夏休み編(5)
「おはよ。」
「おはよう。」
早朝に駅に着いた私は立って待っていた紗雪ちゃんのところに行く。今日から4日間紗雪ちゃんが実家に帰省するのについていく。さすがにその場だけの口約束程度だと思っていたら雪伺さんから新幹線のチケットが二人分送られてきたらしい。駅に入って切符を通してから乗り場に向かう。紗雪ちゃんが待っているところで一緒に並ぶ。新幹線なんて乗るのは中学校の修学旅行ぶりで何もわからない。私たちが乗る新幹線が時間通りに来た。ホームから新幹線に乗り移り、席に移動する。新幹線の中をすいすいと紗雪ちゃんは歩いていく。私は荷物が入ったキャリーケースを頑張って引きずりながらなんとか着いて行く。1車両分歩いてドアを開けて別車両に移ろうとするとそこに乗務員の人が立っていてお出迎えをしてくれた。乗務員の人がドアを開けてくれると今までの車両とは様子が違っていた。床には赤い絨毯が敷かれてして椅子も厚くてふかふかしてそうだった。
「何かご不明な点がございましたら遠慮なくお申し付けくださいませ。」
「ありがとうございます。」
紗雪ちゃんはお礼を言ってそのまま中に歩いていく。私も紗雪ちゃんについて行こうとすると声をかけられた。
「お客様。そちらの荷物をこちらでお預かりできますがどうされますか?」
「あ、ではお願いします。」
「かしこまりました。」
私はキャリーケースを渡して肩にかけたバックだけを持って紗雪ちゃんのところに行く。紗雪ちゃんが窓側を譲ってくれたので窓側に座る。席にはスリッパとブランケットが置いてあった。夏ではあるが新幹線内はクーラーが効いているので足元に掛ける。椅子に体を預けてみると少し体が沈んだ後にしっかり支えられている感覚がした。
「紗雪ちゃんいつもこの席なの?」
「いや、いつもはこんな席じゃないわ。多分今回は唯がいるからでしょう。あの人は人をもてなすのが好きだから。」
「そうなんだ。なんか申し訳ない。」
「まあ母さんが出したんだろうし大丈夫でしょう。私もこのクラス久々で少し楽しみだわ。」
楽しみって何だろうと思っていると新幹線が走り出した。外の景色を酔わない程度に楽しんでいると乗務員の人が車両内を歩いて他のお客さんに声をかけている。少しした後私たちのところへもやってきた。
「お飲み物はどうされますか?」
メニューを見せながらそう聞いてきた。
「私はコーヒーで。」
「えっと私はリンゴジュースで。」
「ご軽食は食べられますか?」
「唯はお腹すいてる?」
お腹の様子を確認すると少しお腹がすいている感覚がした。
「うん。ちょっと。」
「じゃあ二人分お願いします。」
「洋食と和食がございますがどちらになさいますか?」
「和食でお願いします。」
「私は洋食で。」
私は和食で紗雪ちゃんは洋食にした。
「かしこまりました。少々お待ちください。」
乗務員さんが席を離れてすぐに同じ人がおしゃれな容器に入った料理と飲み物を持ってきてくれた。ドリンクホルダーに受け取ったジュースを置き、前にある折り畳み式のテーブルを広げてそこに料理を置いてもらう。軽食の名の通り量はそんなにないが今のお腹の隙具合ならこれくらいでちょうどいい。
軽食を食べたり、ジュースを飲んだりしてサービスを受けていると目的地に着いた。時計を確認すると2時間経っていた。予定通りの到着だ。荷物を受け取ってお見送りを受けながら新幹線を降りる。乗り物に乗った後の謎の浮遊感の中歩いて駅を出た。外は快晴でカラッとした暑さで少し気持ちいい。帽子を取り出して被る。するとメッセージの通知が来た。雪伺さんからだ。
『もう着いたかしら。お疲れ様。ロータリーに黒い車が止まってると思うからそれに乗ってね。』
『わかりました。』
返信してロータリーを見ると長い黒い車が止まっていた。一応確認しておく。
『ナンバーが12-22の車ですか?』
『そうそれ!』
雪伺さんから確認が取れたので紗雪ちゃんに伝える。
「雪伺さんがあのナンバーが12-22の黒い車に乗ってだって。」
指で刺して伝える。
「ああ、あの車ね。」
日差しがまぶしいので紗雪ちゃんは折り畳み式の日傘をさした。私はそれに入りながら車に向かう。
私たちが近づくと車の後ろのドアが自動で空いた。紗雪ちゃんが先に乗って私がそれに続く。運転手さんはスーツを着ていてサングラスをしているため顔が見えない。が紗雪ちゃんは口を開いて言った。
「父さん?」
「あれ。ばれた?」
紗雪ちゃんにそう言われると運転手の男の人はサングラスを外してこっちを向く。
「初めまして瀬名唯さん。私は紗雪の父の
「はっはじめまして。瀬名唯です。ことらこそいつも紗雪ちゃんにはお世話になっています。」
「ぜひ家についたら紗雪の普段の様子を教えてほしい。」
「母さんみたいなこと言わないでよ。」
「親は子のことが気になるものなんだよ。」
樹さんの運転で紗雪ちゃんの家に着いた。いやこれは家と呼んでいいのだろうか。確かに門のところには「九条」と書かれていたので家ではあるんだけど....とにかくバカでかい。屋敷と言った方が適切ではないかと思うくらい大きい。庭だけで家が何軒も建てれそうだ。
扉を開けて屋敷の中に入ると何人もの人が出迎えてくれた。その人たちの奥に雪伺さんが見える。
「雪伺....使用人の人たちに迷惑をかけないでくれ....」
樹さんは呆れた感じで言う。
「はーい。ごめんなさい皆。元の仕事に戻ってください。」
雪伺さんは使用人の人たちに謝って解散させた。
「お久しぶり唯ちゃん!」
「お久しぶりです雪伺さん。」
「こんなとこで話すのもなんだし、移動しましょうか。」
雪伺さんがそういうと残った使用人の人がスリッパを置いてくれた。
「奥様、唯様の荷物はお嬢様のお部屋でよろしかったでしょうか。」
「ええ。それでよろしく。」
「では唯様、そちらのキャリーケースを頂いてもよろしいでしょうか。」
「は、はい。」
様をつけて呼ばれるのはなんかむず痒い。キャリーケースを預けてスリッパに履き替えて着いて行く。
家の中なのに数分歩いたところで雪伺さんが止まって部屋のドアを開ける。
「どうぞ。」
「ありがとうございます。」
雪伺さんが開けてくれている部屋に入る。部屋に入ると机があってその上にはたくさん料理が乗っている。私が立ち尽くしていると紗雪ちゃんに引っ張られて腰を下ろした。
向かいに雪伺さんと樹さんが座った。
「改めましていつも娘がお世話になっています。それと先日は雪伺も助けていただいたようで。本当にありがとう。」
樹さんはそう言って頭を下げた。
「こちらこそいつも紗雪さんにはお世話になっています。」
私も頭を下げた。
「ね、樹さん。いい子でしょう。」
「ああ。君から聞いていた通り素晴らしい人だな。」
褒められて少し照れる。
「4日間だがぜひくつろいで行ってくれ。」
「はい。ありがとうございます。」
「さ、もうお昼時だし食べましょう。」
テーブルに並べられたご飯を見ながら雪伺さんは言う。テーブルの上にはお寿司やお肉、いろいろな種類の料理が並べられていた。一つの種類の料理はそこまで量が多くないのでいろんな種類が楽しめそうだ。私たちは学校でのことや遊びに行ったことを話したり、どこからか持ってきた紗雪ちゃんのアルバムを見たりした。紗雪ちゃんは必死に止めていたが雪伺さんを止めることはできなかった。
ごはんを食べ終わったあと私は紗雪ちゃんの部屋にやってきた。一人暮らしするときにほとんど持ってきたようで部屋にあるのは本と大きなベッドくらいだったけど。紗雪ちゃんとお話していたら使用人さんがノックして入ってきた。
「
紗雪ちゃんは驚いた様子で名前を呼んだ。
「大きくなられましたね。お嬢様。」
「楓さんこそお体は大丈夫ですか?」
「ええ、3年もお休みをいただきましたから。ああ、すみません唯様。お嬢様のメイドでした楓と申します。」
「唯。この人は私が生まれた時からお世話をしてくれていたのだけど、3年前に腰を悪くしてしまって....」
「ご迷惑をおかけしました。ですが今年から復帰いたしました。」
「本当ですか!」
「はい。」
私は紗雪ちゃんと楓さんの再開を横で見ていた。紗雪ちゃんがあんなに驚くこともなかなかない。
「それで要件なのですが。今日がお祭りがあるので唯様と出かけてきてはいかがでしょうか。」
「お祭りですか。」
「はい。せっかくですから私が着付けを担当いたします。」
「唯。行きたい?」
「うん!」
「じゃあ楓さんお願いします。」
「喜んで。」
私たちは楓さんに着物に着替えさせてもらった。玄関に向かうところで雪伺さんに会って写真を何枚から撮られた。
そして私たちはお祭りへと繰り出した。
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