Sid.86 改良型電磁砲が完成

 ダンサンデトラーナに戻るが町の手前で着地し、ゴンドラを担いで町に入ると門衛が「夜通しグンガで遊んでたのか?」なんて言ってるし。ブランコと言ったからか、すっかり認識がブランコになってるな。


「夜は寝てたぞ」

「周囲が安全とは言え呑気だなあ」


 化け物は居なくとも盗賊は居るから、注意した方がいいと言いながら「まあ、あんたなら問題無いんだろうな」だそうだ。

 とは言え「最近じゃあまり被害を聞かないな」と言ってる。エストラ近隣で活動していた盗賊団を壊滅させたからな。潜んでいた奴らも一斉に逃げ出したんじゃないのか。

 門衛と軽く会話を交わすと町に入るが、少し気になるのかルドミラが聞いてくる。


「トール様」

「なんだ?」

「前回来た時も思いましたけど」


 門衛が緩過ぎないかと。

 緩いだろうよ。本来は平和な町だからな。セラフィマの件で少々物騒になったのと、例のあれのせいで騒動になりかけたが。


「もともと平和な町だからな」


 危機感を持ってない。冒険者を極限まで減らし、練度の低い兵士しか居ないのだから。


「身分証の提示も求められないんですね」

「最初は求められたぞ」


 すっかり顔パスだけどな。これまで訪れた町の殆どは顔パス。まあスーペラティブと知れればな、扱いも変わるわけで。アヴァンシエラでも驚かれるくらいだし。

 そんな冒険者が実在すれば信用もされるだろう。たとえお飾りの称号だとしても。

 あとはアデラの旦那ってのも大きいと思うぞ。町の名士みたいなものだろうし。


「信用度が結果、顔パスになってるだけだ」


 俺を見るルドミラだが「やっぱりトール様は別格です」だそうだ。

 生涯添い遂げるつもりだと言ってるが、もう諦めたよ。離れる気はないみたいだし。

 こうやって嫁ばかりが増えるのか。負担が大きいなあ。


 ホテルに着くと受付に居たカーリンが「あ、もう帰って来たんですか」と。


「用事は済んだんですか?」

「済んだ」

「じゃあ、当分ここで」

「クラーケン退治がある」


 危うく忘れるところだった。一切手を付けずだとペナルティがあるからな。とりあえず殴りに行かないと。期限も近付いてきてるし。


「あ、あのですね。姉さんからトールさんが帰って来たら工房にって」

「工房に行けばいいんだな」


 アデラの工房に向かうのだが、カーリンも付いて来るし。暇なんだな。

 工房の扉をノックすると「どうぞ」と声がして、開けると俺に気付いたアデラが「おかえりなさい。調整が済みました」と言う。


「調整?」

「レールガンです」


 おお。もしかして。


「改良型?」

「そうです」

「何発放てる?」

「三十発ですね」


 まじか。

 聞けばレールの素材を根本から見直したそうだ。


「銅はやめた?」

「いえ。ベリリウム銅であれば、銅単体より耐摩耗性を高められます」


 時効硬化処理を施すことで硬度を高めているとか。代わりに導電性が少々犠牲になるそうだ。融点はさほど変わらない。銅の優れた導電性を犠牲にする代わりに、強度を高められた。結果、発射できる弾体の数が増えたわけで。

 時効硬化処理とは何ぞや、と言えば急冷だと不安定な組織が発生しやすく、あえて高温で放置すると安定した組織に至る、と言うことらしい。あくまで簡単に説明しただけだが、実際には相当デリケートな作業だとか。

 加工後の熱処理が不要なミルハードン材では、強度は幾らか落ちてしまう。ゆえに手間暇掛かっても時効硬化処理をしたそうだ。

 因みにベリリウムは緑柱石から得られ、不純物の種類によりアクアマリンやエメラルドと呼ばれる。


「タングステンの加工が現状不可能なので次善の策です」


 優秀過ぎる。

 確かにベリリウム銅は元の世界では、当たり前に普及しているものだが、この世界でとなるとな。

 ベリリウムは金属の硬化剤として、長らく使用されてきた歴史もある。

 その代表がベリリウム銅ってことで。


「結局は最もオーソドックスな方法に辿り着いたと」

「そう言うことです」


 弾体の装填方法は同じ。銃身後方にある装填口を開き中に押し込んで密閉する。密閉が不十分だとプラズマ漏れで、弾体の射出ができない。

 その辺も改良したかったらしいが、今の機材では無理があるそうだ。


「電気も無いですし」

「すまん。俺が居れば解決するんだよな」

「いえ。トールさんの負担無しにです」


 懇意にしている貴族と話し合っていて、上手く行けば領主からの許可が出るだろうと。

 そうなれば水車や風車による発電ができる。今より高度な機器の開発も可能になると言う。


「いずれは火力発電です」

「大気汚染は?」

「プラチナやロジウムによる触媒も合わせて開発します」


 チタンやバナジウムなどによる触媒も開発するそうだ。

 先を見越してるってことか。


「すでに失敗しているので、経験は生かすに限ります」

「まあ、そうだよなあ」

「電気が気軽に使えるようになれば、開発速度は上がりますから」


 こんな話をアデラとしているが、カーリンにはさっぱり理解が及ばないようだ。それも已む無しだな。何ら科学の知識がないのだから。その辺はルドミラも同じで、全く理解の範疇に無い話に、大あくびをする始末だったな。

 工房内をうろうろしてたのはクリッカだ。俺とアデラの会話で暇を持て余していたようで。

 今後は数学や科学を教える学校も必要だろう。魔法などと言った意味不明な物に頼らず、誰でも使える機械ってのは便利だ。


「ひとつ、報告があります」

「何?」

「錬金術を少し」

「え」


 別に土くれから金を生み出すわけではなく、これまで熱したり溶液に溶かしたり、面倒な作業の一部を魔法で代替できるようになったと。

 ただ、知らない人が見れば例えば、石から金銀銅を生み出した、などと見えるらしい。


「少しだけ作業効率が上がりました」

「なんか、凄いな」

「魔法、使えなかったのですが」

「いや、記憶の読み取りとか」


 それを魔法と言うのかどうか、些か疑問を感じるそうだ。

 今回は錬金術と言うことで、これぞ魔法だと喜んでいるそうで。


「硫酸や塩酸が不要になりますね」

「楽にできる?」

「いえ。そこはトールさんがおっしゃるように、魔素が少なくて」


 魔石をたくさん持って帰ってきてください、と。


「電気炉はトールさんの手が必要ですよ」

「当面は俺が手伝うしかないのか」

「火力発電に漕ぎ着けるまでは」


 得られる電力量が増えるからな。常時稼働させられるし、水車より圧倒的に効率がいい。

 となると。


「蒸気タービンも目処が立った?」

「こつこつ設計していましたので」


 ドリスから泣きが入ってるそうだが。精密な加工が必要になり、しかも数が多い。

 金属加工を専門にするドリスであっても、元の世界の加工技術に至るにはなあ。まあ労っておこう。


「今受け取りますか?」

「あ? ああ。レールガン」


 午後にでも蛸退治に行くか。


「午後で」

「では準備だけしておきますね」

「頼む」


 まだ作業があるそうで工房をあとにした。


「トールさんって」

「トール様、あれって魔法の呪文ですか?」


 揃ってちんぷんかんぷん。アデラには驚かされることが多く、しかし俺もまたアデラと会話が交わせる。二人が同じ人間とは思えないそうだ。

 あ、そうだ。


「セラフィマにも報告しておこう」

「何をです?」

「帝国の件だよ」


 セラフィマの部屋に向かうが、カーリンは受付業務が残ってるわけで「あとで抱いてくださいね」だそうだ。今夜はアデラが最優先だっての。

 苦労していろいろ用意してくれている。無理難題のはずだが創意工夫で乗り切ってるからな。


 クリッカを伴いセラフィマの部屋に行くと、御髪おぐしのかなり乱れたセラフィマが出てきた。


「暇?」

「はい」

「朗報だ」

「え」


 帝国での出来事を話すと「もう怯えなくて良いのですか?」と。


「それどころじゃないだろうからな」


 帝都は破壊され人的被害も大きい。

 まずは体制を整えるのが先。総主教の後釜争いがありそうだし。

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