エピローグ マジカル・サイエンス・ファンタジア

 「先生ー! シャワーだけでも浴びてください先生!」


 ドラゴン討伐の後、メルフィーは有無を言わさず先生の手を引っ張りました。

 途中、事態を静観していた街の領主の小間使いの少年や、冒険者ギルドの管理人、その他顔も知らないおえらいさんが迎えましたが、先生が最優先と、それらを無視してアトリエに直帰したのです。

 白衣を強引にぎ取った彼女は、それをゴーレムのレムさんに放り渡すと、直ぐに先生を浴室に押し込みます。


 「こら、押すな! 痛たっ!」

 「もうなんで先生の方が被害こうむっているんです!? ぷんすかぷん!」


 無理やり押し込み、浴室の扉を閉めます、本当に先生はどうしようもない。

 改めて奪った衣服を、彼女はアトリエのテラスに持って行きます。

 水桶みずおけに水を張らせ、洗剤を混ぜ込み、その上にレムさんが汚れた白衣を何度も踏んでいました。


 「レムさん、こちらもお願いできますか?」

 「ゴゴギ」

'

 先生の衣服の泥汚れは酷く、上着は全て洗浄必須です。

 ついでに下着も洗いましょう。

 洗濯は一旦レムさんに任せると、彼女はキッチンに向かいました。


 「私の料理が美味しい……ふふっ」


 あの言葉、凄く嬉しかった。

 先生も料理は出来るんですけど、私の料理が美味しいなんて、張り切っちゃうじゃないですか。

 今日は兎に角疲れました。けれど充実した疲れです。

 ドラゴンを相手にするのはやっぱり怖いし、出来ればもう二度と嫌ですけど、未だに興奮している自分がいました。

 だって、あんな恐ろしい生き物を撃退出来たんですよ?

 先生の魔法科学マジカルサイエンスがドラゴンに通用した、こんな嬉しいことはないですよ。

 お祝い……したいですけど、ちょっとだけ、ちょっとだけですね。


 「ふふっ、本当に……夢みたい」


 もしかすれば、すべてはゆめまぼろしなのかも知れません。

 そう、神の見る泡沫うたかたの夢、なんて神話の一説もありました。

 夢というのは不可思議なものですね、今度先生に議題として上げてみましょうか。

 この幸せな一時が夢でないなら……。


 「おーい、タオル無いかー?」

 「あっ、いけない! ちょっと待ってください先生!」


 メルフィーは今日も忙しく駆け回る。

 とある偏屈へんくつな自称【科学者サイエンティスト】のウィズダムと、その助手メルフィー・マギアノールの物語は、ここでおしまいです。

 きっと、彼女はこれからも、泣いて、怒って、悲しんで、そして笑っていられることでしょう。

 いずれ先生と並び立つその日まで。


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