Sid.148 村娘から依頼を受ける
化け物の討伐依頼だろう。受けると返事をすると「旅人なのですよね?」と。
「一応冒険者だから何をすればいいか話してくれれば」
少し戸惑ってはいるが冒険者と聞いて「報酬なのですが」と切り出す、ってことは冒険者に払えるだけの金は無い。冒険者ギルドがあるのかどうか知らんが、依頼するだけの金銭は無いってことだろうな。村だし、住民がその日暮らすだけで精一杯なのだろう。
「報酬は要らん」
「え」
「寝る場所と簡単な食事だけでいい」
申し訳なさそうな表情をしているが「本当に何も支払えないのですが」とか言ってるし。
要らんって。困ってるのだから遠慮なく頼ればいい。どうせ化け物は倒すし魔石を得れば、クリッカの食事になるのだから。
「構わない。で、何をすればいい」
「あ、はい。あの」
村の外に最近化け物が頻繁に出るようになり、農作業に支障が出ているらしい。犠牲者もすでに三人ほど出ていて、冒険者ギルドに依頼するには、金が足りなくて善意で引き受けてくれる冒険者を探していたと。
リスクはあるからなあ。金を得られないのであれば、殆どの冒険者は引き受けないだろう。
「そのヒルヴィオってのは?」
「フール・カルフです」
狂った熊、ね。
殴って倒せる程度だな。報酬なんて要らん楽勝な相手だ。
「どの辺に出没する?」
「畑の先にある林に住み着いてるみたいです」
「じゃあちょっと見て来る」
「あの、本当に良いのですか?」
農作業の邪魔になるだろうし、被害も出てるなら片付けた方がいいだろ。
「大した手間じゃないからな」
さっさと片付けてしまおう。寝場所と食事の確保ができれば御の字だし。
畑の先にある林と言ってたが、視界に入る木々。あれだな。
歩みを進めると後方から「あの、まだ話が」とか言ってるが、なあに、数が多くても問題は無いからな。違う種類が居てもドラゴンでもない限り、何ら手間にすらならん。
林に向かい気配察知で探ると、確かに熊の反応が複数返ってくる。
「ぴぃ」
「クリッカは空で待機してくれ」
「ぴぃ」
指示すると飛び立つクリッカだ。戦闘に参加させる気はないからな。攻撃魔法を持たないし体の構造的に脆そうだし。メイのようなタイプは化け物部分は、おそらく頑丈にできてるとは思う。純粋に戦闘を熟せるタイプだ。攻撃魔法も複数持ってるし。だがハーピーは空を飛ぶことに特化してる。紙装甲じゃ熊に殴られただけで拉げるだろ。
林の中を進むと向かってくる熊が数頭。
接敵した瞬間、走り出して腕に風魔法を纏い殴り飛ばす。
「まず一頭」
すぐに次の熊を殴り飛ばし、更に向かってくる二頭も殴り飛ばした。頭やら体が拉げて脳漿やら内臓を撒き散らして絶命してるし。脆いな。
気配察知で探りを入れると別の反応もあるな。
気配のある方向へ進むと、ここでも蛇牛か。熊よりちょっとサイズが大きいからな。ブリクストで処理しよう。
「ブリクスト」
都合二発で倒れたようだ。
やはり弱いな。ルドミラは倒せなかったと言っていたが、それはブリクストの威力が弱過ぎたからだ。本来の威力があればミノだって二発で済む。
念のため周囲の気配を探るが、どうやら近辺には居ないようだ。
少し移動していると、またも反応があり地上ではなく、木の上から反応が返ってくる。
木々を見上げると、居た。
蜘蛛だな。しかも体長二メートル程の巨大蜘蛛だ。
「ブリクスト」
直撃すると落ちてきて、まさに虫の息だ。拳で殴り潰そうかと思ったが、虫はあれだ、少々気色悪いから剣で薙いでおいた。
ついでに魔石も取り出しやすくなったし。
入念に探ってもこれ以上は何も居ないようで、全て片付いたってことだろう。
帰り掛けに倒した蛇牛と熊の魔石を確保しておく。
ケリがついた段階でクリッカを呼び戻し村へ戻る。熊の魔石を二つと蜘蛛の魔石を与えておいた。
喜んで食らうクリッカだな。これで明日も元気に飛べるだろう。
村に戻ると依頼してきた女性が居て、かなり驚いた表情をしてるな。
「あの、先程、凄い音が」
「魔法だ」
「え、魔法なのですか?」
「そうだ」
化け物に関して熊だけではなく、蜘蛛と蛇牛も居たと言ってるが、それらも片づけたと言うと仰天状態だな。
「さっき向かったばかりです」
「あの程度は片手間で処理できる」
本当に報酬は支払えないと、またも言ってるが無理に出す必要無いって。
「寝る場所と簡単な食事で」
「あ、それでしたら」
女性の家に来てくれと。寝場所と食事くらいは出せるそうだ。
世話になる、ってことで女性のあとを付いて行くと、家と言うよりは小屋だよなあ。木造家屋でドアの両側に小さな窓がひとつずつ。中に招き入れられると、リビング兼ダイニング兼キッチンがあり、テーブルひとつと椅子が二脚。マントルピースがあって鍋を吊り下げてる。
狭い。
そして室内にもドアがひとつ。
「そこは寝室になっています」
「俺はどこで寝ればいい?」
「一緒で構いません」
潤んだ瞳を見せる女性だ。つまりはあれだ、抱いていいよと。
「あの、食事ですけど、本当に簡単なものしか」
「贅沢は言わない。何か腹に収められればな」
「お礼ですけど粗末なものしか」
自分がお礼として相応しいとは思わないが、今夜は遠慮せずに抱いてくれて構わないと。
若い女性ではあるが少々薄汚れた感じはある。農作業をしているからだな。小綺麗な格好をしていても意味無いし。
「礼は要らないぞ」
「え、ですが」
「気にしなくていい」
飯と寝床さえ確保できればな。
体は他に大切と思える相手にくれてやれ、と言うと「あなたでは駄目なのでしょうか」と言われる。
まあ分かったけどな。強い男の遺伝子が欲しい。
でも要らんとは言い難いなあ。こんな農村じゃ出会いも限られるだろうし。
「座り心地は悪いですけど、こちらで」
そう言って椅子に腰掛けるよう促され、腰を下ろすと「お連れ様も」とか言ってる。クリッカも椅子に腰掛けるが、その正体に気付いてないんだろうなあ。あとで恐怖に陥りかねない。先に言っておこう。
「あのだな」
「なんでしょう?」
「クリッカだが」
「お連れ様の名前ですね」
ハーピーだと言うと「やはりそうなのですね」と。
分かってた?
「でも不思議な存在です」
化け物らしからぬ愛らしさと、知能の高さがありそうだと。
「なんで分かった?」
「子どもの頃から感じ取れるので」
まあ、そう言う人も居るか。魔法があるのだから、当然、見抜く存在だっているだろう。
「怖くない?」
「大丈夫です。危険な存在には見えないですから」
その後、本当に簡単な食事が出たが、野菜の煮込みスープだ。豆やら葉物野菜や根菜類たっぷりだけどな。それとライ麦パンは定番のようだ。
食事を済ませると外はすっかり暗くなっている。
「あの、お湯を沸かしたので」
体を拭って身綺麗にしたら抱いてください、だそうで。
まあクリッカの様子を見ていて、女性も欲情してるのが分かったけどな。
「そう言えば名前。俺はトール」
「あ、そうでした。私はティーナです」
「それで、いいのか俺で」
「とても強い方だと思います。私からお願いしたいです」
結局、抱いてしまった。
それにしても村娘にしては言葉遣いが丁寧だな。もう少し高貴な雰囲気を感じさせるんだよなあ。
「もともとこの村の出身?」
聞けば元は男爵家に生まれ、今は家そのものが消滅してしまい、ひとり村に流れ着いて生活しているそうだ。
やっぱりそうなのか。
「もしかして」
「はい。政変で取り潰しです」
エイネから過去にあったことを聞いていたからな。
元々は貴族で農作業に従事なんて、最初は苦労しなかった聞くと「意外と楽しいですよ」だそうだ。
タフだな。男爵家くらいだと、そこまで横柄な存在ではなかったのかもな。
「両親は?」
寂しそうな表情を見せてるな。
「政変のあとに」
「悪かった。すまん」
「いえ。良いのです」
運命だったと言ってる。
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