臨海学校編(5)

「九条さん大丈夫ですか?」

「体調悪くなったら言ってね。」

そうきなこちゃんと美玖ちゃんが心配そうな声で紗雪ちゃんに話しかける。

お風呂から出た私たちはもう一度ホテルの外に出てクラスに合流した。今はお弁当を受け取って海が見える展望台でお昼を食べている

「大丈夫よ、心配しないで。」

紗雪ちゃんはもう立ち直ったようで表情もいつも通りの無表情に戻っていた。

海の幸がたくさん入っていて美味しかったお弁当を食べ終わってから少し展望台内の小さな水族館に行った。

「クラゲがライトアップされてる。綺麗ー。」

「本当だー。」

クラゲが入った水槽に光があてられてクラゲが宝石のように輝いている。

「ゆいちゃんはクラゲ好きなの?」

「うん!クラゲが動物の中で一番好きだよ。きなこちゃんは?」

「私はハンマーヘッドシャークかなー。」

「はんまー?ああシュモクザメか!かっこいいよね。」

そのままきなこちゃんとクラゲの前の水槽で話していると美玖ちゃんから声をかけられた。

「あなたたちいつまでクラゲみてるの?私と九条さんもう一周してきたんだけど⁉」

「クラゲってずっと見てられない?」

「私にはわからないよー」

「えーもっと近くで見てよ。ほらぷかぷかしててかわいいでしょ?」

美玖ちゃんにクラゲを布教しているときなこちゃんが

「あと集合時間まで5分しかない。」

とスマホの時計を見せてきた。私たちは慌てて水族館を出て全速力で集合場所に向かった。

なんとか間に合ってホテルの前に行き、学級委員が点呼を取って全員いることがわかると先生が説明を始めた。

「予定通り今からバスに乗って、漁港へ向かいます。レインコートを忘れてませんね?」

「「はーい」」

「ではバスに乗ってください。」

バスに乗り込んで移動する。15分くらいの近場にある漁港に到着した。

また並んで集合する。

「では今から漁港の責任者の高橋さんのお話です。ではお願いします。」


私たちは漁港での仕事の説明を受けたり、競りの疑似体験をやった。高橋さんは

「じゃあ堅苦しい説明はここまで。いまから船に乗って養殖場に行きましょう。」

そう言ってまたライフジャケットを配った。私たちはレインコートをきてその上にライフジャケットを着る。3艘の船に分かれて乗る。私はしっかり紗雪ちゃんの横に座ると船が発信した。

「わあーーーーー。」

風を感じる。午前中にやったカヌーと比べ物にならないくらいのスピードのため少し怖いほどだ。陸の方を見てみると船酔いがひどいらしいため残った先生がどんどん小さくなっている。

紗雪ちゃんは少し表情が硬い気がするから手を握っててあげる。

もう漁港が見えなくなったくらいで船が泊まった。海にはブイと鉄網が円形状に置かれている。

「これが養殖場です。このなかに大体1200匹のマグロがいます。では餌やりをしてみましょう。」

そう言って運転手さんがイワシが大量に入った籠を持ってきた。

「このイワシをタモを使っていけすに投げ入れてください。」

そう言ってお手本を見せてくれた。イワシが遠くまで飛んでいた。

しかし私たちは力が足りなくて全部手前側にしか行かない。

「次は唯ちゃんだね。」

「任せて!」

私は力いっぱいタモを振った。いい感じにイワシが飛んでいく。しかしそのイワシを飛んできた鳥が空中で咥えて奪い去っていった。

「なんでー」

「唯ちゃんドンマイ」そう肩をプルプル震わせながら美玖ちゃんが言ってきた。


餌やりが終わるとまた漁港へ帰ってきた。高橋さんと先生がお出迎えしてくれた。船から降りてライフジャケットを返すと漁港の中の部屋に通された。会議室みたいなところで椅子とテーブルがある。座っていると高橋さんが来て、

「今日は漁港について知ってもらえたでしょうか。楽しんでもらえましたか?」と聞く。

皆で拍手して応える。高橋さんは続けて、

「ありがとうございます。では今日の最後のイベントのマグロの試食です。今日水揚げしたばかりのマグロです。」

高橋さんがそういうと漁港の作業服を着た人たちが切り分けられたマグロを持ってきた。

「本当は解体もお見せしたかったのですがこちらの都合でできませんでした。ごめんなさい。」

そう高橋さんが謝るが私たちはマグロに夢中で聞いていない。テーブルに置かれた醤油をかけて食べる。

一口食べるとマグロのうまみが口の中に広がる。普段食べるマグロの数千倍おいしい。新鮮さがここまで味を変えると思わなかった。おいしすぎてすぐに食べ終わってしまうと作業服を着た人がお代わりをくれた。


日が沈む前だがお別れの時間になった。

「今日はありがとうございました。」

「「ありがとうございました。」」

「こちらこそありがとうございました。ぜひまた来てください。」

手を高橋さんやスタッフさんに振ってバスに乗る。バスが出発しても高橋さんは見送ってくれた。


ホテルに戻ってきた。この後は夕食まで何もなくて食べた後少しはなれた広場でキャンプファイヤーをするらしい。

とりあえず部屋に戻って荷物を置きに行く。夜ご飯まで暇だけど1時間半くらいしかないからすることがない。ベッドに寝転がりながら散歩にでも行こうかなと思っていたらきなこちゃんから連絡が来た。

『ホテルの三階に遊べるところがあるらしい!行こ!』


「さゆきちゃーん。」

「何」

「きなこちゃんが遊びたいって。」

「どこで何を。」

「三階に遊べるとこが有るらしいよ。いこー。」

「わかったわ。」

「おーけー。」

きなこちゃんに返信してベッドから起き上がる。

三階に行くともうきなこちゃんと美玖ちゃんがいた。

「おまたせー」

「私たちも今来たとこだから。」

「なんか恋人みたいなやり取りだね。」

「私二股じゃーん。いや三股か?」

「私を入れないでよ。」

そんなやり取りをしながら遊べるところに入ると、何人かの人は見えたがすいていた。ビリヤードやダーツ、卓球台もある。ボルダリングができるスペースもあった。

私たちはそこで夜ご飯の時間ぎりぎりまで遊んで、食堂に向かう。

「疲れたー」

「唯ちゃんはしゃぎすぎだよ。」

「だってー。」

私はあそこにあったありとあらゆる種目をやった。特にバスケのシュートゲームとボルダリングは体力が削られた。

食堂前の先生に健康チェックカードをもらって記入して提出して部屋に入る。今日もバイキング形式だが昨日とはメニューが異なっていた。

私は寿司があったのでお寿司とお茶とお味噌汁を取って席に着く。昼と漁港といっぱい海鮮系だがここの海鮮はおいしい。みんなが席に来るまで待っているとクラスの男子の三宅みやけくんに声をかけられた。

「キャンプファイヤーの後時間ある?」

「あるけどどうしたの?」

「少し残っててほしい。」

「わかったー。」

「ありがとう。じゃあ。」

そう言って三宅君は男子のグループに戻っていった。そのタイミングでみんなが来た。

「いまの三宅君だよね。どうしたの?」

「んー?なんかキャンプファイヤーのあと話があるって。」

「それって。」

「うん。」

「知ってるの?教えて!」

「行ってからのお楽しみだよ。」

「えーー。」

まあいいや、きなこちゃんと美玖ちゃんがなんかこそこそ話してるけど今の私にはお寿司の方が優先度が高い!

夢中でお寿司を食べてお茶を飲みながらお話してみんな食べ終わってからホテルの庭に出る。

「すこし寒いねー。」

「ね、上着もってきてよかった。」

そうきなこちゃんと美玖ちゃんが話している。

「紗雪ちゃんも寒くない?」

「大丈夫。」

「そっか。あ、流れ星。」

そらの星を眺めていると、きらりと星が流れて行った。

「願い事しなきゃ!」

「あはは、忘れてたよ。」

「唯ちゃんはなにお願いするの?」

「んー今度のテストでいい点とれますように....とか?」

「テストのこと思い出させないでよーーーー」

「ごめんごめん」

話していると続々と人が集まってきた。先生がクラスを集合させて言う。

「今日は一般の方も来れるようになっているので迷惑をかけないようにしてね。じゃあそろそろ着火の時間なので楽しんで!」

先生はそう言い残して学年主任の先生の方へ走っていった。


次回 キャンプファイヤー








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