Sid.146 辺境領主側近との対話
見送りしに来たのか、アネッテが宿の外に居て「おはようございます」なんて笑顔で言って、側に寄ってくると背伸びをしてキスされた。
急に積極的になったぞ。
「お見送りに来ました。帰りの際も必ずお相手してくださいね」
勿論、クリッカも同伴で構わないらしい。昨夜のことが忘れられないらしく、抱かれている時の安心感は格別だったそうだ。
みんな言うんだよなあ。安心感って。
「一番は結婚ですが、無理強いする気はありません」
だから時々でいいそうだ。その時々ってのもな、年に一回なのか月に一回なのか、頻度にもよるんだよ。
週に一回は来るように、なんてアデラには言われてるし。頻繁に訪れるには、この町は遠すぎるからな。まあ年に数回程度、としておこう。
なんか知らんが、ここでも惚れられたようだし。行く先々でこれだと、きりが無いな。
「では、いってらっしゃいませ」
丁重に見送られ町を出る。去って行く俺に対して手を振っていたな。ちょっと寂しそうだったが、そんな顔を見せられると訪れなきゃ、ってなるんだよ。
つくづく甘いなあ、女性に対して。
街道に出ると暫く歩いて進み、頃合いを見てクリッカには魔石を与え、腹を満たしたら空に舞い上がる。
今回も時速五百キロは出ているようだ。以前より性能が上がったのか?
高速で一時間以上の飛行が可能になってる。ついこの前までは一時間が限界だったのに。
どこまで性能が上がるのやら。まあその分、移動に掛かる時間が減るから、俺としては助かるけどな。
五百キロの速度で一時間半程度飛行を続けると、降下し休憩を取ることに。
「ぴぃ」
「魔石か?」
「ぴぃぴぃ」
バッグから魔石を採り出し五個程与えると、勢い齧り付きしっかり食ったようだ。
足りなくなりそうだから、どこかで調達した方がいいかもしれん。
すでにメリカントに入っているのだろう、どこかの町で一泊したいが、戦争中ってことで難しいかもしれん。
戒厳令なんてのが敷かれていると、こうしてうろうろしてるのでさえ、罪に問われかねないが。まあ逃げるのは容易だし、この国では名も知れてない冒険者だからな。
正体さえ判明しなければ問題無かろう。
暫し休憩を取ると再び空に舞い上がり、適当な町を探すことに。
もう少し正確な情報も得たいからな。
飛行を続けると町が見えてくる。比較的大きな町のようで、無数の建物が密集しているようだ。
外壁の周囲には広大な農地が広がり、ところどころに人の姿も見える。農作業中かもしれん。農地は柵で仕切られ化け物の侵入を、一定程度は防ぐことができるようだ。犬やゴブリン程度だろうけど。
「クリッカ。下りよう」
「ぴぃ」
農地の端に下りて徒歩で町を目指す。
十五分も歩くと町の外壁に辿り着き、門に向かって進むと門衛が複数居るようだ。警備体制が厳重になっている可能性はある。
歩みを進めると門衛が気付き、槍を持っているようで上に掲げ、左右に振って横に構えてるな。
止まれってことか?
一旦立ち止まると門衛が三人、こっちに向かって来るな。
近くまで来ると「ミスタトゥリ?」と聞かれた。
言語が違うのは当然としても、意味はすぐ理解できた。どこから来た? と聞かれたわけで。
「ファーンクヴィスト」
「身分証は?」
「これでいいのか?」
タグを見せると「冒険者か」と言って、しげしげと俺とクリッカを見てる。
「何しに来た? この国は今戦争中だ」
「ガリカ帝国へ威力偵察」
「支援要請で来たのか?」
「いや、個人的な戦況把握のためだ」
冷やかしや遊び気分なら帰れと言われるが、まずは戦況を確認しないと支援要請に応えられないと。
嘘だけどな。ファーンクヴィストも王都で揉め事が発生していて、他国の支援まで及ぶ状態ではないのだろう。揉めてる間にメリカントが落ちれば、次はファーンクヴィストだと分かっていそうなのに。所詮はバカ貴族だからなあ。
「この町には何をしに来た」
「情報収集」
「何を聞きたい」
「現時点での状況」
前線から離れた町だから、詳細までは分からないそうだ。
ただ、前線は日々後退していて、徐々に王都に近付いているらしい。つまり戦況は極めて不利ってことだな。
「威力偵察と言っているが、たったひとりでできるのか?」
「死んでも責任は負わないからな」
「問題無い」
ここならクリッカをハーピーと言っても差し支え無さそうだな。空からの偵察ができるってのは、この国も望んでいただろうし。願ったり叶ったりじゃないのか。
「歩いて敵地に向かうつもりか?」
「無謀だと理解してるか?」
百聞は一見に如かず、だ。
クリッカの外套を脱がせると、羽を伸ばし「ぴぃ」と鳴いて跳ね回ってる。
そうなると衛兵たちが驚いて「ヒルヴィオだ」なんて言ってるし。ああ、この国とクラウフェルトって同じ言語なのか。ファーンクヴィストを挟んで、同一言語ってのはどういうことなのだろう。
元は同じ民族で袂を分かったか、新天地を求めて移動したか、だろうなあ。
元々は帝国だったのであれば、国を捨てて新天地を求めた、ってのが正解かもしれん。
「まさか、ショーヤタルを従えているのか」
「そのまさかだ」
ハーピーを従えている、となれば偵察任務を熟せる。
クリッカに飛ぶよう指示し足に捕まると、門衛から歓声が上がるわけで。
「凄い」
「人を運べる程に強力なのか」
「隣国で成功していたとは」
そうなると偵察をしてきて欲しい、となるわけで。
とは言え、門衛程度が許可したとしても、国王がそれを良しとするのか、だよな。
「それはどうなんだ?」
「領主からの書簡を国王宛てに預かればいい」
領主の元に案内するから是非、この国の手助けをして欲しい、となった。
現状をファーンクヴィストに伝え、支援をして欲しいってのが本音だろう。
移動に掛かる時間を聞かれ、一時間で五百キロ移動できると言うと、驚愕の表情を見せる門衛たちだな。
すぐに町へ案内され領主の城まで向かうが、外で待機するように言われる。
まあさすがに城内へ入って良し、とはならんよな。
門衛のひとりが城の衛兵に伝え、暫し待つと数人城から人が出てきた。
「その男か?」
「そうです」
「ショーヤタルを従えていると」
「力もあるようで人を運べます」
偉そうな態度の人物があれか、領主の側近かもしれん。
俺を見て「威力偵察をすると言う話だが」と。
「その許可を得たい」
「その前に貴様が信用に値するかどうか、の問題もあるのだが」
「支援が不要なのであれば、ファーンクヴィストは勝手に守りを固めるだけだ」
兵を割く必要が無ければ国境沿いに兵力を集中し、ガリカ帝国の侵略に備えれば済む。メリカントが落ちようが関係ない。
落ちるまでの時間で充分な対策を講じることも可能。
「冒険者風情が」
「そう思うなら支援など期待しない方がいい」
貴族はやはり貴族か。平民だと扱いはぞんざいになるな。
突っ撥ねれば千載一遇のチャンスを不意にするぞ。俺がガリカ帝国の帝都を落とすのだから。
脅威を排除できる最後のチャンスと思えればな。機嫌を損ねれば、この国は救われない。
さあ、どう出る?
「許可しないなら俺は帰る」
この国が落ちても知らん。ガリカ帝国がファーンクヴィストに侵略してきた段階で、俺が帝都を潰し前線に配置された敵兵を間引けば済む。
それで充分戦意を喪失させられるだろう。ソルフランマ一発見せれば、怯えて逃げるだろうし。
「個人の意思なのか?」
「そうだ」
「ひとりで?」
「そうだ」
国王の指示でもない。貴族からの依頼でもない。個人的に厄介事の目を潰したいからな。
平和が一番だし、冒険者を戦場に駆り出したくない。行くなら貴族だけで行って欲しいくらいだ。
「何ができる?」
「帝都を消滅させる程度なら」
戯言を抜かすな、と言ってるが事実なんだよ。それが可能なのだからな。
「信じないなら仕方ないな。勝手に滅べばいい」
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