Sid.144 国境の町で情報収集
気さくな雰囲気の門衛が多いファーンクヴィストだが、たぶんメリカント国境に近い町なのだろう。ゆえに表情も険しくなるのだと勝手に推測したが。
近付くと「町は厳戒態勢中だから入れない」と言って、通せんぼされた。
「ベルマンから来たんだが」
「ベルマン? ああ、どこぞの田舎町のことか」
「今から他の町は遠いから、ここで一泊したいんだが」
「厳戒態勢中だと言ったぞ」
この町の名称は知らない。誰が領主かも勿論知らない。
タグを見せたら通してくれるだろうか。メリカントに加勢しに行くと言えば、通すかもしれんが。
とりあえず身分を示しておこう。タグを見せると「偽造してないだろうな」なんて言われた。
「冒険者ギルドなら偽造かどうか判別できるだろ」
渋い面を見せ、まじまじと見ているようだが「本物かよ」となった。
「スーペラティブなんて存在したのか」
この町には英傑の噂は届いてないのか。
暴虐の魔女が倒されたことすら。
「で、何しに来た?」
「メリカントに加勢」
暫し無言になる門衛だが「気でも触れたか?」と言われてしまう。
「まあ、勝手に加勢しに行くなら止めないが」
死んでも知らんし責任は負わない。当然だが領主にしても知らん顔だそうだ。
ただ、帝国側の人間にファーンクヴィストの冒険者、と知られないようにと釘を刺された。
この国は現時点で加勢しない方針らしい。可能であれば戦争以外の方法も模索しているとか。現在ガリカ帝国に密使を送り、戦争回避に向けて動いているらしい。
「詳しいことは知らんけどな」
ガリカ帝国側は条件として国土の割譲を要求している。それを飲めば戦争は回避できるらしい。ただし、国土の半分を要求されているそうだ。国民の半数もガリカ帝国に組み入れられる。国力が半減することで弱小国になる可能性も。
そうなると勢い約束を反故にされ、攻め込まれ全土を奪われる可能性が高い。
まあ、強欲な奴らの要求なんて、そんなものだ。
話し合いが通じる相手じゃないだろ。結局は根こそぎ奪う。あとには何も残らん。
「スーペラティブがどこまで通用するか知らんが、敵国の戦力を削げるならな」
せいぜい死んで来い、だそうだ。
死なないけどな。人同士の争い程度では。
「じゃあ通っていいぞ」
絶対にガリカ帝国に身元を知られるな、と念を押された。
それにしても門衛程度でも、相当な情報を持っているのか。なんか知らんが、ガセってことは無いだろうな?
町に入ると活気はないな。他の町との往来も止めているからか、賑わいも無く静けさが漂う。
とりあえず冒険者ギルドに行けば、多少の情報も得られそうだし。ギルド長なら貴族に次いで情報を持っているだろう。
探すと頑丈な扉のある石造りの建物があり、親切なことに看板も出ている。「
鉄製の重そうな扉を開け中に入ると、正面に木製のボードがあり「
普段はこの町に来る冒険者を歓迎しているのだろうな。
右側の奥にカウンターがあり、受付嬢らしき存在がひとり佇んでる。暇そうだなあ。
左側にはラウンジがあるも誰も居ない。今は冒険者の活動すら制限されてるのか。
カウンターに向かうと受付嬢と目が合う。髪型だが手が込んでるな。編み込みアップスタイルって奴か。華やいで見えるな。相変わらず、この世界の女性は美形が多い。
カウンターに立つと「この辺では見ない顔ですね」と。
「ベルマンから来たんだが」
「今は厳戒態勢なので依頼も限られていますよ」
「いや、依頼はどうでもいいんだが」
「では旅行ですか? この時期に」
それも違う。
「メリカントに加勢しに来た」
ここでも暫し無言。
「あの、意味が分かりません」
「メリカントに加勢」
「えっとですねえ、寝言は」
「寝言じゃなくて」
タグを見せると「偽造ですか? 犯罪ですよ」じゃないっての。どこに行っても疑われるのは已む無しだが、この町には英傑の噂が伝わってない。
それはそれで面倒ではあるな。
クリッカのタグにも気付いたようで「そっちはアヴァンシエラですか。強制労働になりますけど」と言われてしまう。
「真贋は調べれば分かるだろ」
「では調べますので渡してください」
タグを渡すとカウンター後方の扉を開け、中へ入ってしまった。
そう言えばギガントソードは置いて来たんだった。クリッカの負担を減らそうと思って、代わりにダマスカス鋼の剣を持参してるわけで。剣を振るう相手は居ないし邪魔なだけだし。ギガントソードを持たせれば、すぐに理解するのだろうけど。
暫くして扉が開いて出てきたが、やはり後ろに控える人物が居る。
「あの、申し訳ありませんでした」
頭を下げる受付嬢が居る。
後ろに控えていた男性が前に出てきて「まさかスーペラティブの冒険者とは」なんて言ってるし。
男性から自己紹介される。
「ブローファン冒険者ギルド長のインゲマルです。お目に掛かれて光栄です」
三十代前半くらいだろうか、少々腰が低く細面の男性だな。
「それで、話は伺いましたが本気ですか?」
「正確には加勢と言うより威力偵察」
「なるほど。帝国勢力の把握ですか」
「それで事前に情報を得たくて来たんだが」
インゲマルによればメリカントからは、幾度も支援要請が来ているそうだ。しかし王都にそれを伝えても一向に返事がない。それもそのはずで、現在王都は揉めている最中だからな。ゆえに何も決まらず支援すらできない。兵士たちの中には支援すべきとして、部隊単位で準備は済ませているそうだが。冒険者もまた支援に協力的らしい。
ここの領主も支援に乗り気ではあるが、命令が下らないことには動けない。
「このままだとメリカントは落ちます」
焦るばかりで何も進展せず。
「あなたが威力偵察を行うのであれば、我々にそれを止める気はありません」
むしろ頼みたいと。敵戦力の分析は必須。進軍ルートや部隊の規模など含め、情報は喉から手が出る程欲しいと。
メリカントが落ちれば、この町、ブローファンが最前線になるからだ。
「戦争しない代わりに国土の半分を寄越せと聞いたが」
「情報が錯綜していて正確なことは不明です」
となると門衛の情報は当てにならんな。
まあ何にしても有益な情報は得られないか。行けば分かることだが、やはり帝都を吹っ飛ばした方がいいかもしれん。
この国に進軍して来られると面倒だし。
「ただ、戦争回避を望めば見返りの要求はあるでしょう」
それが国土の割譲かもしれないと。そんなことをすれば、ファーンクヴィストは弱体化するだけだ。要求なんぞ飲めるはずもないな。
「この国の冒険者と悟られずに行動できるのであれば」
ぜひ協力して欲しいそうだ。スーペラティブの冒険者なんて、見たことも聞いたことも無い。実力は不明なれど圧倒的なポテンシャルを持つ、そう判断するらしい。
英傑ってのを知らないなら、何も宣伝する必要はないな。肩書きひとつで信頼されるなら、それに越したことはない。
「じゃあ見て来るが、今夜はここで休みたい。宿はあるか?」
「こちらでご用意します」
暫し待ってくれれば受付嬢を使いに出し、宿をひと部屋押さえて来るそうだ。
勿論、宿代はギルド負担でとなった。
「戻られたら報告をお願いします」
「分かった。得られた情報は報告する」
帝都を吹っ飛ばす、で決定だな。暴君が居なくなれば少しは大人しくなるだろう。
前線の兵士を殺すのは忍びないし。彼らは命令に従うだけだからな。無駄に命を散らす必要すら無い存在だ。
報告内容としては暴虐の魔女が襲ってきた、と言っておこう。俺が、となると面倒だし。
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