Sid.88 討伐報告でギルドへ

 蛸の魔石だが、あの巨体に似合わず大きくはない。

 それでもハンドボールくらいの大きさはあった。小石サイズのゴブリンよりは、遥かに巨大ではあるけどな。どの程度の魔素を保持しているのかは知らん。

 クリッカが食いたそうに見てるんだが、これは退治した証拠として必要だからな。

 しっかり活躍したからご褒美に、あとで化け物を狩って与えればいい。

 ハンググライダーは畳んで手に提げる。レールガンは背中に背負ってギルドに向かう。


 エストラへ入る際に門衛に「一体何を持って何を背負ってるんだ?」と疑問を抱かれた。


「空を飛ぶためのアイテムと防衛兵器だ」

「いや、意味が分からん」


 通じるとは思ってない。


「この長い竿は広げると翼になる」

「翼? 意味分からんが重そうだな」

「重くはない。背負ってる奴は次世代の魔砲だ」

「次世代?」


 そんなものの開発を引き受けていたのか、と驚いていたが、そこは「さすがのスーペラティブなのだな」と納得したのかしてないのか。

 とりあえず町に入るとギルドへ向かい、ハンググライダーは外に立て掛けておいて、中に入るとフェリシアと目が合った。

 なんかやたら喜んでる。


「トール様!」


 カウンターから飛び出しそうな勢いだな。

 当然だが背負ってる荷物に気付いて「それは何ですか?」となるわけで。


「あとで説明する。ラスムスは?」

「あ、呼びますね。少々お待ちください」


 カウンターから離れ後方の扉を開け、中に入って少しして出てくると、後ろにダンディーなおっさんも一緒に出てきた。

 俺を見ると「済んだのか?」と。

 魔石をカウンターに転がすと目を丸くしてるな。


「これが」

「クラーケンの」

「輝きが違うな」


 ああ、そんなのまで意識していなかった。


「魔石の料金はまた別だが」

「え、込みじゃなかったのか?」

「あんな巨大な奴の魔石なんぞ回収不可能だろ」


 海に沈んでしまえば回収不能だから、魔石のことまで考慮していなかったらしい。持ち込まれたことで魔石の代金は別途支払うそうだ。

 ただ、前例がないから査定の上、報酬と一緒に渡すことになると。


「あれ、でも」

「動くと」

「そう」

「その場合は仕方ない」


 海中に沈んでるものまで回収はできない。出てきたら今度は町の被害を考えず、遠慮なく吹き飛ばしてくれればいい、とのことだった。

 だが、しっかり回収したことで、蛸ゾンビがうろつかなくて済んだ。

 報酬の上乗せはないが、その点も考慮して魔石は高く買い取ることになるだろうと。


「それなんだが」

「どうした?」

「魔石は売らなくてもいいんだよな」

「いや、どうする気だ?」


 クリッカの飯、と言うと呆けるラスムスとフェリシアだ。


「飯って」

「クリッカの食事は魔石だ」


 船一隻の損害も無く退治できている。報酬百五十グルドともなれば、魔石なんぞ売る必要もないしな。税で持って行かれたとしても、結構な額が手元に残るわけで。

 それにクリッカのご褒美には丁度いいだろう。


「ってことでな、魔石はクリッカに与える」

「勿体無い」

「トール様、凄く勿体無いです」

「いいんだよ。クリッカが居て退治できたんだから」


 信賞必罰だ。ここのところクリッカには相当働いてもらった。働き過ぎなくらい。だったら欲しがってる魔石くらいは、好きにさせてやるべきだろう。食いたがってるからな。働いたらご褒美がある、と理解すれば俺の期待に応えてくれる。下手すれば俺より働き者だぞ。

 勿体無いと二人揃って口にしてるが、報酬は三日後になるから、それ以降で取りに来てくれとなった。


「あの、トール様」


 ギルドをあとにしようとしたらフェリシアに呼び止められる。

 まあ理解した。今夜久しぶりにってことだろう。だがな。


「クリッカもセットだが?」

「あ、えっと」


 前回はソーニャが居たが今回は居ない。盛っていればクリッカも参加してくる、と言うと引いてるなあ。ギルド職員は戦闘職じゃないからな。怖いんだろうけど。

 アデラ姉妹は姉の影響で怖がらなくなったが、普通は恐怖心を抱くものだろう。アニタもマルギットも怖がるし。

 フルトグレンの三人娘は怖がらなかったな。あっちは恐怖心より性欲が勝るのだろう。


 フェリシアを見ると咳払いをして、居住まいを正すと「頑張ります」だそうだ。

 そうまでして俺を求めるのか。この世界の女性は性欲が何より勝るのだな。


「無理しない方がいいぞ」

「だ、大丈夫です。トール様が居るので」


 人を襲うことがないのは確かだ。実に従順で可愛らしい奴だからな。


「三人と言うか二人と一羽になるぞ」

「が、頑張ります!」

「そうか。じゃあホテルで」

「あ、はい」


 正直な話、フェリシアは美形だしなあ。見ると抱きたくなるほどの女性ではある。

 それと気になっていた背中のブツ。


「それは何ですか?」

「ああ、俺も気になっていたんだが」


 ラスムスも気になっていたようで、二人して背負う物体が何か説明を求められた。


「レールガン」


 そう言って理解ができるはずもない。

 結局、門衛に説明するのと同じく「魔砲のようなもの」であると。


「携帯できる魔砲と思ってもらえれば」

「凄いな。誰が作った?」

「ダンサンデトラーナに居るアデラだ」


 優秀過ぎないかと。本当に作ったのであれば、国お抱えの技術者になれるとも言ってる。生憎、彼女もまた権力に媚びない。まあ資金調達のために貴族ひとりとは、懇意にしているけどな。国お抱えなんて御免被るって話だろう。


「威力は?」

「クラーケンを叩けるくらいに」

「そんな凄まじい物なのか」


 ただし、電気が無ければただの飾りだけどな。俺だから使えるだけで。

 まあ言っても理解不能だろうから、今はまだ実験段階としておいた。耐久性の問題や連射が不可能ってのもあるし。

 見せてくれと言うから背中から外して見せるが、その重さに驚愕する二人だった。


「重過ぎて」

「これじゃあ誰も持てないだろ」

「だから改良の余地ありってことで」

「ああ、まあ理解した」


 まだ実験中ってことで今後に期待だそうだ。

 話し込んでいると結局、午後三時くらいになり、食事を済ませたいと言ってギルドをあとにした。


「あの」

「夕方迎えに来る」

「はい。待ってますね」


 エロいなあ、フェリシア。アデラも相当エロいけどな。

 だが一番はアニタだ。それだけは譲らん。ああ、会いに行きたい。そうだな、凡そ面倒事が片付いたし、そろそろベルマンに戻るのもありだな。

 だいぶ放置してる状態だし、いい加減戻らないと忘れられそうだ。

 今夜はあれだが、明日ダンサンデトラーナに行って、アデラを充分に労ったらセラフィマを連れてベルマンに行こう。


 あ、そうだった。ベルマンには帝国の間諜が二人居るんだっけか。まだ連絡は行ってないだろうから普通に忍び込んで活動中だろう。燻り出して排除しておかないと。

 それとここにもだ。


 飯を食って探してみるか。確か行商に扮していると言ってたな。

 町に出て食事を済ませると、暫しうろうろしてみるが、行商らしき存在はこの時間帯だと居ないか。明日の朝なら商売を装って市場に居そうだな。

 夕方になりギルドに行くと、ラスムスに追い出されるフェリシアだ。やたら気を利かせるよな、ラスムスは。


「あの。ホテルですよね」

「まあ生活拠点がないし、フェリシアの家だと大騒動だろ」

「そう、ですね」


 と言うことで久しぶりにホテルで、フェリシアと愉しむのだが、やはりクリッカも混ざって二人と一羽で人外交じりのコースとなった。もう開き直ったけどな。フェリシアも腹を括ったようで、それなりに愉しんでいたようだ。

 人は慣れるものだからな。


 翌朝、出勤するフェリシアを見送り市場に向かうと、行商らしき存在が結構居るようだ。

 どう判別するかと言えば、プラヴィット語で話し掛ければ済む。ポカンとしたら、この国の住人。気付けば帝国の人間。

 品定めを装い声を掛けると四人目でビンゴだった。

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