夏休み編(6)
私は黄色の花柄の浴衣、紗雪ちゃんは黒の生地に白の花が描かれた浴衣を着てお祭りへと向かう。
「お祭りなんて何年ぶりだろー。私の地元は過疎っちゃってお祭り自体がなくなっちゃったからなー。」
「私もわざわざ浴衣に着替えて行ったことはないわね。」
「え、そうなんだ。」
下駄の音をカランコロンと鳴らしながらお祭りへと向かう。少し歩くと色とりどりのテントが見えてきた。
「紗雪ちゃんは何か食べたいものとかある?」
「せっかくだし食べたことないものとかかしら。」
「じゃあてきとーに歩きながら周ろっか。」
お祭り会場に到着した私たちは屋台を見ながら歩く。そこら中にあるスピーカーからお祭りっぽい雰囲気の音楽が流れている。
「あ、あれ食べてみたい。」
そう言って紗雪ちゃんが見ていたのはわたがし屋さんだった。
「わたがし食べたことないの?」
「ええ、売ってる場所もあまりないでしょう?」
「まあ確かに。」
わたがしは夏祭りくらいでしか見ないな。あとは食べ放題とかにあるわたがし作り機くらいか。
「私も食べたいから行こ。」
わたがし屋さんに行く。
「わたがし二つください。」
「あいよ!400円ね。」
お金を渡すとおじさんはわたがしを作り始めた。割り箸を器用に回転させながらわたがしを割り箸につけていく。数分でカラフルなわたがしが二個作られた。
「お待ちどうさま。」
「ありがとうございます!」
お礼を言って二つ受け取ると一つを紗雪ちゃんに渡した。
「ありがとう。」
紗雪ちゃんはすぐに食べ始めようとするが私はそれを止めた。
「待って。写真撮ろ。」
私はスマホを出して内カメラにしてから紗雪ちゃんの横に行って写真を撮る。
「食べていいかしら。」
紗雪ちゃんはわたがしを早く食べてみたくてたまらないらしい。
「いいよ。」
私がそういうとすぐに紗雪ちゃんはわたがしにかぶりついた。
「甘くておいしいわね。」
「手とかに付けるとべたべたするからね。」
「わかった。」
紗雪ちゃんはわたがしに夢中ですぐに平らげてしまった。
「甘くておいしかったわ。でも口の周りがべたべたするわ。」
「だから言ったのにー。」
楓さんから渡されたバックにウエットティッシュが入っているので渡す。
「ありがとう。」
「ん。私もそろそろ食べ終わるから。」
食べ終わったので割り箸をゴミ箱に入れてまた屋台を周る。
「結構お腹たまったね。」
「ええ。お昼からそこまで時間が経ってないからかしら。」
焼きそばやたこ焼きのいい匂いがするが今はお腹に入りそうにないから無視して別の屋台を見に行く。
「射的とかないかなー。」
「得意なの?」
「見てればわかるよ。」
射的屋さんを見つけたのでそこに行った。5発分コルクの弾を貰って銃に込めた。しっかり標準を定めて花の髪飾りを狙って打った。私が撃った弾はそれとは違う方向に向かって飛んでいきお菓子を落とした。
「うまいわね。」
「ま、まぁね。」
次こそと思ってしっかり構えて撃つがまた明後日の方向に飛んでいき狙っていたのとは別の景品を落とした。結果5発すべてを狙っていたのとは違う景品に当てた。
「お嬢ちゃんうまいね。」
お店の人からは褒められたけど実際ただのまぐれだ。
「射的うまいのね。意外だったわ。」
「実はね....」
私は本当は髪飾りを狙っていたことを話した。
「じゃあ全部違うところに飛んで行ってそれで景品おとしてたわけ?おっかしい。」
紗雪ちゃんは少し笑った後にお金を渡して紗雪ちゃんもやることになった。
「紗雪ちゃんは初めて?」
「ええ。」
「じゃあコツを教えてあげるよ!」
「え、いらない。お店の人に聞くわ。」
紗雪ちゃんはお店の人にやり方を聞いた。
「ひどいよぉ。」
「うるさい。黙って。」
銃を構えた紗雪ちゃんの目つきはハンターのようで怖かった。紗雪ちゃんが引き金を引くと放たれた弾はまっすぐに髪飾りが入った箱に飛んでいき命中した。が台から落ちることはなかった。
「おしい!」
「お嬢ちゃんうまいな。ほんとに初心者か?」
私から紗雪ちゃんに教えるのを奪ったお店の人も驚いている。紗雪ちゃんはそのあとも3発当てて台ぎりぎりまで動かした。そして最後の一発を放った。がそれは箱のすぐ上を通り過ぎて行った。
「おしいー!」
「もう一回やるわ。」
紗雪ちゃんはもう一度お金を渡して弾を貰った。次は一発目で落とした。
「すごーい。」
そのまま紗雪ちゃんは別の景品のお菓子たちも落としていった。
「お嬢ちゃんたち上手いなぁ。これに景品いれていいよ。」
お店の人はそう言ってビニール袋をくれた。
私たちは射的屋さんから離れてラムネを買ってからベンチに座った。紗雪ちゃんは袋を漁って髪飾りを渡してきた。
「これ欲しかったのでしょう?あげるわ。」
「んーん。紗雪ちゃんにあげようとしてたからいいよ。」
「そう?じゃあつけてもらおうかしら。」
紗雪ちゃんは髪飾りの箱を渡してきた。箱を開けて髪飾りを取り出して横髪につけてあげる。白いピンに黒い模様が描かれていて今日の浴衣とマッチしている。
「うん。かわいいよ。」
「あ、ありがとう。箱もらうわ。」
紗雪ちゃんに箱を返す。
「あれ?」
箱を受け取った紗雪ちゃんが首をかしげる。
「どうしたの?」
「もう一つヘアピンが入っていたわ。頭を貸して。つけてあげる。」
頭を紗雪ちゃんの方に向けると髪に差し込んでくれた。
「どう?」
「似合ってるわ。」
「ありがと!」
そのあともいくつか屋台を周って帰ることにした。
帰り際に買ったりんご飴を頬張りながら帰る。
「それ美味しいの?」
「おいしいよ。一口食べる?」
紗雪ちゃんは一口かじる。カリっという飴が砕ける音がした。
「どう?」
「甘くてりんごもおいしいけど、たくさん食べれる気もしないわね。」
「飽きちゃうからね。だから小さ目なのを買ったよ。」
りんご飴を食べきるころには紗雪ちゃんの家に到着した。
「ただいまです。」
玄関を開けながら言うと楓さんがいた。
「お帰りなさいませ。お二人とも。楽しめましたか?」
「はい!あとお土産です。」
りんご飴と一緒に買ったベビーカステラを渡す。
「わざわざありがとうございます。お風呂の準備はできておりますので、いつでも声をおかけしてください。」
「ありがとうございます。紗雪ちゃんもう入る?」
「少し汗かいたから入りたい。」
紗雪ちゃんは浴衣をパタパタさせながら言う。
「はしたないですよ。お嬢様。ではご一緒に入られますか?」
「それでいい?」
「構わないわ。」
「承知いたしました。ではご案内します。」
一度部屋に戻って着替えを取ってからバスルームに向かう。
「ではごゆっくりどうぞ。」
「お湯加減はいかがでした?」
お風呂から上がった私に楓さんは聞いてきた。
「ちょうどよかったです。」
「それはよかったです。」
「まだお嬢様は入浴中ですか?」
「はい。あと少し入るそうです。」
「よろしければ散歩しませんか。星空が見えるところがあるのですよ。」
「ほんとですか!行きます!」
楓さんに連れられ外に出た。紗雪ちゃんの家は住宅街から少し離れているので余計な光が無くていつもより星が輝いている気がした。
「綺麗ですね。」
「ここはお嬢様も気に入られていらっしゃった場所で、ぜひ唯様にも紹介したかったのですよ。」
「ありがとうございます。だから紗雪ちゃんは星が好きなのですね。」
きなこちゃんのお父さんが経営している施設でプラネタリウムに行きたいと言ったのも紗雪ちゃんだったのを思い出した。
「まだ星を好きでいてくださっているなら嬉しいですね。唯様は星はお好きですか?」
「好きですよ。でもどれが何座とかは知りませんけど。」
「ふふ、それでもいいのですよ。星座なんてものは人間が勝手につけたものなのですから。」
「なんかかっこいいですね。」
「本の受け売りなんですけどね。」
「それで楓さん。」
「何でしょうか。」
「何か用事があるのではないですか?わざわざ私だけを連れ出して。ここが紗雪ちゃんも好きなら紗雪ちゃんも連れてくればよかったじゃないですか。」
「....見抜かれてましたか。」
「それでなんの用事ですか。」
「これはまだお嬢様には伝えないでほしいのですけど。」
そう言って楓さんは話始めた。
「半年後に旦那様と奥様はアメリカに引っ越す予定になっています。」
「そうなんですか。」
「引っ越すと言っても2,3年で帰ってくる予定ではあるのですが、旦那様はお嬢様も連れて行こうと考えています。」
「それは本当ですか?」
「はい。」
「なぜ紗雪ちゃんに教えてあげないのですか?」
「本当はこの帰省のタイミングでお伝えしようとしていたのですが唯様と一緒にいるお嬢様が滅多に見られないほど嬉しそうなご様子で、タイミングを見失いました。」
「なるほど....それでその話をなぜ私に?」
「そうですね。単刀直入に言います。今年の冬からお嬢様と同棲していただけませんか?」
「はえ?」
次回 帰省二日目。
バイトと学〇スしてたら時間が無くなりました。ごめんなさい。
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