Sid.46 懶惰の屍術師らしい

 溶岩状になった地面の先。国境を少し超えた場所に、やはり危険察知の反応がある。

 つまりまだ終わってない。

 ぞろぞろと溶岩池の如き場所を避け、化け物が移動し向かって来てる。

 まず、そいつらを排除しないとダンサンデトラーナが危ない。


 さて、その前にやることがあるんだったな。

 倒れている嫉視の剣士の魔石を回収しなければ。

 貪婪の道化師の魔石だが、少し小さいな。色は同じだがサイズが違う。なぜかは知らない。

 嫉視の剣士の魔石も回収してみるが、やはりサイズが少し小さい。

 まあいい。あとで聞いてみれば済むことだ。


 ぞろぞろと移動する化け物だが、数はそれほど多くは無いものの、洞窟で見た化け物が複数混ざってるな。

 アリンコとダンゴムシ。あれらは中級冒険者には荷が重い。リーリャユングフルのメンバーなら、対処はできるが居ないからな。

 町に居る冒険者と兵士では苦戦するだろう。被害を免れた村も破壊されそうだ。

 先に左側の化け物を排除し、いや。


「スナッブフリスニング」


 急速冷凍魔法だ。灼熱の地面を片っ端から凍らせ、通れるようにすれば両方から来る化け物を、同時に排除できる。

 半径二キロに及ぶ灼熱の地面は、俺の居る場所から次々凍って行く。

 凍ったら進んでまた凍らせてを繰り返すが、移動する前に義手を拾い装着してみるが。


「壊れてる」


 俺の手刀ってのは金属の塊である、義手ですら壊すのか。

 置いて行くのもあれだ、ベルトに無理やり通して持って行く。

 暫くすると、化け物がこっちに向かってくるようだ。移動できる状態になるからだな。


「エクスプロシーヴ・ローガ!」


 向こうから来てくれるなら手間も掛からない。

 片っ端から迎え撃つと周囲に反応が無くなったが、正面一キロ程度先に危ない奴の反応がある。

 近付くと地面に座って俺を見てる。

 濃い紫色のカフタンを纏い、手には杖を持っているようだ。


 杖を地面に向け叩きつけてるが、それと同時に地面から何やら出て来た。


「ゾンビ?」


 腐った人間のような存在が、次々現れてくるが気色悪いだけだ。動きも遅く対処は容易そうだし。ただ、黒死病を持っているかもしれない。


「ヘルベッテセルド」


 まあ地獄の業火って奴だな。足元から吹き上がる炎の柱。あっという間に火達磨になり燃え尽くされる。

 幾度か繰り返すと地面に座っていた存在が、杖を投げ出し何やらゼスチャーをして見せた。

 自分の首に親指を当て横に動かす。


 何だこいつは?

 殺してやる、って感じではないな。諦めてる感じがする。

 そしてまたも親指を自分の首に当て、何度か押し付けると横に動かす。


「殺せってか?」


 頷いた。

 この状態で殺せと言われてもなあ。無抵抗だと躊躇してしまう。

 足掻いて攻撃してくれればと思うのだが。だが座ったまま動かないし。やり辛い。

 一応見た目は女性なんだよ。見てると仰向けに寝転がり、大の字になって「くっ、殺せ」みたいな。

 なんなんだ、こいつは。


 倒さないと先へ進めないし、この状態で殺すのは気が引けるし。

 暫く見ていると、やはりゼスチャーで胸元に剣を突き立てろ、と示してる。

 やらないと進めないんだよな。凄くやり辛い。無抵抗なんだもの。


 仕方ない。こいつが死ねば、例のあれが現れるのだろう。この悪趣味な敵が何なのか問い詰めてやる。

 傍に行き剣を構え心臓目掛けて突き刺すと、一瞬、ビクッと体を震わせ絶命したようだ。

 とりあえず魔石の回収だが、まあ心臓を突き刺したことで、すでに切れ込みがあるからな。手を入れ取り出すと、これまでの魔石のサイズだ。


 そして現れる人型の光。


「戦い方が上達していますね」


 褒められてもな。前回と同じ相手だし、ここに転がってる奴は戦意喪失状態だったし。


「で、こいつはなんだ?」

懶惰らんだ屍術師しじゅつし


 また難しい言葉で。

 つまりは怠け者のネクロマンサーってことか。初めからやる気なしってことだな。


「なんで以前倒した奴が出て来た?」

「屍術師ですよ」

「ああ、そう言うことか」


 奴らもまたネクロマンサーにより、死霊として復活したわけだ。

 自らは戦わず死霊に相手をさせる。楽しやがって。だから俺に殺せとなったのも頷けなくもない。


「魔石が小さいのは?」

「元のスペックは無理です」


 まあ分かった。戦い方が上達したのではなく、単に敵の能力が劣っていただけだ。


「残り二回です」

「まだあるんだな」

「魔石をまだ宛がっていないのですね」

「迷ってるからな」


 己を信じればいい、と。

 ずっとそればかりだ。だから悩むのだがな。


「異世界の住人がまた現れたんだが」

「きっと役に立つことでしょう」


 確かに。アデラは極めて優秀な技術者。セラフィマは治療師として優れている、のだろう。まだ見てないから分からんが。

 ああ、そうだ。


「暴虐の魔女を復活させれば、俺をもっと追い詰められたのでは?」

「そうですね。ですが破壊し過ぎです」

「復活できなかった?」

「そうです」


 驕傲きょうごうの人形師は、と問えば最初のソルフランマ一発で燃え尽きたらしい。

 まあ、あれ自体は弱かったからな。嫉視の剣士は魔法無効だから、ソルフランマと言えど傷ひとつ負わなかった。


「あれ、じゃあ貪婪の」

「人形師が瞬殺されたので、急遽呼び出してますね」


 良かったと言えばいいのか。道化師が居たら俺に全部跳ね返ってたわけだ。

 間抜けな屍術師で助かった。

 もうひとつあったな。


「暴虐の魔女って、呼び方はそれでいいのか?」

「いえ」

「違う?」

瞋恚しんいの魔女です」


 怒りの魔女ね。暴虐の魔女ってのは人が名付けたわけで、本来は瞋恚の魔女ってことか。

 これ、元ネタが七つの大罪。

 言葉は違うが意味は凡そ一緒だし。

 もしかして色欲とかも出てくるのか? ちょっと気になるが、ここで聞いても答えるわけないよな。


「その辺は適当に流してください」

「なんだそれ」

「そろそろ戦端が開かれます」


 やはりな。


「どこだ? ボーグプラヴィットか、それともガリカ?」

「ご自身で確かめてください」


 肝心なところは常にぼかす。こいつも扱いづらい相手だな。


「では、次回は簡単ではありませんので」

「もう勘弁して欲しいんだがな」

「世界の変革に必要ですからね。頑張ってください」


 そう言うと消えてしまった。

 相変わらずの半端な会話だ。何も分からない。

 義手は駄目になってしまったし、俺の服もまたもボロボロだし。ダンサンデトラーナに帰るとするか。

 アデラやカーリンが待ってるだろうからな。


 走る気力は無いから歩いて向かうが、やはり時間が掛かってしまう。

 もうひと踏ん張り、気合を入れて走るしかないな。


 力を込め地面を蹴り走ると、すぐにダンサンデトラーナに着く。

 門衛が俺を見て「何があった?」と聞いてきた。


「戦闘」

「いや、それは分かってるんだが」


 最初に太陽の如き光が発生し、次いで凄まじい熱を帯びた暴風が吹き抜け、耳をつんざく轟音が襲ってきたと。まるで見えない壁が当たったかのようだったと。

 その時点で死ぬかと思ったらしい。

 大袈裟だよなあ。距離はそれなりにあったから、被害を生じる程の威力は無いだろ。

 俺の魔法、とすると大騒ぎになりそうだし。


「魔法戦になってな」

「よく生きていたな」

「これでも一応スーペラティブだし」

「そうか」


 スーペラティブってのは、人間を超越してるんだな、とか言ってる。

 まあ何でもいい。


「とりあえず退けたから町は安全だ」

「そうか。助かったのか」


 門衛を置いて町に入りホテルに向かう。

 後ろから「ありがとうな」と声が聞こえた。

 町の中には兵士が多数居て警戒しているようだ。冒険者も待機しているようで襲撃に備えていたのだろう。

 もう終わったから警戒は解いても問題無いのだが。


「おい、そこの」


 面倒な。

 兵士が声を掛けてきて数人が取り囲む。


「何してる。お前の持ち場は?」

「なんだ? 戦闘前からボロボロじゃないか」

「戦闘は終わってる」

「は?」


 化け物は居ないと言っておいた。

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