Sid.87 化け物蛸の退治に向かう

 ホテルの部屋で朝から昼まで暫し寝ていたが、今日中に片付けてしまいたいことがある。蛸だ。レールガンもできたことだし、昼飯を済ませ次第エストラに出向こう。

 ルドミラはまだ寝ているようで、起こすのもあれかと思い放置。元より連れて行く気は無いから、のんびり寝ていてくれるといい。

 クリッカを伴い部屋を出てロビーに行くと「食事ですか?」とカーリンに聞かれ、何かあればと言うと。


「朝食を用意してたんですけど、寝てたのでお昼になっちゃいましたね」


 だそうだ。

 セラフィマに話をしたあと部屋に戻り寝たからな。ルドミラに食われるかと思ったが、さすがに徹夜で疲れていたようで、さっさと寝息を立てていた。お陰で俺も短時間であれ安眠できた。クリッカも夜通しだったこともあり、素直に寝てくれたってのもある。

 そう言えば、化け物も睡眠は必要なのだろうか。クリッカは寝るけど。


「用意しますね」

「頼む」


 食事が用意されるとクリッカも欲しがり、分け与えて済ませるが量が足りない。今度は少し多めに用意してもらおう。

 食後、アデラの工房に向かうと作業中のようだ。


「レールガンは持って行けるか?」

「用意してあります」


 そう言って示す先に改良型レールガンがある。

 多数のビスで固定される四角柱の銃身。相変わらず武骨な形だ。些細なことだがレールが合金となって、ほんの僅か重量が軽くなっているそうだ。


「放電電流を制御して弾体の速度を向上させています」


 幾らかの軽量化を図れたが、電流制御用の回路を組み込んだことで、結果、重量は増加してしまったらしい。過剰な電流量はアーマチュアの分裂を招く。結果速度向上に至らず。ゆえに制御したそうだ。せっかく働いたローレンツ力を生かせない。

 更に口径を増して、より重量のある弾体を装填可能になった。口径を増すことのメリットもあり、これもまたアーマチュアの分裂を防げるらしい。まあ小口径では摩擦と熱ですぐ溶ける。銃身内で溶けてしまうと、速度は稼げないってことだな。


「計算上では秒速二キロ出ます」


 口径の増加に伴い弾体の重量も増して、五百グラムとなったそうだ。

 朝には無かった説明を受けると「ストラップ、と言えばいいのでしょうか」と、極太の革製のストラップを銃身に装備してる。


「これで背負えます」


 俺だから背負えるが普通の人に、こんなものが背負えるわけがないな。肩に掛けられるから姿勢が安定するだろうと。

 空の上だから姿勢は滅茶苦茶だと思う。まあ反動で吹き飛ばされないよう、風魔法で姿勢を制御するしかないな。

 本体にすでに一発装填済みで、残り二十九発をバッグに詰めて手渡そうとするが。


「あ、あの」

「重いのか」


 アデラの腕力だとバッグ込みで十六キロは重いようだ。

 受け取ると「では、いってらっしゃい」と送り出された。


 ホテルをあとにする際、ハンググライダーも持参し町を出ることに。

 クリッカは手ぶらだ。元より物を持てない。飛べばいろいろ掴んで飛べるけどな。

 門を抜ける際に「えらい荷物だな」と門衛に言われた。


「重そうだが、どのくらいあるんだ?」

「百五十キロくらいか」


 絶句してるようだ。人が持てる重さじゃないだろ、と呆れ気味だったな。


「そんなものを持って何しに行くんだ?」

「試し撃ち」

「そう言えば町の防衛云々って」

「まあ、いずれ城壁に設置して、だな」


 期待してるぞ、だそうだ。

 火力発電が可能になれば、レールガンでの防衛も可能になるだろう。

 町を出て暫し歩くとハンググライダーを展開し、風魔法で浮上させクリッカと共に暫し空の旅だ。ハンググライダーの速度に合わせることで、到着は二時間半後くらいだろう。

 並んで飛ぶクリッカに声を掛ける。


「クリッカ」

「ぴぃ」

「クリッカには厳しいかもしれんが、少し囮役を」

「ぴぃ」


 分かってるのか?

 掴まれたら海に引き摺り込まれるし、蛸足で殴られたら拉げるぞ。上手に躱さないと死ぬからな。ハーピーは化け物の中では脆いと思う。軽量化した骨格があだになる。ミノくらい頑丈であれば、あまり心配もしないのだが。

 まあ危なそうならブリクストで、ちまちま感電させてやるけどな。


 時速百キロ程度と言うこともあり、途中で休憩も無く飛行を続けられたようだ。

 クリッカにとって百キロと言う速度は、負担にはならないってことだな。

 エストラが見えて港も視界に入ると、一旦着陸しひと呼吸置くことに。ついでにクラウフェルトで集めた魔石の残りをクリッカに与えておく。

 元気が出たところで離陸し、いよいよ蛸退治だ。


「クリッカ、水面ギリギリで飛行して挑発してくれ」

「ぴぃ」


 理解しているのかと思ったが、ちゃんと水面ギリギリを飛行し、時々水面を足で叩いたりしているようだ。

 暫くすると巨大な黒い影が見えてきて、浮上してきているようだ。それと同時にクリッカが離れると、水面に白波を立たせ蛸足が伸びてくる。

 捕まらないよう躱しながら飛ぶクリッカだ。いい感じに挑発に乗ってきているようだな。

 俺はと言えば、海面より五十メートル程度の位置に居る。俺が引き摺り込まれると作戦が失敗するからな。


 度々挑発行為を続けるクリッカと、足を複数水面に出し捕まえようとする蛸だ。

 胴体も水面に一部出てきたところで、レールガンをぶっ放すと、見事にぶち当たり弾体がめり込んだようだ。さすがに小さな弾体では貫通には至らないようだが。ついでに姿勢がかなり崩れるが、風魔法で態勢を整え直しておく。

 激しく暴れる蛸だが、すかさずもう一発。

 二発目をぶち込むと、足で周囲を薙ぎ払うような動作をしてるな。相当効いていそうだ。


 怒りに満ちた蛸が足を複数伸ばし攻撃しているようだが、それを曲芸飛行の如く躱すクリッカが居る。

 海中に足を引っ込めると水面まで近付き、足を出すと上空まで急速上昇だ。

 足を出す勢いで胴体が露出する瞬間を逃さず、三発目、四発目を放つと悶絶する蛸が居るな。


 胴体から青い血を流し足をばたつかせる蛸。ああ、やっぱり蛸なんだな、青い血を流してるってことは。あの青はへモシアニンと言うたんぱく質によるものだ。銅が含まれるから酸化すると青くなる。

 クリッカは少しずつ浅瀬に向かっていて、それを追うように蛸も移動している。賢過ぎないか? 水中に潜られないよう、しっかり誘導しているのだから、俺が何をしたいのか完全に理解してるな。


 浅瀬まで来ると巨大な胴体が露になるわけで。


「ナイスだ、クリッカ」

「ぴぃぴぃ」


 レールガンを何発もぶち込むと、さすがに動きが鈍くなり海中へ潜ろうとするが、残念だったな。今居る場所は浅瀬だ、そう簡単に潜れないぞ。

 止めに目と目の間が見えたことで、レールガンを二発ぶち込むと、体が白みを帯びておとなしくなったようだ。急所だからな。

 仕上げにエクスプロシーブ・ローガを放つと焼き蛸の完成だ。こんがり表面が焼けると中まで火を通すために、もう一度放つことで完璧に焼き上がったようだ。


 一旦、地上に下りてハンググライダーを置いて、クリッカに蛸の上まで運んでもらう。


「蛸の上まで運んでくれ」

「ぴぃ」


 クリッカに運んでもらい蛸の上に下りる。

 しかしだ、魔石の回収は一筋縄ではいかないようだ。身の厚さが尋常ではないことで、胴体の端で作業するも、ダガー程度では文字通り歯が立たない。

 ギガントソードなら、もう少し楽に切り開けたことだろう。


「クリッカ、上まで運んでくれ」

「ぴぃ」


 傍で見ていたクリッカに指示を出し、空に舞い上がると魔法を放つ。


「フラムトランダンデ・プラッツ」


 体を蒸発させてしまえばいい。最大一万度の炎だ。さすがに蒸発するだろう。

 加減しながら蒸発させると、しっかり魔石が見える状態になり、降下して魔石を回収し蛸退治は完了した。

 港に停泊していた船は、少々煽られたが無事なようだし。


「よし、ギルドに行こう」

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