Sid.141 加入予定の新人の実力
新人のテストは俺とソーニャとクリスタで充分、と思ったのだが結局全員ぞろぞろと付いて来た。腕前拝見ってことで興味があるのだろう。
まずは個人の技量を見るために、単独で化け物の相手をしてもらう。
近場の林に入ると化け物がそこかしこに居る。
「気配は分かるのか?」
「気配は分かりませんが、足音とかで何となく分かります」
獣と化け物では足音が微妙に違うと感じるそうだ。それと風向き次第では臭いで判別できるとも。
どうやら嗅覚と聴覚に優れるようだな。視界の遮られる森や林の中では、頼りになるのが聴覚や嗅覚だ。これは天性のものもありそうだし、冒険者に向いてそうな資質の持ち主と言えるか。
暫し林の中を分け入ると向かってくる化け物が複数。危険察知に引っ掛かる奴ではないな。
ユリアから離れひとりにして様子を窺うことに。
警戒しているようで両手剣を構え周囲を窺っている。林に入るまでの楽し気な雰囲気から真剣な表情を見せるユリアだ。
一気に向かってくる化け物の姿が見えた瞬間、駆け出して両手剣を力いっぱい振ると、化け物が吹き飛び返す刀で横から来る化け物を薙ぐ。
二匹居た犬の化け物を楽に処理できたようだ。
こっちを見て笑顔を見せる。だが油断は禁物だ。近付く化け物が三匹居るからな。
下草を踏む音で近付く化け物の位置が分かる。かなりの勢いで迫ってくるが、構えを取り直すと木の陰から飛び出す化け物を一閃。剣の勢いを殺さず向かってくる二匹目も薙ぎ、最後の奴は飛び掛かる勢いを利用し、そのまま突き刺し倒し切った。
ソーニャが使うブロードソードより長く重い剣を使う。にも拘らず体の動きは見事だな。
ソーニャに比較して劣らない。単騎で充分な能力を持っていそうだ。
「じゃあ次は連携を見たい」
「はい。あ、今のはどうでしたか?」
「採点結果はあとで」
褒めてもいいのだが調子に乗られても困る。試験結果は全て済んでからだ。
前衛としてユリア、後衛にクリスタとミリヤム、それと回復役でテレーサ。まずは四人での連携を見ることに。
「ミリヤムとクリスタは囮だから、迂闊に攻撃魔法を使わないこと」
「倒しちゃ駄目なんですか?」
「牽制するくらいで留めておいて」
後衛職に近付かせない、守れるかどうかを見たいからな。抜かれた際の対処も見ておきたい。
だから手助けはしない。
陣形を組み林の中を進む四人だ。少し離れて四人以外がぞろぞろ。
「来てますよ」
「はい。え? 分かるんですか?」
「見えるので」
クリスタには目を飛ばす魔法があるんだよな。どうやら攻撃魔法を使わない、ってことで目を飛ばして周囲の様子を見ているようだ。
慎重に歩みを進めると、あれだ、実に都合のいい奴が現れてくれた。
「オフィオタウルスです。近付いて来てます。二匹」
「足音はしますが、種類と数も分かるんですね」
「見えるので」
クリスタの能力に感心してるようだが、ちゃんと見てないと横から来るぞ。
右側から飛び出すオフィオタウルスが一匹、そして左側からも同時に飛び出すオフィオタウルスが居る。距離的に後衛に近いのは左側。
どう対処するのか見ているとセオリー通りだな。近い奴を弾き飛ばし体を回転させ、右側の奴も弾き飛ばすと突き殺す。勢い左側の弾いた奴も薙いで倒した。
「動きが凄いですね」
「そうですか?」
「ソーニャに負けてません」
「えへへ、そう言ってもらえると嬉しいです」
ひとつ欠点があるとすれば、戦闘終了後に隙ができることか。ソーニャは戦闘終了後も暫し警戒を怠らない。周囲を確認して安全と判断してから、笑顔を見せる感じだからな。
ほれ来てるぞ。
クリスタも見てないからな。ミリヤムも警戒を解いてるし、テレーサも会話に加わって「凄いよね」なんて言ってる。
「あ!」
呑気に話をしてるから襲い掛かられた。
クリスタに襲い掛かる化け物が居て、慌ててガードするユリアだが、怪我はしていないようで何より。視界に入ってから行動に移すまでの時間が短い。反応が滅茶苦茶いいようだ。
すぐに倒すと「大丈夫でしたか?」と気遣う様子も。
ちょっと危なげな感じもあるが、中級であることを考えれば申し分ないな。
「まあ合格だ」
「え、あ、はい!」
一緒に行動してソーニャの動きを見れば、それも勉強になるだろうし。
警戒を怠らない。それを学べば文句なしだな。すぐにアヴァンシエラに昇格させられるかもしれん。
なかなかの逸材を紹介してくれたものだ。ミリヤムといいユリアといい、どこで見つけてくるのやら。
「剣を貸して」
「え」
ミリヤムが剣の重さを知りたいようだ。予備を持つのはミリヤムだからな。
手渡すと「これなら五本は持てる」とか言ってる。かなりの重量があるようだが、そこは力自慢のミリヤムだからな。
とりあえずテストは終了。
林を出るのだがユリアが「英傑様の戦闘を見てみたいです」なんて言ってる。
この辺に出てくる化け物なんて、剣も魔法も不要なんだが。
「トールは別格だから」
「殴って終わる」
「参考にならないと思いますよ」
俺を見るユリアだが興味があるようで「ますます見てみたいです」なんて言い出すから、適当に探し出して見せることに。
「見れば驚くと思う」
「滅茶苦茶だもん」
少し進めば化け物が居るわけで。こっちに向かってくるからダッシュして、六匹居た化け物を片っ端から殴り倒す。
振り向くと口を開けて呆けるユリアが居るようだ。
「だから言ったでしょ」
「これも見慣れた光景だよね」
「す、凄過ぎて動きを目で追えませんでした」
まるで飛ぶように敵に向かい、瞬時に殴り倒すと化け物が爆ぜる。
全身に魔法をかけたかのようで、向かった先で化け物が破裂した、としか見えなかったようだ。
「これが英傑様の力……」
「並みのモンスターなんて魔法も剣も要らないのがトール」
「今後一緒に行動すれば、もっと凄いものが見られるから」
「加減が無いですけどね」
最後の奴はクリスタか。加減してるんだよ、これでも。本気の魔法を見てるだろうに。万を超える化け物を瞬時に葬ってるのだから。
本気を出せば町ひとつ消えるからな。
町へ戻るのだが隣に並び「暴虐の魔女も倒したんですよね。なんか凄いです」と、目をキラキラさせて言ってくる。
背は高くない。百六十五くらいか。ソーニャと比較して小柄だが、装備の重さを感じさせない動きと、両手剣を自在に操る腕は大したものだな。
「いろいろ身に着けているが、邪魔にならないのか?」
「無い方がもっと早く動けますが、怪我をしたら元も子もないので」
「今まで誰かと組んでやってたのか?」
「はい! 中堅パーティーで前衛を」
そうか。
「そのパーティーから抜けていいのか?」
「解散してます」
「なんで」
「そりが合わないって言うか、魔法使いが弱過ぎて」
数発放つとすぐへたり込んでしまい、結果前衛に大きな負担が掛かると。
ルドミラみたいなものか。
「前衛が二人、後衛が三人でしたけど」
化け物の数が多くなると無理が来て、結果自分ひとりで対処することが多かった。その状態だと長くは続けられない。それでも中堅レベルで活躍できていたのは、ユリアが奮闘した結果だと言う。
確かにあの動きは実戦を何度も経て得たものだろう。
「やめようかなって思ってたら、丁度ギルド長からお話が来たんです」
グレーゲルは各パーティーの状況まで把握してるのか。細かいところまでよく見てるな。
「二つ返事で受けました」
だよなあ。英傑のパーティーなんて普通は入れない、そう思うだろうし。凄腕だらけと思うだろうからな。
まあ実際にはポンコツも居るし、凄いのも居るけどな。
俺を見て「まだまだ他の方には遠く及びませんが、力になれるように努力します!」と言って、頭を下げるユリアが居る。
「まあ、よろしく頼むよ」
「はい! 頑張ります」
まあ元気なのはいいことだ。頼らせてもらおう。
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