Sid.47 亡命者と対話をする
俺の服はボロボロで戦闘は終わっている。と言うことはだ。
「まさか全てのモンスターを退けたのか?」
兵士の言葉に他の兵士が「あり得ないだろ」と言い出す。
「報告では万を超える数だと聞いたが」
「それをひとりでだと?」
「あり得ないか。となると、逃げて来ただけだな」
「所詮は冒険者だ。モンスター相手に尻尾を丸め逃げた」
何でもいい。殲滅したでも逃げ出したでも。なんか疲れたから休みたいんだよ。
どうであれ現時点では安全であることだけは確かだ。明日も同じとは限らないけどな。もしかしたらボーグプラヴィットが攻め込んで来るかもしれないし。
胸元のタグを見てもプラチナとは気付いてないな。銀色に見えているのだろう。
「それにしてもだ」
「冒険者なんてのは責任感が無い」
「そうだよなあ。俺たち兵士は命懸けだってのに」
「ゴブリン相手に飯食ってる程度だからな」
そうか。ミノタウルスでもプレゼントしてやろうか?
その責任感とやらを如何なく発揮するのだろうから。兵士と言っても元は平民だろうに。指揮官は貴族だとしても。同じ平民を見下すなっての。
「もう宿に戻ってもいいか?」
調子の狂う試練と曖昧な返答しかしない、あの存在。気を張っていただけに、空気の抜けた風船状態なんだよ。
兵士たちだが笑いながら「ああ、戻っていいぞ」とか「次は逃げずに死んで来いよ」だそうだ。冒険者ってのは兵士からも見下される存在なのか。他の町では兵士と冒険者が一丸となって、化け物に立ち向かっていたのだが。
平和過ぎると兵士の質も冒険者の質も低下するのだな。これでは戦争にでもなったら、五分も持たずに町が陥落しそうだ。
守る価値の無い存在ではあるが、アデラたちは何としても守りたいからな。
良かったな。アデラたちが居て。お前らみたいなアホでも死なずに済むぞ。
絡む兵士たちから解放されホテルに戻ると、三人姉妹が揃ってロビーに居て俺を見ると安堵の表情を浮かべる。クリッカは俺に飛び掛かって来て「ぴぃぴぃ」と、置いて行かれたことで寂しがってるようだ。
「服や防具が酷い有様です」
アデラが気遣い服を用意するそうだ。
「怪我はしてないんですか?」
「凄いボロボロです。怪我してそうですが」
カーリンとドリスは怪我の心配をしてるのか。まあとっくに治ってるんだが。
この体は治癒力が尋常ではない程だ。戦闘中に負う傷も少しすれば消えるし。
「問題無いぞ」
「ですが」
「すぐ治るからな」
アデラは理解している。記憶を見ているからな。
服を用意すべくカーリンを使いに出し、アデラが「入浴を済ませましょう」と言って、俺の手を取り風呂へと向かうようだ。まあ、埃っぽいし、返り血も浴びてるし。
カーリンから「服のサイズだけど」と聞かれ、大まかに答えると買いに行ったようだな。
入浴を済ませ新しい服を着るが、防具関連を揃え直すのと、義手だ。
「壊れたんだが」
「直しますよ」
「いいのか?」
「町を救ってくれています」
アデラが耳元で「生えてくるのですよね」と言うから、頷くと「では、生えて来た時でも使えるよう、工夫しておきますね」だそうだ。
要するに内部に充分な空洞を設け、武装のひとつとして機能するようにするらしい。さすがと言えばいいのか。
「では、この義手は預からせてくださいね」
剣も預かることになり手渡すと、ドリスと一緒に工房に篭もるようだ。カーリンは受付業務があるから、カウンターに戻り宿泊客の相手をする。
さて、部屋で休むとするか。
クリッカを連れ部屋に向かい、ベッドに寝転がると覆い被さるクリッカだ。
「暑苦しいぞ」
「ぴぃ」
俺から離れたがらない。
どうしたものか。円らな瞳で俺を見つめ、だから俺の口から魔素を得ようとするな。唇を重ね吸い取って行きやがる。
なんか知らんが、盛ってきたようで股間を押し付けてくるし。そっち方面は覚えて欲しくなかった。
ドアがノックされクリッカを横に置いて開けると、セラフィマが居て「あの、何かあったのですよね」と。
そう言えば放置してたんだっけ。
「神聖ボーグプラヴィット帝国が攻めてきたのですか?」
「いや、別件」
「では何が? 外には兵士が多数居ます」
「ちょっと因縁の相手とな」
俺の腕を見て「その腕ですが」と。
「義手が壊れたから修理中」
「え、そうなのですか」
後ろからクリッカが纏わり付いて来るし。やたら胸を押し付けてくるから、柔い感触が背中に伝わってくる。しっかりしたものを持ってるからなあ。チュニックを纏ってはいても下着は身に付けてない。いつでもできる。
「あの、因縁の相手とは」
「暴虐の魔女と呼んでいた奴の後釜」
「え」
「計七回現れる。試練と呼んでるな」
残り二回と言っていた。次は色欲か暴食になるわけだな。どんな能力を持っているのか知らんが、次は厳しいかもしれない。今回は使い回しってことで比較的楽だったが。
「倒したのですか?」
「倒さないと俺は死んでる」
暴虐の魔女は一国を滅ぼす力を持っている。それを倒しているのだから、帝国も滅ぼせるのではと言う。
滅ぼすのは簡単かもしれない。ソルフランマ連発で大都市を片っ端から破壊すればな。
だが、その都市にはここと同じく、無辜の市民も多数居るわけで。
一部の為政者を滅するために、無辜の市民を犠牲にするのは違う。それでは貴族連中と同じだ。
「だから、その手段は手の打ちようが無くなったら、だ」
敵対し続けるなら、地味に潰すしか無かろう。
ドアの前で話をしていても仕方ない。部屋に入るか聞くと頷いて入ってくる。
椅子に腰掛けるよう促し腰を下ろすと「他の町へは行けるのですか」と聞いてきた。
「アイテムは完成したからな」
あとは貴族を抱き込めるかどうかだ。
ただ、このホテルが快適でアデラたちが親切で、居心地がよいと思うらしい。
「一時的な保護だからな。貴族が方針を定める」
結果次第では帝国に戻される可能性もある。その際は俺が密かに匿う、なんて手段もないわけではないが。ただし、周囲に迷惑をかけ続けることになる。
匿っているのがバレれば、俺も国を追放されかねない。匿う先が屋敷だったり、ここだったりすればガビィや、アデラもまた国外追放や死刑の可能性も。
「何とかなるよう、手を尽くすが期待はしないでくれ」
所詮貴族に何かを期待してもな。奴らは自分さえ良ければそれでいい。平民なんてものは、単なる私腹を肥やす駒でしか無いのだから。
腐ってんなあ。
「それでも試練を乗り越えれば、今の体制が変わる可能性はある」
その時は晴れて自由の身になれるかもしれない、と言っておいた。
ベッドに腰掛けているが、さっきからクリッカが纏わりついて離れん。
「慕われていますね」
「いや、これは発情」
「あの、抱いたり?」
言いたくないなあ。獣姦してるなんて。
「人の趣味は様々なので」
違う。食われただけだ。結果、不本意ながら相手をすることになった。
ああ、面倒だ。この世界の常識で生きていれば、クリッカ相手でも気にしなくなるのだろうが。転生者だもんなあ。アデラが特殊過ぎるわけで。
あ、そうだ。
「ひとつ試したいことがある」
「何でしょう?」
ウエストポーチから青い魔石を取り出す。
「これを宛がってみたい」
「え、あの、それは」
「今日相手してきた奴のものだ」
かなり引いた感じだな。未知のものゆえに警戒してるようだし。
「俺も使ってる。能力の向上が見られた」
「ですが」
「魔石ってのは魔素の塊だ」
効果は違えど何某かの能力を得るはず、と言うと。
「あなたのように強くなれるのですか?」
「俺は強くなった」
少し考えているようだ。
「自分の身は自分で守りたいです」
「じゃあ使うのだな」
「はい。お願いします」
腹を括ったようだ。
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