Sid.147 余計な手間を掛けた
メリカントとファーンクヴィストに国交はあっても、あまり人の往来は無いのだろう。英傑の存在を知らなさそうだし、瞋恚の魔女を倒した奴が居る、なんて噂話すら無いようだし。
門衛は冒険者ランクも知らない。だからスーペラティブが何かも分からないのだろう。
それは側近らしき奴も同様。結果、冒険者如きが帝都を消滅、なんて言っても信じるに足らないわけで。俺が英傑と知っていれば、諸手を挙げてぶっ潰して来い、なんて言うのだろうなあ。
「返事がないな。と言うことは許可はしないってことで」
一応国交があるから、あえて許可を取っての行動をと思ったが、これなら素通りして直接ガリカ帝国を叩くべきだったな。
やれやれ。腹を括って来てみれば疑われるだけで、意味の無い行動になってしまった。
横柄な側近らしき男に背を向けると、門衛から「なあ、本当に帰るのか?」なんて聞こえる。
「悪いな。何とかしたかったが、そこの横柄な奴の信用は得られなかった」
「俺たちは信じてるんだが」
「気持ちは分かる。国家の一大事だし、自分たちの身も危ういからな」
「頼むよ。せっかく力があるなら」
どこの国も貴族や側近ってのに、まともな存在は居ない。
「自信があるようだから実力を見せてみろ」
側近らしき男が何やら言ってるな。
実力ねえ。その石頭を吹っ飛ばせば理解するのか?
振り返らず背中越しに聞いてみる。
「何をすればいい?」
「町を消滅させるだけの力の有無だ」
「あのなあ、そんなもの使ったら、この近隣は全て不毛な大地になるぞ」
まあブリクスネスラグでも充分、脅威を感じるとは思うが。ソルフランマなんぞ安易に使えないっての。
「ひとつ、誰にも使えない魔法を見せてやる」
まずは町の外に出ないとな。町中で使える代物じゃない。
「どこに行く?」
「町の外だ」
「なぜ?」
「城が吹っ飛ぶぞ」
そう言うと渋々付いて来る側近らしき男たち。それに続いて門衛も一緒に付いて来る。
外に出ると少し町から距離を取っておく。
「この辺でいいか」
右腕を地面に対して水平にし、フラムトランダンデ・プラッツを遠方に発生させる。千メートル程度は距離を取らないと、こっちにも影響が出かねないからな。何しろ攻撃対象が無いから、適当に暴れる状態になってしまう。
地面が白色に輝くと一気に高温に至る。そこから猛烈な白色の炎が立ち上がり、更に下降して地面にぶち当たる。凄まじい轟音と閃光で腰を抜かす面々だな。ついでに爆風も押し寄せるし熱もだ。爆風に煽られる連中だが、クリッカは俺を盾にしてるな。
それにしても炎のドラゴンの如く激しく暴れる炎の柱だ。
「ろ、ロヒカールメか」
「リエッキ・ロヒカールメ」
驚愕の表情を浮かべ口々に「炎のドラゴン」とか言ってるし。
まあ見た目はそう見えるってのは、ローセンダールでも同様だった。
爆炎が治まると俺を見て「あ、あれが、魔法?」とか言ってるな。便宜上魔法と呼ぶが、実際には物理現象でしかない。魔素を別の元素に変換し、それを燃料に爆発炎上させるからな。
まあ「魔法」と言っておいた方がいいわけで。これまでもずっと魔法と言ってきたし。
「もっと激しい奴も使える」
顎が外れそうな門衛たちが居て、地べたにへたり込む側近らしき男たちだ。
熱風を浴びてなのか、汗が噴き出してるぞ。
暫くは茫然としていたが、側近らしき男どもが勢い町へ走り出したようだ。
「逃げたのか?」
「報告だと思う」
「今の魔法の?」
「ああ、そうだ」
門衛たちも立ち直り爆心地を見ているが、まだ熱を帯びてるから当分近付けないぞ。何しろ五千度から最高で一万度に達するからな。爆心地にあったものなんて、大半は蒸発してるし。
地面は溶岩状になっていて、冷めると溶岩石になり、凹凸が激しく当分の間ぺんぺん草も生えん。
爆心地周辺の大気が陽炎の如く揺らいで見えるなあ。
「それにしても、あんた、凄まじいな」
「これならガリカの奴らを」
「ひとり残らず殲滅できるんじゃないのか」
殲滅する気は無いんだよ。皇帝の首を取れば済む。末端の兵士は命令に従ってるだけ。殺す理由なんて本来無いからな。
まあ戦争に至ると敵兵憎しの感情を持つ。でもな、相手も同様だと思わないと。
奪われれば奪いたくなるし、報復しないと腹の虫も収まらない。結果、いつまでも怨恨が残るからな。
暴君の首を取ってしまえば怨恨を残さずに済む。一部に熱狂的な支持者が居たとしても、多くは争わずに済めば、それに越したことは無いはずだし。
身内の命が奪われ愛する人の命が奪われれば、死ぬまで恨み続けるのが人だ。しかも後世にまで持ち越しかねない。
不毛な争いが無くならないのもそのせいだし。
しかも理不尽に奪われたとなればな。
町の方に目を向けると、門の前に人だかりができてるし。塀の上にも人が集まってるようだ。
門衛は仕事をしなくていいのか? 野次馬が興味本位で町から出てきてるぞ。
ひとりが気付いたようで「お前ら、町へ入れ」とか言って、走って向かってるし。それに続いて二人の門衛も同じように門に向かった。
やれやれだ。
「ぴぃ」
「門の前で待つか」
「ぴぃ」
クリッカと一緒に門の前に行くと、門衛が「期待してるぞ」だの「間違いなく許可証は出るはず」なんて言ってるし。
町の住民はすでに押し込んだようだな。少々騒がしかったが静かになってる。
門の前で待っていると横柄な奴が戻って来た。
俺の前に立つと「持って行け。そして死んで来い」だって。投げるように手渡された書簡は許可証なのだろう。領主に言って急いで書かせたようだな。封筒の表面には「メリカント国王陛下」と記載され、裏面には紋章の入った封蝋が雑に押されている。
慌てて作成し押したのだろう。
「無事受け取れたな」
「まあ、そうだな」
「あとは任せた」
任されてしまったが、元より叩きに行く予定だったし。
「今日は町で休むのか?」
「いや、このまま王都に向かう」
「はぁ。なんか凄いな」
門衛と軽く会話を交わし別れると、クリッカと共に空へ舞い上がる。
少々足止めを食らった気がするが、これ、王都でもひと悶着ありそうな気がする。最初からスルーして勝手に暴れた方が良かったかもしれん。
貴族ってのは面倒臭い存在だし、国王ともなると輪を掛けて面倒だろう。謁見する必要は無いにしても、話が通るまでに数日は掛かりそうだし。無駄が多いから、このままガリカに向かうか。
頭のおかしい王侯貴族に構うと、時間の無駄極まりないからなあ。
凡そ一時間半程度飛行し、一度下りて化け物を狩っておくことに。
クリッカの飯だ。性能が上がったならば、食らう量も増えておかしくないし。あとのことも考えて蓄えておかないとな。
多数の反応がある森へと突入し、片っ端から狩り捲ると魔石を確保。クリッカには大小十個くらい与えておいた。
太陽の位置から見て正午かもしれん。今日中にガリカに行けるかどうか。この国の広さも分からんからなあ。
やはりどこかで一泊してからの方が。腹も減るし少しは寝ておきたいし。
二回程飛行して適当な町を探し、そこで一泊して明日にも向かうか。
一時間半の飛行を二度繰り返し町を探すと、小さな町がひとつ目に入った。
宿があるかどうかは分からんが、とりあえず寄ってみようと思い、クリッカに指示し下りて徒歩で町に向かう。
柵のような塀。化け物が襲って来たら壊滅しそうだ。
門衛は居ないのか。開放された門を抜けると、町じゃなくて村だな。これは宿なんて無さそうだ。
踵を返し村を出ようとしたら声が掛かる。
「あの、旅人の方ですか?」
旅人じゃないが、そう言うことにしておこう。振り向いて声の主を見ると若い女性だ。
「そうだけど」
「冒険者では無いのですね」
「なんで?」
「あの、旅人でしたら無理には」
分かった。
「ヒルヴィオの討伐か?」
「え、あ、はい」
「いいぞ」
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