Sid.142 新人には念を押しておく

 新たに加わったユリアと言う名の両手剣を使う剣士。

 ギルド長にも明かしていない秘密を明かす必要がある。何しろ同じ屋敷内に住むことになったのだから。

 町に戻り正式に冒険者タグを新たに発行してもらう。


「試験は合格したのですね」


 グレーゲルがカウンターに居て、早々に声を掛けてくるわけで。


「どこで見つけたんだ?」

「力のある冒険者は把握していますので」


 アニタがタグを用意し手渡してくる。


「トールさんから渡してください」


 まあいつものことだが、なぜか俺から手渡すことになってるし。

 受け取ったタグをユリアに渡すと「これで正式なメンバーなんですね。ずっと憧れてました」だそうで。嬉しそうにタグを見て微笑んでる。

 そう言えば年齢って幾つなんだ? 見た目は幼い感じだし、話し方も幼さを感じさせるし。


「一応確認しておきたいんだが、年齢は?」

「あ、はい。十八です」


 十八ってことはクリスタと同い年。精神年齢はクリスタが圧倒してるな。見た目は大差ないようだが。

 俺の背中にある剣を見ているようだ。


「その、背負ってる剣? ですけど」

「興味あるのか?」

「使えるんですよね?」

「まあ、それなりに」


 持たせて欲しいとか言い出した。持ち上げることすら困難を極めると思うが。ミリヤムですら引き摺るのが精一杯だからな。とは言え、火事場のバカ力って奴だろう、ぶん投げたこともある。俺の窮地を救ってくれたわけで。

 そうなるとユリアもまた持ち上げるくらいは、と思い外して床に転がす。


「試してみるといい」

「はい!」

「さすがに無理じゃない?」

「尋常じゃない重さだから」


 テレーサとミリヤムが少し心配そうに見てる。ソーニャは「何事も経験」なんて言ってるし。

 ギガントソードのグリップを両手で掴み、ガニ股で踏ん張ると勢い持ち上げようとするが、さすがに腕がぷるぷる言って歯を食いしばってるし。


「さすがに無理ですね」

「トールは片手で振り回すけど」

「体格に差があり過ぎるでしょ」


 見ていると腰を落としグリップ部分を持ち上げ、呻き声を上げながら構えようとするも「む、無理、でした!」と言って下ろした。

 ただ、持ち上げることができたからな。ミリヤムくらいの力はあるようだ。

 日頃から両手剣を使うから腕力はあるのだろう。


「まあ、持ち上げただけでも大したものだ」


 額から汗が噴き出したようで、腕で拭うと俺に向かって「英傑様って」と、やはり驚愕するようだ。

 床のギガントソードを見て「同じことはできませんが、両手剣を片手で使えるようにしたいです」とか言い出すし。両手剣は両手で使うものだろ。無理して片手で振り回す必要はない。

 だが、当人は「将来は二刀流です」って、無茶なと思いもしないでもない。


「その長い奴をか?」

「はい!」


 まあ頑張って、としか言えんな。

 できるものなのかどうかは知らん。同じ長さの長剣だと振り回したら、絡みそうだし。ダガーくらい短ければともかく、長いと確実に邪魔になりそうだ。

 まあ試して駄目なら他を考えるだろうが。


「一本は長い剣、一本は短い方が扱いやすいと思うけどな」

「そうなんですか?」

「邪魔になるでしょ。ぶつかると思うし」

「じゃあ片方は短剣の方がいいんですか?」


 たぶん。二刀流で使う刀は小太刀と長太刀だったと思う。長太刀は主に攻撃。小太刀は牽制や防御に。ダガーでの戦闘も似たようなことをした。短剣ってことでグリップを左右で変えて、より役割を明確にしていたが。


「とりあえず試してみればいい」

「はい!」


 さて、メンバーとして登録が済むと屋敷に戻るのだが、他の女性たちの視線もあるし、さっさと言ってしまえってことだろう。

 屋敷の門を前に立ち止まる。


「ここ、ですか?」

「そう」


 呆気に取られているようだ。身分差の大きな世界だし。こんな屋敷に住んでいるとなれば、そりゃ誰もが驚くよな。

 じゃなくて、言っておかないと。


「ひとつ、絶対に口外しないで欲しいことがある」

「なんですか?」

「入れば分かるんだが、先に約束して欲しい」

「英傑様が仰るんでしたら」


 まだ軽い。


「もし口外すれば町に居られなくなる。それどころか国にも」

「あの、それって」

「そのくらいの重要事項だ」


 絶対に中で見たものを口外しない。万が一にも漏らさないと確約させる。

 真剣に向き合うとユリアもまた、真剣な表情を見せ「喋ったら死ね、ってことですね」とか言ってるし。まあ切腹ものと理解してくれるなら。


「分かりました。絶対に口にはしません!」


 大丈夫だろうと言うことで門を開け、中へ入るのだが玄関を前に、驚いて声を出さないようにと言っておく。

 ドアノブに手を掛けると「あの、中から妙な音がします」とか言ってる。耳が良すぎるだろ。


「他に二人居るんですか?」

「いや」

「えっと、それだと何かペットでも?」

「いや」


 ドアを開けると、どうやら目が合ったようだ。玄関先に出迎えに来ていたようだし。

 一瞬で後退り両手剣を構えようとして、踏み止まったようだ。

 ユリアの動きを見て警戒したのか、メイもまた魔法を放ちそうになったが。


「あの、なんでモンスターが」

「見た目はともかく、中身は人だ」

「え」


 中に入るとメイに「先に言ってよぉ」と言い「間違えて攻撃しちゃうところだった」と文句を言われた。

 ユリアにも「思わず身構えちゃいました」と。お披露目する前に説明が欲しかったとも。


「トール、こういうのは先に言わないと」

「ここで戦闘とか洒落にならないですよ」

「なんか面白がってますよね」


 それとずっと一緒に居たクリッカのことも、話さないといけないわけで。


「もうひとつ」

「なんですか?」

「クリッカも」


 暫し無言になったが「どうりで、なんか足音がおかしいと思ったんです」だそうだ。でも、周りの誰も何も言わないから、足が悪いのか何か特殊な履物を、と勝手に納得していたらしい。

 リビングに全員揃って入り、クリッカとメイのことを説明する。


「モンスターも従えるんですね」

「セラフィマも同じことができる」

「あ、えっと、メイさんは違うんでしたっけ。え、あの。元聖女様も?」


 グレーゲルがどこまで説明したのかは知らん。が、セラフィマのことは聞かされていたようだ。元聖女でボーグプラヴィット帝国から逃げて来た、そして俺が保護したというところまでは。

 帝国は既に国内が混乱していて、この国に手は及ばないということも。


 まじまじとクリッカとメイを見て「可愛らしいのと綺麗な、えっと」と言って、モンスターと言いたいのか、人と言いたいのか。言葉に詰まる感じだな。

 中身が人であるメイに化け物扱いは酷だが、クリッカは純粋に化け物の卵から生まれてる。ただ見た目はな。揃って見事に化け物との融合。

 接し方が難しいかもしれん。怖がらないのは良いのだが。


「これ、あの、絶対口にできないです」

「まあそう言うことだ」

「町の人が知ったら」

「大混乱に陥るだろうな」


 一斉に町から逃げ出すだろうし、討伐しろとなるだろうし、俺が迎え入れたともなれば反逆者だとかな。尊敬から排除しろとなるのが目に見えてる。化け物に与する裏切り者扱いだろうよ。

 一般人が化け物に馴染むことは難しいだろう。

 ハルストカでもルドミラの母親はクリッカを怖がった。あの国だって化け物を使役してるのにだ。

 全く馴染みが無い、この国だとパニックを起こすぞ。


「少なくとも貴族が自慢げに披露するまではな」

「貴族が披露?」

「国を挙げてモンスターの使役に挑戦中だ」


 知らなかったようで「でしたら、クリッカさんもメイさんも」なんて言ってるが、今はまだ時期尚早って奴だ。

 いずれの話しってことで、屋敷内やフィールド上はともかく、他人の耳に一切入らないようにと念を押しておく。


「英傑様って」

「ひとつ言っておくが、英傑様ってのはやめて欲しい」


 トール、と呼ぶようにと言っておいた。

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