夏休み編(9)

沙雪ちゃんの家にやってきて2日目がたった。私は朝ごはんを食べてからお父さんが来るのを待っていた。遠くてドアの音がしたので多分着いたのだろう。しばらくした後私たちがいる部屋のドアがノックされた後開いた。

「失礼します。唯の父の政明と申します。」

お父さんが部屋に入ってきた。

「おはよ。お父さん。」

「おはよう。元気?」

「うん。」

「それなら良かった。」

「さ、政明さん席にお座り下さい。」

「ありがとうございます。」

樹さんに勧められてお父さんは腰を下ろした。

「当然のことなのに来ていただいて本当にありがとうございます。私は紗雪の母の雪伺と申します。」

「いえいえ、丁度夏休暇を貰っていたところなので。唯の様子も見ておきたかったのでタイミング的にも良かったです。」

「私は自己紹介はいらないですか?お久しぶりですね。政明さん。」

「ええ。ご無沙汰しております。」

「お父さんと樹さんって面識あるの?」

「仕事で少しね。」

「瀬名という名前を聞いた時にピンと来ましたよ。お会いするまで確信は持てませんでしたが。」

「私は夏前頃にご息女とお会いした時に気づきましたよ。九条という苗字は珍しいですから。」

「樹さん。本題に入ってください。」

話がそれた樹さんとお父さんを雪伺さんが宥める。

「ああ、そうだった。まずは政明さんこの度は無理な頼みを受け入れてくださり本当にありがとうございます。」

樹さんはそう言って頭を下げた。

「頭を上げてください。樹さん。」

お父さんは慌てて言う。

「私としても娘が一人暮らしをしてるのは心配なので近くに信頼出来る人がいるのは嬉しいのですよ。」

「そう言って貰えて助かります。ではいくつか物件を見繕って来たので見て貰えますか?」

樹さんは何枚か紙をお父さんに渡した。お父さんは目を細めたり、唸りながら考えたりしていた。

「少し値が張りますね。」

「そこに関しては心配しないでください。暮らしにかかる費用はこちらで全持ちします。いや、させてください。」

「さすがにそれは。」

「こちらはお願いを聞いて貰っている立場なので払わせてください。」

その後しばらく押し問答をした後先に折れたのはお父さんだった。

「分かりました。せめて食費などの生活にかかる費用は折半でお願いします。ここは譲れません。」

「分かりました。ではそれでお願いします。」

「あと住む家は2人に決めさせましょう。こういうのも勉強になるので。」

「確かにその通りですね。紗雪、唯さん、部屋に戻って決めてくれ。今決めなくてもいいが、候補だけでも後で教えてくれ。」

「わかりましたー。」

部屋から出て沙雪ちゃんの部屋に戻る。楓さんが持ってきてくれた小さな机に物件の資料を広げて見る。

「どんな家が良いとかある?」

「学校から近いところがいいわね。」

「そうだねー。これとかどう?」

学校のある通りのマンションの資料を見せる。

「騒音大丈夫かしら。」

「確かに。」

私たちの学校の前は結構交通量が多い。通学と下校のタイミングは交通整理が入るから事故にはなりにくいがそれでも車が多い。

「こっちはどうかな。」

学校に歩いて行ける距離のマンションを見つけた。ここは静かそうでいい。と思ったが。

「あ、でもここセキュリティ緩そうかも。」

「じゃあダメね。」

「なかなか見つからないなぁ。」

ベッドに寄りかかりながら資料を読む。やっぱり今の部屋にだいぶ満足してるからなぁ。

「あ、これ唯のマンションじゃない?」

「えー見せて。ほんとだ。」

私が住んでいるマンションのもっと上の階の部屋だった。

「そっか。高層階は家族用なんだっけ。」

確か2階から5階は一人暮らし用の広さの部屋で5から上は家族用の広い部屋だ。

「ここで良くないかしら。」

「私もそう言おうと思ってた!クリーニングもあるし、学校からも近くてセキュリティもあるし。じゃあ樹さん達に伝えに行こうか。」

選んだ部屋の紙だけ持って樹さんたちの元に戻る。

「部屋決まりました!」

ドアを開けてそう言うと樹さんとお父さんがお酒を飲んでいた。

「お、もう決まったのかい。」

「早いね。どこにしたの?」

「今唯が住んでいるマンションよ。」

「それはいいね。あそこはセキュリティもちゃんとしているはずだよ。」

「じゃあそこに決定で。」

「樹さん、もっと真剣に考えてください。」

雪伺さんが言うが樹さんは少し酔っているようだ。

「はぁ....まぁ唯ちゃんが住んでるマンションならいいでしょう。」

雪伺さんが呆れながらそう言って私から物件の紙を受け取った。

「ごめんね唯ちゃん。酔っ払っちゃって。」

「大丈夫ですよー。」

「出前頼んだからそれだけ部屋に持って行ってちょうだい。」

使用人の人から袋を受け取って沙雪ちゃんの部屋に戻る。袋を開けるとお寿司やオードブルが入っていた。

「はぁ。こんな昼前からお酒を飲むなんて。」

「お父さんが酔ってるの久しぶりに見たかも。」

「あまりお酒を飲まない人なの?」

「結婚記念日とかそういう日にしか飲まないかな。」

「そうなんだ。」

「とりあえず食べる?」

「そうね。」

お寿司をつまみながら喋る。

「沙雪ちゃんがお酒を飲んだらどうなるかなぁ。」

「そこまで酔わないと思うけど。」

「いや、意外と酔うんじゃない?」

「唯こそ酔ったら手が付けられなさそうね。」

「なんで!?」

「だってあなた寝ぼけて抱きついて来るじゃない。」

「いやそれは沙雪ちゃんじゃない?」

「私のは朝でしょう。あなたは寝ながら抱きついて来るのよ。」

「えー。知らなかった。」

「気をつけなさい。」

そう言ってコップに入ったジュースに口を付ける沙雪ちゃんに私は後ろから唐突に抱きついた。

「ちょっと。危ないでしょ。」

「ふふふー。別に今更抱きついたところででしょ。」

「まあもう慣れた感じはするけれど。」

「ひど!私だってずっとドキドキしてるのに!」

「それはどういう。」

振り返って私の方を向いた沙雪ちゃんの頬にキスをした。

「なに!?あなた今日おかしいわ。ってお酒の匂い?」

「お酒なんて飲んでないよー。」

「確かにただのジュースね。」

私の飲んでたジュースの匂いを嗅ぐ。

「てか確かあなたさっきあなたのお父さんのコップで飲み物飲んでなかった?」

「飲んだよー。喉乾いてたから。」

「それかしら...でもそんなので酔うものなの?」

「何言ってるかわかんないー。」

「あなたはもう寝なさい。」

「なんでー。」

「ウザイわね.....。」

「酷いよぉ。沙雪ちゃんが一緒に寝てくれるなら寝てあげる!」

「はぁ.....わかったから早く寝なさい。」

「はーい。」

沙雪ちゃんとベッドに入った私はしっかりと沙雪ちゃんを抱きしめながら眠りに着いた。



「......大変申し訳ございませんでした。」

何故か夕方に目覚めた私はベッドの上に座ったまま沙雪ちゃんに怒られている。

「あなたはなにがあってもお酒飲んじゃダメね。」

「はい....」

「体調はどう?悪くない?」

「少し頭が痛いくらい。」

「なら良かったわ。それでどこまで記憶があるの?」

「んー?お寿司を食べる前くらいまではあるけど....」

「それならいいわ。忘れたままの方が幸せよ。」

「なんでー?」

よく分からないがそれ以上聞いても何も教えてくれなかった。」

とりあえずお腹がすいたからお昼にほとんど食べれなかったお寿司を食べてお腹を満たした。

「なんか遊ぶ場所とかないのー?」

「いきなりね。この辺りは特に何も無いわよ。」

「そっかー。」

「早めにお風呂に入って夜散歩に行きましょうか。私も少し星が見たいから。」

「おっけー。」

私たちは日が沈む前にお風呂に入って夜太陽が落ちきってから家の外に出た。

「やっぱり綺麗ー。」

今日も変わらず夜空には星が煌めいている。私たちは持ってきたレジャーシートを敷いてその上に寝転がる。耳を澄ますと風が木や草をなびかせる音がする。目を凝らしていると目が慣れたのか目を細めなくても星がよく見えるようになった。私たちは特に喋らずに星を楽しんだ。

「さ、体が冷える前に帰りましょうか。」

「うん。」

最後に振り返るとキラリと流れ星が見えた。

「流れ星だ。願い事しなきゃ。」

「ほんと?私は見えなかったわ。何を願うの?」

「んー。特にないかも。」

「なにそれ。」

「今の生活にまんぞくしてるからかな。強いて言うなら次のテストでは勝ちたい。」

「それは唯の努力次第ね。」

「頑張るよ。」

結局汗をかいてしまったためシャワーを浴びてからベッドに入ったが変な時間に寝ていたため寝れずに朝を迎えた。


次回 九条家訪問最終回。

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