Sid.139 ホテルの主に相談する

 今後のことを話し合い翌日、ダンサンデトラーナへ向かった。

 まずは話をして受け入れてくれるかどうか、意思確認をしたいからな。急に連れて行って科学を教えて、なんて言っても迷惑でしか無かろう。

 クリッカに運んでもらい小一時間程度で着く。


 アデラのホテルに入ると、カウンター越しにカーリンが「あ、抱きに来てくれたの?」とか言ってるし。俺が来ると抱いてもらえると思ってるのか。最早パブロフの犬だな。ふさふさとした尻尾を振ってるのが見える気がする。


「じゃなくてアデラに相談したいことがある」

「工房に居ると思うけど」


 勝手知ったるってことで工房に向かうと、カーリンも付いて来るんだよ。


「相談って?」

「家庭教師を頼みたい」

「え」


 工房の扉をノックすると「勝手にどうぞ」と聞こえ、ドアを開けるとアデラが、いや、なんて言うか研究者だよなあ。白衣にヘッドルーペを装着してるってことは、何かしら精密加工でもしていたのだろう。そんなものも作っていたんだな。

 俺に気付くと「何を作ればよいのですか?」なんて言ってる。


「いや、今回は家庭教師を」

「家庭教師?」


 ヘッドルーペを外し「トールさんにですか?」なんて言ってるが、ガビィとルドミラに科学の基礎をと言うと。


「二日か三日に一時間程度でしたら」

「充分だ」

「期間は?」

「三か月くらいか」


 二日か三日に一時間だと暇を持て余すかもしれん。小間使いとして扱き使っていいとも言っておく。

 ホテル業務なんてできないだろうし、御用聞きすら危ういけどな。


「トールさんは週に一回来てくださるのですよね」

「善処する」

「来てくださるのですよね?」

「あ、えっと、可能な限り」


 語気を強めるアデラがちょっとだけ怖い。

 なんか尻に敷こうとしてるのか、まあ、これまで散々世話してもらってるし。なんとか時間を設けて週一ペースで来るしか無いか。

 ああでも、ガリカ帝国に行くとなると、二週間程度は来れないかもしれん。


「えっとだな」


 つかつかと歩み寄るアデラが居て、柔い胸を押し付けられ唇を奪われると「トールさん、また面倒なことをしようとしてますね」と言われる。

 心を読まれたな。


「トールさんの考えなので余計なことは言いませんが」


 人が相手であれば死ぬこともないだろうと。


「まずは用件を済ませてからで構いません。週一回は抱いてくださいね」

「分かった」

「では二人を受け入れるのでお連れください」


 話が早い。心を読んでしまえば説明もせずに済む。

 何をして欲しいかなんて即座に理解してもらえるし。アデラはあれだ、他の女性たちとは別格だな。


「今日はこのまま戻るのですか?」

「時間が惜しい」

「二時間」

「え」


 俺の腕を掴み「カーリン。ちゃんと受付業務をしなさい」と言って、ずるずる引き摺られるとアデラの部屋に連れ込まれた。

 するすると服を脱ぐアデラだが「トールさん、そのままでするのですか?」って、二時間で済ませろってことか。なんか凄く積極的なのは気のせい?

 服を脱ぐとベッドに押し倒され「本来ならば新婚なのに、方々に出歩いてしまうのですから」と。


「分かりますよね?」


 だよなあ。重婚なんて認められない世界から来ていれば、結婚して他所で女を抱きまくって、なんてのは即座に離婚事由になる。だが、この世界は重婚は合法。だからやむを得ずだが、居ないのは我慢するが来たら抱けってことだ。


「新婚旅行も?」

「クリッカさんが居れば国内外に行けますね」


 まあ結婚後のイベントもってことか。


「なあ、クリッカが絡んでくるんだが」

「構いません」


 アデラが発情するとつられてクリッカもなんだが。

 結局きっちり二時間、ひとりと一羽を相手にしてしまった。

 服を着て「いつ連れてくるのですか?」と聞かれ明後日には、と言うと「では明後日も楽しみにお待ちしていますね」だそうだ。


「一泊して行けばよいのです」

「そうなんだが」

「そのくらいは問題無いはずです」


 断れん。

 一泊ってことはカーリンやドリスの相手も、ってことになりそうだ。

 マデレイネが悔しがりそうだが、黙っていれば分からんか。


「マデレイネも相手してあげると良いですよ」


 時々ホテルに顔を出して「今日は来てませんか?」なんて聞いて来るそうだ。

 期待して待っているのだから、この町に来た際には相手をしてあげて、だって。

 部屋を出ると「ではお待ちしています」と言って、工房に向かうアデラだ。すっきりした表情をしていたな。かなり溜め込んでいたのだろうか、この世界に染まったようで見事に性豪。


 ロビーに出るとカーリンから「あたしも相手して欲しかったです」とか言ってるし。


「明後日」

「来るんですか?」

「ガビィとルドミラを連れてくるからな」

「お泊まり?」


 一泊の予定だから期待して待ってろ、と言っておいた。

 ホテルを出ると一緒に建物の外に出るカーリンだ。少し名残惜しそうだが「期待して待ってます」と言って、笑顔で手を振って見送られた。


「ぴぃ」

「なんだ?」


 にこにこしてるが、何が言いたいのか分からん。

 門を抜ける際にいつもの門衛が「また来るのか?」なんて聞いてくるから、明後日来ると言うと「いつも忙しないな」だそうだ。


「ベルマンからだろ?」

「そうだな」

「よく短時間で移動できるよな」

「馬を使うより俺の方が速いからな」


 もはや人間じゃない、なんて言ってるが「それでこそ、だよな」と勝手に納得しているようだ。

 まだクリッカのことは教えていない。気付いていそうだけどな。堂々と口外できるようになれば、やはりそうだったかってなりそうな。

 門衛に見送られ街道を少し進むと、クリッカに掴まり空へ舞い上がる。


 帰りも行きと同様、小一時間程度でベルマンに着き、屋敷に足を運ぶと庭先で魔法の練習か。

 クリスタに指導されるルドミラとガビィが居る。

 フェンス越しに見ていると実戦形式なのか、クリスタに向かって野球ボール大のフランマを放つガビィだ。だが速度が致命的に遅い。クリスタがカウンターでフランマを放つと相殺されてるし。

 フェンスを飛び越えクリッカと一緒に庭に入ると、俺に向かってフランマを放ってきた。即座に飛び立つクリッカだ。


「あ」


 放ったあとに俺と気付いたようだが、手加減されたフランマなら手で薙ぎ払える。

 飛び立ったクリッカが下りてきて、俺の隣に並ぶとクリスタが膨れ気味だ。


「トールさん。ひと声掛けてください」

「トール様。戻って来たのですね」

「反応がいいな。さすがはアヴァンシエラだ」

「トールさんには全然通じませんけど」


 相変わらずフランマ程度では、驚かすことすらできないと残念がってるな。


「咄嗟に攻撃できるなら、それで良しだ」


 ルドミラは即応できないし、ガビィに至っては突っ立ってるだけだし。化け物に急襲されたら死ぬぞ。二人とも。


「丁度いい。ガビィとルドミラは旅の準備を」

「旅って、あのホテルですか?」

「三か月間みっちり学んで来て欲しい」


 魔法の指導を切り上げ身支度をさせる。

 屋敷に入るとメイが掃除をしているようで。下半身がコンパクトなら、もっと小回りが利きそうだが室内では狭そうだ。


「あ、トール。こっちの言葉を教えて」

「少し待っててくれ」

「誰とも話ができないから、なんか居心地悪いんだよね」


 現状、身振り手振りだけで言葉のコミュニケーションが取れない。

 いろいろ話をしたいのだろう。女子だし。

 リビングではテレーサとミリヤム、ソーニャが居て寛いでいるようだ。入ると「おかえり」なんて言ってるし。


「明後日ガビィとルドミラを連れて行くからな」

「すぐ帰ってくるの?」

「いや、一泊してくる」

「それで、何人相手するの?」


 テレーサがアホなことを聞いてくるし。アデラ三姉妹とマデレイネだ。四人だな。

 やっと少し余裕ができたと思ったら、今度は俺の下半身が忙しくなりそうだ。

 当分の間、休まる暇がないな。

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