袋から何かが落ちた。

 

「え、種?」

 

 それは白い種だった。

 細長く白い種。大きさは指の先っぽほど。お米に似ているけれど、それより大きくてずっと固い。金属にも近い殻でできている。農家だった僕もいままでこんな種を見たことがない。

 これは何の種なのだろうか?

 持ち上げてじっと見てみる。

 すると――ぴかり・ぴかりと、わずかに発光していた。

 太陽の反射じゃない。まちがいなくこいつ自身が光っている。

 

「光る種だって……?」

 

 一部のキノコには光る種類のものもあるという。

 でも、普通の種が光るなんて、そんなの聞いたことがない。

 これはいったい、何の種なのだろうか?

 

 もし新種の、なにか特別な植物の種だとしたら――

 育てれば高く売れるかもしれないぞ。

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