Sid.145 辺境ギルドの受付嬢と
インゲマルとの話が済むと受付嬢が宿に案内するようだ。
ギルドを出て暫し並んで歩くが、一緒に歩くクリッカが気になるようで、ちらちらと見ているのだが。
「あの」
「クリッカのことか?」
「え」
正体と明かすと面倒だし、斥候ってのが無難かもしれん。
「こんな見た目だが斥候職だ」
「あ、え、そうなんですね」
納得したのかしてないのか、それ以上は何も聞いて来ない。
「あ、あの。名乗ってませんでした」
別に構わんのだが。情報収集のために立ち寄っただけだし。誰かと懇意になる気はないし。すでに両手に余る人数だからな。これ以上抱え込む気はない。時々来てくれ、なんて言われてもベルマンからだと遠すぎる。
考えすぎかもしれんが。
「アネッテと言います」
「俺も名乗った方がいいのか?」
「えっと、トール様、ですよね」
「敬称は要らんぞ」
宿に着いたようで「こちらです」と言って、扉を開け中に入ると「どうぞ」と招き入れる。場所だけ示せば問題無いのだが、フロントに向かうと「先程話した宿泊者です」と、スタッフに話をしているようだ。
アネッテが振り返り後ろに立つ俺を見る。
「一泊ですよね」
「そうだ」
「お部屋なのですが」
「ひと部屋で構わんぞ」
チェックインを済ませるとスタッフではなく、アネッテが部屋まで案内すると言ってる。いや、ここは通常スタッフが示す程度だろ。何号室だとか言って。
だが先導し部屋の前まで来るとドアを開け「こちらです」と言って入室を促す。
「ここまでしなくても」
「スーペラティブの冒険者なので」
凄い人が来た。だから持て成すのだそうだ。
要らんのだが。
あとあれだ。
「食事なんだが」
「外ですか? それともここで」
「どっちでもいいんだが」
「ではご用意させますね」
そう言って部屋を出てしまった。
やれやれだ。過剰接待って奴だろ。元の世界ならあったとしても、この世界でここまで過剰なのは無かったぞ。
アネッテが個人的にやってるのか、インゲマルの指示なのか知らんが。
少ししてドアがノックされ、開けるとアネッテがトレーに、何やら載せて持参してきたようだ。
「お食事です。簡単なものですがお口に合えば」
「気にしなくていい」
室内にはベッドが二つ。テーブルがひとつに椅子が四脚。それ以外はコートハンガーがあるだけでシンプルだ。
テーブルに食事を置くと「どうぞお召し上がりください」とか言ってるし。
椅子に腰を下ろすと少し離れた場所に立ってる。なんか食いづらいぞ。
「あのさ」
「あ、お気になさらず」
「いや、あのね」
「給仕として控えていますので」
面倒だ。
とりあえず飯を済ませるが、クリッカの分も用意されてるんだよ。料理を見て「ぴぃ」とか言った。
バレたかもしれん。アネッテを見ると驚いた感じでクリッカを見てるし。
「あ、あの」
「聞かなかったことにしろ」
「え」
「口外無用だ」
あまり料理に関心を示さないクリッカだが、ひとつ気になるのか「ぴぃぴぃ」と言って催促するし。
已む無く食わせると、にこにこしてるな。
「と、トールさ、ま」
「もう分かったと思うが」
ハーピーだと言うと青ざめて壁に張り付く有様だ。受付嬢程度だと化け物を怖がるからな。何度も見た光景だし。ギルド長は肝が座った奴が多いから、まず怖がることは無いのだが。
怖がる必要はなく使役してると言うと。
「す、スーペラティブですから、そう、ですよね」
「聞いてないのか?」
「な、何を、ですか」
「国が化け物部隊を創設しようとしてることを」
初耳らしい。ギルド長なら知ってるはずだと言うと、確認してみるそうだ。
「クラウフェルト公国やボーグプラヴィット帝国、それにハルストカ王国は知ってるか?」
「あの、存じません」
「そうか。まあそれはいいんだが、その三国も化け物を使役してる」
驚いてるなあ。
化け物を兵士として使えば人的損失を減らせる。コストも人と比べると圧倒的に安く済む。失っても困らない存在だし、どこにでも湧いてくる。都合の良い兵力として考える国は多いと説明する。
「知りませんでした」
少しは落ち着いたようで「いきなり襲ったりはしないのですよね」なんて言ってるな。そこは全く問題無いと太鼓判を押しておく。
食事を済ませると片付けるようで「食器を下げますね」と言って、トレーを持って部屋を出て行った。
「ぴぃ」
「なんだ?」
腰に下げたバッグを見て「ぴぃぴぃ」と鳴くから、どうやら魔石を食いたいようだな。三個程取り出し食べさせておく。
少ししてドアがノックされ、どうぞ、と入室を促すとアネッテだ。
「あの」
「何?」
「不要かもしれませんが」
もじもじして、胸元に手をやりシャツを止める紐を弄ってる。
要らんぞ。クリッカが参戦してきかねないし。
「要らんぞ」
「そう、ですよね」
俯いて尚も「一回で良いので」なんて言ってるし。抱いて欲しいってことだよなあ。
結局服を脱いで裸体を晒してるし、見ていると「お好みではないかもしれませんが」とか言ってる。お好みも何もその気は無かったのだが、やはりクリッカも当てられて発情してるんだよ。
この世界の女性は実に股間が緩い。いや、スーペラティブの称号に惹かれるのは理解してる。最強であれば欲するのが、この世界の女性だもんなあ。
「あの、その、ハルピヤの様子が」
「性欲には敏感に反応するからな」
一緒でも良ければ相手をする、と言うと悩んでるようだが「お願いします」となった。性欲の前に恐怖心を押し殺したようだ。
それにしても少し奥ゆかしさを感じさせる女性だな。マルギットやテレーサとは違う。剥き出しの性欲で迫るもんなあ、あの二人は。
セラフィマに近いかもしれん。
結局、ベッドに押し倒し食ってしまった。当然だがクリッカも混ざってるわけで。
こんなことを何度繰り返すのだろうか。
事後、服を着て「明朝には発つのですよね」と。
「長旅になりませんか?」
「いや」
「あの、でも馬車とか」
「空を飛んで行くからな」
理解不能なようだ。
「クリッカに運んでもらう」
「え」
「そこらのハルピヤとは違うんだよ、性能が」
俺が卵から孵して育てたからか、異様な能力を得たようだと説明する。
感心しているようだが「国内最高峰の冒険者だからなのでしょう」だそうだ。
就寝すると言うと退出し家に帰るようで。
「あの、戻られたらまた」
帰りも抱くことになるのか。期待して待っているだろうからなあ。モテ過ぎるってのも難儀なことだ。
部屋から出て行くアネッテだが「必ず戻ってきてください」だそうだ。
威力偵察ってのは武力行使をするわけだし、一般的な冒険者だと命を落としかねない。だから心配してるのだろう。
「問題無い」
「ですが」
「所詮、相手は人だ」
町ひとつ消し去る力はある、なんて言う気は無いが、必ず戻るから心配無用としておいた。
「では、お帰りをお待ちしています」
そう言って部屋をあとにするアネッテだ。
朝まで一緒とか言い出さずに済んだのは、良かったと言えばいいのか、残念と言えばいいのか。クリッカが居るからかもしれん。性欲が治まって冷静になったら、やはり怖いってことだろう。
やっと落ち着いて寝られるようになり、ベッドに体を横たえるとクリッカも、一緒のベッドに横になり暫し就寝となった。
夜が明けると相変わらずのフェザーがちくちく。
「ぴぃ」
「起きるか」
クリッカには外套を纏わせフロントに行き、部屋の鍵を返却するが「朝食のご用意ができてます」と言われ、食堂へと案内され朝飯も済ませることに。
宿泊客は俺以外に居ないようだ。まあ厳戒態勢だからだろうけど。
スタッフに聞いてみると「商売あがったりですが、仕方ないですね」だそうで。
食事を済ませ宿をあとにする際、お代は頂いていますと言われ見送られた。
外に出るとアネッテが居る。
「見送り?」
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