Sid.137 古参メンバーの昇格
ブローエンの町で一泊した際に、結局エリーとヘリアンを抱いてしまった。
事後、全裸でベッドに横たわる二人だが、ここ数日で化け物の数が減ったと。兵士たちから町の周囲に来る化け物が減り、しかも強い相手も減ったことで、対処が楽になったと聞かされたそうで。
依頼も減って暇ができる日もあるとか。
「トールさんですよね」
「みんな言ってますよ。戦闘狂の英傑様が根こそぎ叩いてるからだって」
俺じゃなくてメンバーに任せた結果なんだがな。
仮に俺がやったなら、大森林の化け物を一掃しかねない。
「仲間の奮闘あってのことだ」
「定期的に来てくれると助かるんです」
「そうですよぉ。頻繁に来てください」
「無理だっての」
甘えて俺に抱き着く二人だし。揃っていい感触だなあ。ソーニャやミリヤムのようには鍛えられていない。だから全身どこを触っても柔らかいんだよ。
まあ魔法使いも同様だけどな。ルドミラなんて指がめり込むし。
「でも、時々は来てもらえれば」
「あと冒険者を育てて欲しいです」
やはりそうだよなあ。冒険者の多くは実力不足だ。これはどこの国も同じ。
帝国もハルストカもクラウフェルトだって同じで、ルドミラが第三級として務まったくらいだ。弱過ぎて話にならん。
「それなんだが」
ベルマンで冒険者の養成を行う、と言ったら「この町の冒険者を送ります」だって。
「弱いのに虚勢ばっかり張って、結局大怪我して帰ってくるんです」
「登録してる冒険者、全部送りますから鍛えてくださいね」
スパルタ指導で鍛えて欲しいそうだ。そうすれば死亡率を下げ、怪我で帰ってくることも減る。悲しむ人も減らせるし、兵士は本来の任務に就くこともできる。
「養成を始めたら伝えてください」
「片っ端から送り込みますよ」
「まあ、その時になったらな」
近い内に養成所の開設に至るだろう。準備もしてるようだし。
例のあれを倒しても化け物が居なくなるわけじゃない。常にどこかで発生している以上は、その対策は必要だろうし。
冒険者の底上げは急務なのだろうな。
翌朝、全員で朝食を済ませ馬車に乗り込み、ブローエンをあとにする。
エリーとヘリアンに名残惜しそうに見送られた。
「トール様」
「なんだ?」
「愉しんだんですよね」
自分は愉しめていないから、ベルマンに帰ったら抱き捲ってもらう、だそうだ。
そこはあれだ、信賞必罰で貢献度に応じた扱いだな。ルドミラはソーニャやミリヤム、クリスタに比較したら活躍したとは言い難い。
「トール。あの、欲しいなって」
メイもかよ。まだ後遺症の影響があるのか。いや、好かれたんだよな。
「今回の遠征では頑張ってくれたし」
「ご褒美?」
「それもあるし、俺で良ければな」
「トールがいい」
元の俺じゃなくイケメンだからなあ。顔が元の俺でも良い、なんて女性は皆無だろうに。金も力も無くて冴えない容姿で。誰がそんな奴を相手にするのかって。
今は容姿に恵まれたってのはある。騙してる気もするが、これが現時点での俺だし。
何日か掛けて村を通りベルマンに着く。
門衛が「遠征お疲れさん」なんて言ってるし。ついでに化け物が増えてきてるから「討伐よろしく」だそうだ。
凡そ二十日程度空けていただけで、化け物が跋扈し出すのか。
これもあれか、試練のひとつ、と言えそうな気もする。俺じゃなく、この世界の人々にとっての。
冒険者の底上げは待ったなしってことだな。
馬車を屋敷の敷地内に入れ、メイだけ先に下ろし馬車を返却し、ギルドに顔を出すとアニタとマルギットがな。
「おかえりなさい」
「やっと帰って来たぁ」
今夜は愉しませて、と言うマルギットだが労うべき相手が居るからな。
「後日で」
「だからさあ、美味い棒ルーレットでいいと思うんだよね」
「いいわけないだろ」
「言えばみんな乗り気になると思うのに」
そんな大乱交染みたことはしない。
セラフィマやメイは乗り気にならんだろ。クリスタとテレーサは、その気になるだろうけどな。あとはルドミラも乗っかってきそうだ。
「それよりだ、メンバーの昇格を」
「あ、それでしたら準備できてます」
「できてるの?」
「帰って来たら昇格でしたよね」
すでにタグは用意してあるから、俺から渡すだけだそうだ。
準備がいいなあ。
「ギルド長が預かってますので呼びますね」
そう言ってアニタがギルド長を呼びに行くと、マルギットが「この町からアヴァンシエラが何人も出るんだよ。この町のギルドが優秀ってなるから」だそうで。
今後、この町に多くの冒険者が集まるだろうと。
少ししてグレーゲルとアニタが出てきて「お疲れさまでした。冒険者プレートは用意していますので」と、木箱を幾つか手にして見せて来た。
「それは?」
「アヴァンシエラは特別ですからね」
過剰な感じもしないでもない。
「俺がスーペラティブになった時は」
「あ、それなのですが」
事前に準備できず、だったことで直接タグの手渡しになったそうだ。
本来は、こうして木箱に収まった状態で渡すらしい。アヴァンシエラのみの特別仕様だそうで。その上ともなると伝説レベル。だから何も考えられていなかった。
「そもそもスーペラティブなんて、今まで一度も発行されていませんし」
まあそれもそうか。アヴァンシエラですら居なかったからな。
とりあえず木箱を俺から渡すように、となった。木箱には各々名前が刻まれている。
「じゃあまずはソーニャ」
「あ、はい」
「おめでとう。アヴァンシエラ、トレイエクラスだ」
今後も精進し更に上を目指して欲しい、と言っておいた。
恭しく受け取り感慨深い表情で見てるな。
次いでクリスタ。そしてテレーサ。三人とも実に嬉しそうだ。やっと俺に少し近付けたと喜んでいる。
「それとですね」
グレーゲルから、もうひとつ木箱を渡された。
箱を見ると「Erfaren Scararius」と記載がある。どうやら一般的なスカラリウスではなく、経験豊富な運搬賦役ってことで昇格したのか。
「運搬賦役協会がありましてね」
話をしたら昇格させるとなったらしい。
ほぼ前例は無いが、英傑と共に行動できる存在であれば、見合うだけの称号は必須と考えたようで。
「それじゃあ、ミリヤム」
「はい」
「上級レベル昇格おめでとう」
なんか泣きそうだな。
「嬉しいのか?」
「頑張ってきた甲斐があったから」
運搬賦役なんてのは需要も乏しく、普段は馬車を使えない農奴の荷物運び。
冒険者に付き従うなんてのは早々無かった。むしろ邪魔者扱いされる。冒険者と一緒に行動したとしても、雑な扱いも多く待遇面では良くなかったらしい。
だが、俺と一緒に行動して力になれたことが嬉しいそうだ。
荷物を持ってくれる人が居た方が、移動も楽になると思うんだがなあ。
今回いろいろ移動してみて、つくづくそう思ったぞ。
各々箱を開け中身を見ているようだが、冒険者の三人は金のタグ。眩しそうに眺めてる。
ミリヤムのタグは七宝焼きだったのが、彫金のものになったようだ。金の象が彫り込まれている。
「なんでスカラリウスは象なんだ?」
「力の象徴だから」
「ああ、なるほど」
化け物を除けば地上最強とも言えそうな象だからな。力だけではなく器用さと賢さ、それに足裏で振動を感知する繊細さもある。大切な荷物を扱うことを考えれば、象徴として相応しいのだろう。
今回昇格できなかったルドミラだが、もう少しで昇格させられると思う。
「ルドミラは今度、だな」
「実感しました。あたしはまだまだだって」
リーリャユングフルのメンバーは強いと。大森林への遠征で理解したそうで。
ガビィは当分無理だ。メランニーヴォにするだけで、二年は掛かるだろうな。それは説明しておいた。
「ソーニャたちとはキャリアが違う」
「はい。承知しております」
「半年ほどアデラに指導してもらう」
必ず追い付くと気合を入れてるようだ。
あとはセラフィマだが。
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