Sid.135 同郷の女性型モンスター

 さて、メンバー達には言っておくことがある。

 全員に話すことがあると言うと、いち早く気付いたのはソーニャだ。


「勝手に移動したこと?」

「そうだ」


 ソーニャの言葉で全員気付いたようで謝る面々だが。


「今回のことで理解できたと思う」


 抗う暇なんぞ一切与えられない。視線が合っただけで意識を失い、幻想の中に引き込まれてしまった。俺ですら抗うも引き摺り込まれたからな。

 それだけ敵の能力は異常な程に強力だ。自力で目覚める可能性も乏しかっただろう。


「もしこれが殺傷能力だった場合」

「死?」

「そうだ。何かできるなどと思うな」


 人数など一切関係ない。何人居ても結果は同じ。唯一対抗できるのが俺だけ。


「二度と様子を見よう、などと考えないで逃げろ」


 戦況の把握などする必要はない。とにかく距離を取り逃げることを最優先、と言っておいた。俺もまた他人を気にする余裕は一切ない。純粋な暴力の塊でしかない相手だ。まあ慈悲の心はあるとは言っていたが、それは情炎の幻術師だからだろう。殺傷能力そのものは持っていなかったから。

 瞋恚しんいの魔女や嫉視の剣士には無かったと思う。あれらは破壊のみだ。


 もし俺が生き残っていれば迎えに行けるし、狼煙を上げて呼ぶこともできる。一昼夜明けて尚、迎えが来なかったら、その時は死んだと理解して諦めてくれとも。


「今回は運が良かっただけで、次も助かるなどと思わないで欲しい」


 助ける余裕なんぞ無いからな。鯨飲馬食の神官のような奴が相手だと。


「でも、トールが死んだら」

「その時は仕方ない。俺の力不足だ」

「ですが、トール様が亡くなってしまっては」

「諦めてくれ」


 次の世代に現れるであろう英傑が、より一層強大な力を得て出てくると、あれは言っていたからな。

 次代の英傑に期待するしかない。


 静まり返ってしまったようだが、俺だって死ぬ気はないし、生き残る気だけは満々だ。彼女らを残して死んで堪るかってのもある。二度も死ぬのはご免だって想いもあるし。

 だから心配は要らないと言っておいた。


「朝までまだ時間はある。少しでも体を休めてくれ」


 全員に就寝を促し見張りは俺がやるとしておく。

 元のキャンプ場所に戻り全員が寝るのを見守る。

 安堵。みんなが倒れた瞬間、これまで経験したことの無い感情で、溢れ返ってしまった。俺もまた油断せず彼女らから、充分過ぎる距離を取るべきだったな。

 最近の敵の緩さが慢心を招いたと思う。気を引き締めよう。


 空が白み始める頃メイが起きてきたようだ。

 傍に来て「トールさんって何と戦ってきたの?」と聞いてくる。


「昨日は何かを見た瞬間、意識が遠くなって変な夢見てたけど」


 人智を超えた存在で国を簡単に滅ぼす相手、と言ってみるが。


「よく分かんないけど、魔王みたいな?」

「魔王なんて可愛いものだな」

「そうなんだ」


 フィクションの世界の魔王は、本気で滅ぼしたり世界を取る気があるのかと。随所に甘さが見えて主人公に付け入る隙を与えてる。

 まあ、そうしないと物語を作り難い、ってのはあるのだろうが。勇者が力を付ける前に魔王が直接攻めれば、人間はあっという間に支配下に置かれる。力の弱い部下に攻めさせ、攻略されると次に強い奴、そして倒されると更に強い奴。四天王なんてのが出てきて、勇者が苦戦し辛うじて倒すと、最後に現れる魔王。


「ゲームのシナリオレベルから、一切逸脱しないからな」


 この世界では違った。

 最初が一番強かったかもしれん。ラスボス戦を最初に熟したから、あとが楽に感じたのもある。それがゆえに油断も生まれたのだろう。

 まあ面倒な相手も居たが、結局は倒せてるわけだし。


 四肢を折り曲げ座り込むと、俺を見て「あのね、ずっと考えないようにしてたんだけど」と何やら口にするメイだ。


「何を?」

「そのね、あの。あれ」

「あれ?」

「い、一応ね、あたしにもあるから」


 生理があるってのは前に聞いたぞ。性交で子を成すのかどうかは知らんが。


「生理?」

「違くて」


 メイはやはり日本人らしい。この世界の住人とは違う。


「したい、って思ったり」

「好きな相手、ああ、そうか」

「見た目がね」


 真剣そうな目で俺を見つめてるが、抱けとか言わないだろうな。

 もじもじ、なんか照れ臭そうにしてるし、これは明らかに性欲の件だろう。


「でもね、トールさんは気にしなさそうだし」


 さっきの夢で一気に性欲が溢れてしまったらしい。その処理をして欲しいようだ。

 完全に人の姿なら好きな相手に取っておけ、なんて言えるのだが、何しろ見た目は化け物だからなあ。例え人に惚れても無理があるのだろう。俺くらいか、見た目を気にせず抱けそうな奴なんて。上半身さえ人なら、って程度だ。

 クリッカも抱いちゃったし。


「可能性の問題か」

「居ないよね。こんな見た目だし」


 むずむずと性欲が増すことで、何とかしたいようだが、その相手は俺でいいのかって話だ。

 とは言え、他に相手をしてくれそうな人はなあ。


「俺でいいのか?」

「他に居ないし」


 メイが立ち上がると何やらもぞもぞ動いて、上半身を化け物部分から抜こうとする。

 それって分離できるの?


「何を?」

「少し露出させないとできないから」

「え」

「あのね、あれがね、埋まってるの」


 つまり化け物部分に性器が埋まっていて、それを露出させることで人と性交が可能になると。

 大切な部分だから普段は下半身の、化け物部分に埋まっているらしい。

 股間に該当する部分がするっと現れると、恥ずかしそうに「なんか別の生き物だけど、でも、ちゃんと機能があるから」だそうだ。


 見ると確かに女性の部分があり、股間部分から二股に分離するも、しかし足では無くなんか別の生き物。鱗の無い蛇のような。いや、もっとこう、ぬるっとした感じで。


「できる?」


 顔は問題無い。上半身も人。

 下半身を無視すればできそうだ。


「本気で望むなら」

「抑えられないの」


 と言うことで、メイを抱いてしまった。

 独特な感触を持つ下半身だったが、上半身は人と相違なく愉しんでしまう俺って。

 しかも具合の良さは人以上。クリッカもそうだったが、なぜか化け物の感触は人を凌駕するのだな。

 満足げな表情を見せるメイが居る。


「あのね、人の時より感度がいいみたい」


 癖になりそうだとか言ってるし。人の時にここまで気持ちがいい、などと思ったことは無かったらしい。まあ何人かと経験はあったのだろう。


「痛いってのが多かったから」

「痛い?」

「みんな下手だったから」


 どこで覚えたのか雑な行為。


「頑張ってるのは分かるんだけど、でも良くなかった」

「そうか」


 エロ動画で知識を得た程度だからかもな。あんなの演技でしかない。

 それが分からない男が殆どってことだ。俺も知らんかったし。


「ねえ」

「なんだ?」

「またお願いできるかな」


 クラウフェルトに行ったら、その機会はほぼ無いだろうなあ。

 一緒に行動できれば相手もしてやれるが。ただ、ファーンクヴィストで、堂々と外を歩けるかとなるとな。難しいだろうなあ。

 それでもハーピーを貴族がお披露目すれば。


「状況に因る」

「そう、だよね」


 同郷で自分を理解してくれる、化け物扱いもしない、俺の側にずっと居たいようだ。


「尽力してみるよ」

「え」

「一緒に居られるようにな」


 嬉しそうだな。笑顔を見せるが、あまり期待しないようにとも言っておく。

 それでも自分のために頑張ってくれる、ってのが嬉しいようだ。


「優しいよね」

「そうか?」

「だから女性が集まるんだね」


 それは違う。優しさより強さを求める。ただ優しいだけでは、この世界は生き残れない。時に非情になり圧倒的な強さを見せないと。

 日本でも優しいだけじゃ相手にされないだろ。それプラス何某かのステータスは必須だ。


「トールさん」

「やっちゃったんですね」

「目を離した隙にちゃっかり」

「トールだから」


 行為がバレていたようで、面白がってるし。

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