臨海学校編(4)

私たちは濡れてもいい格好に着替えてから全身に日焼け止めを塗り、海岸沿いに集合した。

「今日はカヌー体験です。あまり経験することができないものなので楽しみましょう。ではライフジャケットを配るので着てください。」

先生からライフジャケットを渡されて着る。それからカヌーの指導員さんの指示に従って二人一組でカヌーを倉庫から持ってきて砂浜に置いた。

指導員さんから一通りカヌーの漕ぎ方などを教わった後

「では今から海の向こうにブイと呼ばれるオレンジの風船みたいなのが置いてあるのでそこまで行ってから戻ってきてください。そのあとは昼まで各自自由時間とします。」

と先生が言ったので自由時間が欲しい人たちは我先にと海にカヌーを浮かべて漕いでいく。

「私たちも行こうか。」

カヌーを持って海に入る。紗雪ちゃんが前で私が前に乗る。最初は前に進めなかったが指導員さんが私たちの方に来てくれた。

「もう少し面を立たせると漕げると思うよ。」

「わかりました。」

指導員さんの言う通りにしてみると進みだした。お礼を言ってからどんどん漕いでいく。

しばらくすると波もなくなってスピードも出てきた。

「日差しすごいねー」

「そうね。」

海が太陽に照らされてキラキラ光っている。

そのまま漕ぎ続けるとブイが見えてきた。

「あそこで曲がるんだよね。どうやって曲がるんだっけ?」

「曲がりたい方と逆に漕ぐはずだけど。」

なんとか大回りになりながら回転できた。

「うわー陸遠いね。私疲れちゃったー。」

「普段から運動しないからそうなるのよ。」

息を切らしながら一生懸命漕ぐ。被ってる帽子はもう汗でびっしょりだ。曲がったときはかすかにしか見えなかったホテルも大きくなってきた。

いきなりカヌーがひっくり返った。とっさに息を吸って止める。体をカヌーから出すと体が浮かんでいく感覚がある。やっとのことで顔を出してパドルを掴んだままひっくり返っているカヌーに捕まる。

一呼吸置く前に紗雪ちゃんを探した。少し離れたところで浮いているのは見えたが、紗雪ちゃんの周りは水しぶきが立っている。

「紗雪ちゃん!」

昨日行ったプールではずっと浮き輪を抱えていたのを思い出した。もしかして紗雪ちゃんは泳げない?だったらパニックになってるかも。

すぐに泳いで紗雪ちゃんの後ろに回る。

「大丈夫だよ。落ち着いて。いったん深呼吸しよ。」

と声をかけると紗雪ちゃんが私に寄りかかって、深呼吸をした。そのまま数十秒体を貸していた。


「ごめんなさい。」

「大丈夫、謝らないで。」

そのままなんとかカヌーのところまで行ってカヌーに捕まって浮いていると指導員さんが来てくれた。

「大丈夫ですか!」

「はい、大丈夫です。カヌーのひっくり返し方教えてください。」

「わかりました。」

指導員の人が一度海に入った。

「カヌーの起こし方はですね、先端側を持ち上げてコックピットから水を出します。そのあとは素早く反転させます。」

説明しながらカヌーを戻してくれた。さすがプロだ。

「乗り方は横から腹ばいになって乗ってもらって、一度足を水につけて安定させてから、馬乗りになって重心を変えないように乗ります。今は私が抑えておきますね。」

先に紗雪ちゃんが乗ってそのあと私が乗れた。

「ありがとうございます。」

「ありがとうございます.....」

「いえ。大事にならなくてよかったです。」

そう言って指導員の人はまた漕いでいった。

そのあと陸に着いてパドルとカヌーを返した。本当は少し海で遊んでいくつもりだったが転覆してから紗雪ちゃんの表情が曇ったままなのでやめることにする。ロッカーに預けたスマホを出してきなこちゃんに先に戻る!とメッセージを送り、謝るスタンプを送っておく。

「じゃあ、部屋もどろっか。」

「瀬名さんは遊んでてもいいよ....」

そう紗雪ちゃんは言うが、酷くつらそうな様子をしてる紗雪ちゃんを一人にはさせておけなかった。

部屋に戻って椅子に座っていると体がべとべとしていた。軽くシャワーは浴びてきたがそれでも髪がごわごわするし肌はべとべとしている。時計を見るとお昼ご飯までまだまだ時間があるので、お風呂に入りいこうかと迷っていた。でも紗雪ちゃんを一人にするのも嫌だった。

すると

「瀬名さん。お風呂入らない?」

「え?」

「お風呂。体と髪がべとべとしちゃって。」

紗雪ちゃんがお風呂に誘ってきた。まあでもこれは仲良くなったってわけじゃなくて今一人で水に浸かるのが嫌なだけだろうな。そうは思ったがもちろん快諾した。

部屋のお風呂は昼は使えないのでホテルの大浴場に入りに行くことにした。その前に濡れちゃった衣服を部屋の洗濯機兼乾燥機に入れておく。大浴場に着くと昼の時間のため、私たち以外には誰もいなかった。服を脱いで畳んでから浴場に入る。

「貸し切りみたいだねー」

「そうね。」

いつもより紗雪ちゃんが冷たい声をしてる。まあおぼれかけたら誰でもこうなるよね。

体と頭を洗ってからお風呂に入る。紗雪ちゃんは髪が長いからもう少しかかりそうだ。

お風呂でぽけーっとしていると髪を洗い終えた紗雪ちゃんが隣に座ってきた。私たちしかいないのに肩と肩がくっついている。

「紗雪ちゃん?近くない?」

「別にいいでしょ。」

「いいケド.....」

紗雪ちゃんの顔を見るとまだ少し顔色が悪く見えた。せっかくの旅行なんだしもっと元気になってほしいなあ。

そう考えてはいたがなんて声を掛けたらいいか私にはわからなかった。なので紗雪ちゃんに抱きついた。

「いきなり何。」

紗雪ちゃんは私を睨む。

「怖かったよね、溺れそうになって。私も転覆した瞬間はヒヤッとしたし。でもせっかくの旅行だから紗雪ちゃんが楽しそうにしてくれなきゃ私も楽しめない。」

「三浦さんや加藤さんと遊べばいいじゃない。」

そう紗雪ちゃんは言い放った。私はもっと紗雪ちゃんを強く抱きしめて言う。

「私は紗雪ちゃんと楽しみたいの!紗雪ちゃんじゃないとヤダ!」

「.......」

私は紗雪ちゃんの肩に顔を置いているため紗雪ちゃんの顔は見れない。が紗雪ちゃんはすぐに口を開いた。

「く、苦しい。」

「あっ」

すぐに放す。力を籠めすぎちゃったみたい。

「ごめんなさい。」

「はぁ。別にいいわよ。」

紗雪ちゃんは少し笑ってくれた。

「というか貴方。しれっと名前呼びにしてるわね。」

「別にいいでしょ、さゆきちゃん。」

「仕方ないわね。」

紗雪ちゃんからついに名前呼びの許可が出たところでそろそろお昼の時間になったのでお風呂を出てみんなのところに向かった。



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